5月27日に開催された「ワイヤレスジャパン2015」(リックテレコム主催)の基調講演に、インテル 常務執行役員 ビジネス・デペロップメントの平野浩介氏が登壇。「NFVで変わるネットワークの未来 ~モバイルビジネスの成長を支えるインテルの取り組み~」と題し、IoT(Internet of Things)を中心に大きな変貌を遂げようとしているネットワーク業界とインテルの取り組みについて説明した。

2020年までにデータ量は44ゼタバイトに

CPUベンダーとして知られるインテルだが、この数年はネットワーク機器やIoT分野での存在感が強めている。x86 CPUを搭載したルータやスイッチをはじめ、x86サーバ上で動作するソフトウェアスイッチやファイアウォール、AtomやQuarkを搭載する組み込み機器向け製品を展開。ハードウェアだけでなく、ソフトウェア分野でもMasheryによるAPIゲートウェイサービスなどを拡大させている。

インテル 常務執行役員 ビジネス・デペロップメント 平野浩介氏

平野氏は講演で、こうした同社の取り組みを整理しながら、ネットワーク業界をとりまく課題にインテルがどう応えようとしているか、それによってどんな将来像が描けるのかを解説した。

「人類が2013年までに生み出したデータは4.4ゼタバイト。2020年にはその10倍の44ゼタバイトのデータが生み出されると予測されている。IoTサービスやネットワークとクラウド基盤、デバイスサービスなどから、よりリッチなデータが生成されることが背景にある」(平野氏)

なかでも最近注目を集めているのがIoTだ。インテルでは自社のアセンブリ工場にセンサーを設置し、1時間あたり5TBの規模で生成されるデータをリアルタイムに分析している。この予防保全(Predictive Maintenance)により年間11億円のコスト削減を実現したという。また、シーメンスでは、インテルのMashery APIソリューションをスマートパーキングに適用し、駐車場所を探す時間を43%短縮した。

そのほか、サンノゼ市のスマートシティの実証実験でのリアルタイムモニタリングにインテルが協力したケースや、ビル管理会社Rudinが既存のビルにセンサーを設置し、エネルギー利用効率を高めることで年間1億2,000万円のコスト削減につなげたケースなどを紹介した。

IoTビジネス事例

IoTによりネットワークに接続するデバイスが急増

「IoTは黎明期でさまざまなケースが提案されている。それらを見ていると経済的効果が明確なものほど導入が進んでいることがわかる。あったらいい、お金がまわらないといったものはビジネスとして成立が難しい。テクノロジーとビジネス両方からの検討が必要だ」(同氏)

IoT関連ビジネスは、過去10年間にわたるコンピューティングパワーの進化による低コスト化が支えている。プロセシングは10年前の60分の1の価格で、ネットワークは10年前の40分の1の価格で、それぞれ同等の性能が実現できている。センサーの価格は2分の1にとどまるものの、今後の低価格化が期待できる。いずれにせよ、「技術、インフラ、市場価格があいまって市場が大きく伸びてきている」状況だ。

ネットワーク関連に目を移すと、ネットワークに接続するデバイスの急速の増加が新たな課題を生むことが予測されている。接続デバイスの数は、2006年が20億、2015年が150億であったものが、2020年には500億デバイスにまで拡大する見込みだ。

「接続デバイスが10倍になるとして、今のインフラのまま対応することは本当に可能か。ネットワークワークインフラとして対応デバイスを10倍することにチャレンジしていく必要に迫られている」(平野氏)

そのうえで、平野氏は、ネットワークをとりまく課題は大きく6つあると指摘。ネットワークアーキテクチャが固定化していること、迅速にサービスを提供する基盤が不足していること、ストレージを効果的に利用できないこと、システムがサイロ化していること、エネルギー管理が効率的でないこと、突発的に増えるトラフィックに対応できないことを挙げ、この課題を解決するための1つの解が、NFV(Network Function Virtualization)やSDN(Software Defined Networking)だとした。

現在のインフラストラクチャーの課題

ソフトウェア・デファインド・インフラストラクチャの4つのポイント

インテルでは、ネットワークを含めたこれからのインフラのアーキテクチャとして「ソフトウェア・デファインド・インフラストラクチャ」を提唱し、それを実現するための基盤を提供しようとしている。このインフラのポイントは、サーバ、ネットワーク、ストレージといったリソースを分解してリソースプール化し、アプリケーションが必要とするリソースとして再配分、運用管理をSLAなどの要件に応じて自動的に実施できるようにすることだ。

ソフトウェア・デファインド・インフラストラクチャの概念図

そのうえで、平野氏は、ソフトウェア・デファインド・インフラストラクチャを推進するためには4つのポイントがあると指摘した。それは、技術、標準化・オープンソース、エコシステム、ビジネスの4つで、「この4つの歯車が噛み合うことで新しいビジネスが創出されていく」と強調した。

1つめの技術については、ネットワークのエッジからバックエンド、セキュリティまでをカバーするテクノロジーを持つことがインテルの強みだとした。たとえば、Intel VT-XやVT-dといった仮想化支援技術、Intel Data Direct I/Oによる高速データアクセス技術は、ネットワーク機器にも生かされている。

また、Intel Quick Assistや10/40/100 Gbに対応したIntel Ethernet製品、Intel Ethernet Switch Siliconといった組み込み機器やスイッチ向け技術のほか、データ連携のためのIntel Quick Assist API、Intel Data Plane Development Kitといったソフトウェア技術も有する。

ネットワーク市場におけるインテルのイノベーション

2つめの標準化・オープンソースについては、標準化団体への積極的なソースコード提供を行っていることを挙げた。たとえば、ETSIへのNFV技術、OpenStackへのOpenStack Orchestration技術、cephへのDistributed Unified Storage技術などだ。このほか、Open DaylightやIETF、ONF、DPDK.org、Open vSwitchなどにもコードを提供している。

オープンソース、標準化の推進と積極的なソースコードの提供

3つめのエコシステムについては、インテル ネットワーク・ビルダーズ・プログラムというパートナー向けプログラムで協業関係を強化している。通信事業者やデータセンター事業者向けにツールやトレーニングの提供を行ったり、共同実験、共同ソリューション開発を行うものだ。2013年に発足し、現在135社のパートナーが参加する。今年末には175社の参加が見込まれているという。

インテル ネットワーク・ビルダーズ・プログラム

4つのめのビジネスは、NFV/SDNに関してこれまで30件以上のパイロット検証を実施し、いよいよ商用利用の段階に入ってきたことを紹介した。最新の通信事業者向けNFVのケースでは、x86サーバなどの標準ハードウェアを使い、機能に応じて自動でハードウェアがプロビジョニングされるような環境を実現できているという。

インテル ネットワーク・ビルダーズ・プログラム

最新の通信事業者向けNFVの導入イメージ

最後に平野氏は、「モバイル、スマートフォンが普及し、これからはIoTが市場を牽引していく。データ量、ネットワークトラフィックが10倍、20倍と拡大するなか、どんな価値を提供していくのか、どうお金を回していくのかは、大きなチャレンジだ。4つのキーを踏まえ、構成要素をうまくまわすことで、IoTビジネス全体を大きくしていきたい」と意気込みを語った。