半導体ベンダーのインフィニオン・テクノロジーズ(以降「インフィニオン」)は、昨年(2014年)8月20日に半導体ベンダーのインターナショナル・レクティファイアー(IR)を買収すると発表した。買収作業は今年(2015年)1月13日に完了し、同日付けで両社は一つの企業体に統合した。

統合前のインフィニオンの年間売上高(2014年9月期)は43億ユーロ(1ユーロを135円で換算すると約5,800億円)、従業員数は全世界で約2万9,800名であり、IRの年間売上高(2014年6月期)で11億米ドル(1米ドルを120円で換算すると約1,320億円)、従業員数は全世界で約4,200名。統合によって売上高が約7,000億円強、従業員数が約3万5,000名の大手半導体ベンダーが誕生したことになる。

統合前のインフィニオン・テクノロジーズとインターナショナル・レクティファイアー。出典:インフィニオン・テクノロジーズ

統合前のインフィニオンは、マイコンや車載半導体、パワーデバイス、センサー、高周波デバイス、スマートカード用半導体などを手がける総合半導体ベンダーであり、日本だとルネサス エレクトロニクス、米国だとフリースケール・セミコンダクタが、イメージが重なる。これに対して統合前のインターナショナル・レクティファイアー(IR)はパワーデバイス専業の半導体ベンダーとして従来から知られていた。半導体業界全体における知名度こそインフィニオンに比べて低いものの、パワー半導体の世界における技術力はトップクラス。シリコン技術はもちろん、パッケージ技術でも独自開発の優れた要素技術を擁していた。両社が統合することは、自動車や電源などの応用分野で非常に強力なパワー半導体サプライヤが誕生することを意味する。

パワー半導体は本来、アナログ半導体に分類されるが、最近はデジタル技術の取り込みが進んでいる。マイコンでパワー半導体を制御したり、通信ネットワークを介してパワー半導体を制御したり、デジタル制御理論によってパワー半導体を駆動したりすることが、もはや当たり前になってきたのだ。パワー(アナログ)とコントロール(デジタル)と通信(デジタル)、以上3つの融合が、半導体ベンダーの将来を左右するといっても過言ではない。その意味ではインフィニオンとIRの双方にとって、この事業統合はメリットがあるといえよう。

パワー(アナログ)とコントロール(デジタル)と通信(デジタル)の融合が、われわれの身近なところで起きている。出典:インフィニオン・テクノロジーズ

窒化ガリウム(GaN)FETで電源の品質と効率を向上

5月20日~22日に千葉県の幕張メッセで開催された展示会「TECHNO-FRONTIER 2015」に、両社は共同で出展した。両社が合同で展示ブースを構えるのは、これが初めてである。

展示会「TECHNO-FRONTIER 2015」でインフィニオン テクノロジーズとインターナショナル・レクティファイアー(IR)が共同で出展したブースの外観

注目の展示は、次世代のパワー半導体材料として期待される「窒化ガリウム(GaN)」を使用したFETの応用事例だ。従来のパワー半導体材料であるシリコン(Si)に比べるとGaNは、「耐圧が高い」「高周波・高速で動作する」といった特徴を有する。

応用事例として展示ブースでは、オーディオ機器のD級アンプと、サーバー用スイッチング電源の試作品を出品。D級アンプに載せたのはカスコードモードのGaN FETで、Si FETに比べると原音再生の忠実度がはるかに向上し、THD(全高調波歪率)が低下する。こちらはすでに製品化されている。

サーバー用スイッチング電源には、新しく開発した600V耐圧でエンハンスモードのGaN FETを搭載した。2.5kW級の出力がありながら、1kW級のスイッチング電源並みに小型化できたという。

なお、GaN FETはカスコードモードが製造しやすく、エンハンスモードは技術的に実現が難しい。両タイプのGaN FETを擁するのは、現段階ではインフィニオングループだけだと同社は主張した。

GaN FETを搭載したオーディオ用D級アンプ

GaN FETを搭載したサーバー用スイッチング電源

バッテリ駆動機器向けの小型パワーMOS FET

シリコンのパワーMOS FETについても展示ブースでは出品されていたが、中でもバッテリ駆動機器への応用例を展示したコーナーが目を引いた。ハンディクリーナーや電動ドリルなどを実物展示していたが、例えばダイソンのハンディクリーナーにはIRのパワーMOS FET「IRFH5300」が採用され、クリーナーのブラシレスDCモーターを駆動しているという。「IRFH5300」は外形寸法が5mm×6mmと小さいにもかかわらず、100Aと大きな電流を許容する。オン抵抗は1.4mΩ、ドレインソース間電圧は30Vである。

バッテリ駆動機器への応用例。家電機器や電動工具、ドローン(マルチコプター)、小型電気自動車などがある

パワーMOS FETを採用したハンディクリーナーの実物展示。ダイソンの製品

PMBusを付加した小型POL電源モジュール

このほかに展示ブースでは、POL(Point Of Load)電源機能にPMBusを付加した新製品「IR3806X」もアピール。ザイリンクスのFPGAファミリ「Kintex/Zynq」に電源を供給することを想定し、IR3806Xシリーズを利用する様子を模型で展示していた。FPGAのコア電源やIO電源などの個別の電源電圧ごとに、IR3806XシリーズでPOL電源を組む様子を見ることができた。

ザイリンクスのFPGAファミリ「Kintex/Zynq」に電源を供給する模型。左がIRの電源モジュール