近年、一人旅を楽しむ人が増える中、その旅行先としてダントツで人気なのが京都だ。そこで今回は京都の人気観光スポット嵐山を起点に、トロッコ列車や保津川の渓流下りも楽しめる、半日あれば十分楽しめる京都ならではの観光モデルコースを紹介しよう。

嵯峨野の竹林の道を歩く。竹の葉の擦れる音にも心癒やされる

紹介するコースは、嵐山の散歩を楽しんだ後、保津川の渓流沿いを走るトロッコ列車で亀岡まで行き、帰りは保津川の渓流下りで嵐山に戻る、およそ4時間ほどのコースである。京都のゆったりとした時間の中で自然を満喫できること間違いなし!

渡月橋から竹林の道への嵐山散歩

京都の中心部から嵐山に向かうには京福電車(以下、京福)か阪急電車(以下、阪急)を利用すると便利。そこで今回は阪急を利用した。京都の市街地にある阪急 河原町駅から阪急 嵐山駅までは、途中、阪急 桂駅での乗り換えを含めてもおよそ20分ほど。

改札を出たら、まずは渡月橋を目指して歩いて行こう。この嵐山のシンボルともいえる渡月橋の名は、鎌倉時代に亀山上皇が橋の上の空を移動していく月を見て、「くまなき月の渡るに似る」と例えたことから命名されたという。

嵐山のシンボル「渡月橋」。渡った先には土産物屋や飲食店がいろいろ

渡月橋を渡ると、その先には京福 嵐山駅がある。駅周辺には土産物屋や飲食店がたち並び、とてもにぎやか。

京福 嵐山駅前を通り過ぎ、天龍寺の門を左手に見ながら歩いて行き、野の宮バス停の手前を左折する。ここから先は、いかにも嵐山らしい竹林の道が続く。嵐山観光で絶対に外せない、風情あふれる散歩道だ。

竹林の道を5分ほど歩いて行くと、樹皮がついたままの木材を利用した、めずらしい黒木鳥居がシンボルの野宮神社に到着。『源氏物語』にも登場する歴史ある神社で、縁結びにご利益があるという。しっかりとお参りしたい。

トロッコ列車に乗って

野宮神社からさらに竹林の道を10分ほど歩いて行くと、嵯峨野観光鉄道 トロッコ嵐山駅に到着する。トロッコ列車は嵯峨野から保津川渓谷に沿って亀岡まで、7.3kmをおよそ25分で結ぶ観光列車である。トロッコ嵐山駅のホームで待っていると、始発駅のトロッコ嵯峨駅から、ディーゼル機関車に牽引されたトロッコ列車がトコトコやってくる。

嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車。ディーゼル機関車は絵になる

5両の客車のうちの1両は窓ガラスが外された超オープン車両「ザ・リッチ号」。せっかくならこの車両に乗って、保津川渓谷のダイナミックな風景を楽しみたい。

超オープン車両「ザ・リッチ号」の車内

筆者が訪れたのは5月の平日だったが、列車はほぼ満席状態。事前に予約可能なので、予約してから出掛けるのをオススメする。

馬車に揺られて保津川下りの船着き場へ

トロッコ列車の終点 トロッコ亀岡駅から保津川下りの船乗り場までは2kmほど離れている。バスやタクシーで移動する人が多いようだが、京馬車が運行する観光馬車に揺られての移動も、風情があって良い。

「京馬車」が運行する観光馬車。馬もまた愛らしい

北海道からやってきたというガッシリした馬がひく馬車は、保津川の河川敷の長閑(のどか)な砂利道を30分ほどかけて、船乗り場へと乗客を運んでくれる。

夏目漱石も楽しんだ保津川下り

保津川下りは長い歴史を持つ。山から切り出した木材を筏(いかだ)に組んで流したのが始まりといい、江戸時代には物資の輸送に使われていた。明治の中頃から観光客を乗せはじめ、文豪・夏目漱石も保津川下りを楽しんだという。

船を操る船頭は3人。中でも船首で長い竹竿を持つ船頭が、巧みな竿(さお)さばきで岩を避けていく様子は見ていて飽きることがない。

川下りは船頭の巧みな竿さばきと名調子の話に飽きることがない

基本的にはのんびりとした船旅だが、急流に差しかかると水しぶきが豪快に跳ね上がる。船に備え付けられているビニールシートで、服が濡れないように防がなければならない。

自然豊かな保津川渓谷は桜や新緑の季節も見事だが、圧巻は晩秋の紅葉。この辺りの紅葉は色づきが遅く、11月の下旬から12月上旬が見頃になる。また、夏の夜にはホタルが川面を舞う姿も見ることができる。

船からの景色を楽しんでいると、トロッコ列車が頭上をのんびり走って行き、乗客がこちらに手を振っているのが見える。ライオンの頭部に似た「ライオン岩」や、本のように見える「書物岩」などの奇岩を通り過ぎると、終点の嵐山はすぐそこ。売店船が横付けされるので、みたらし団子や焼きイカ、飲み物などを買い、船旅の最後のひとときを楽しむ。

売店船ではみたらし団子や焼きイカなどが販売される。こんなところで食べると一層おいしく感じる

川の水量や風向きによって所要時間は異なるが、およそ2時間の船旅は渡月橋のたもと付近の船着き場に到着して終了となる。

宿は四条通付近がオススメのわけ

さて、嵐山観光での宿の手配だが、もちろん嵐山の宿を予約するのもいいが、阪急で楽にアクセスできる河原町など四条通付近に宿をとるのがオススメだ。河原町なら、先斗町(ぽんとちょう)や祇園などの遊び場へのアクセスも楽だし、近くには"京の台所"と呼ばれる「錦市場」があり、買い物も便利である。

また、嵐山での食事は、京福 嵐山駅や渡月橋付近に蕎麦や湯葉の店など、多くの飲食店があるので事欠かない。

紹介したコースに、「常寂光寺」「落柿舎」「二尊院」などをめぐる奥嵯峨の散歩道を加えたり、渡月橋のたもとから観光人力車に乗ったりすれば、丸一日観光を楽しむことができるだろう。

※記事中の情報は2015年5月時点のもの

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。