敬虔な仏教徒が多いミャンマー。人々が信じる上座部仏教は輪廻転生思想が基本となっており、生前に積んだ功徳の量で、来世が決まるとされています。功徳は日々の生活の中で積んでいきますが、僧侶に袈裟を寄進したり出家したりすれば得られる功徳が多いと信じられています。こうした暮らしの中で大きな役割を果たすのが、袈裟や仏具を扱い、得度式(出家の儀式)の準備もしてくれる仏具店。今回は、ミャンマーの仏教信仰の中心地シュエダゴン・パゴダの参道で、仏具店を経営するアウンさんにうかがいました。

アウンさん/ミャンマー・ヤンゴン在住/55歳/仏具店経営

■これまでのキャリアの経緯は?

この場所で仏具店を始めたのは両親です。物心ついた頃には仕事を手伝っており、小学校時代も放課後は店番をしながら宿題をしていました。寝起きして朝食をとる自宅はあるものの、両親は朝7時に店を開けて夜9時に閉めるまでずっと店におり、私たち子どもが昼食を食べに帰るのも放課後に勉強するのも店。夕食も家族みんなで店で食べていました。ですから、卒業後も何の疑問も持たずに店を継いだんですよね。子どもたちも私同様、多くの時間を店で過ごしています。

店から少し離れたところに工場があり、そこでは袈裟を作っています。店で売る以外に、地方も含め他の仏具店にも卸しています。袈裟以外の仏具は他店から仕入れ。出家のための得度式の衣装も扱いますが、こちらは販売だけでなくレンタルもしており、式に必要な楽団や車の手配も受注。両親の代に比べヤンゴンの人口が増えたこともあって商売の規模は大きくなりましたが、やっていることは何十年も全く変わっていません。

上から吊ってあるのは得度式用の衣装の飾り

僧侶に寄進する袈裟セット

■現在のお給料は以前のお給料と比べてどうですか?

他の仕事のことはわかりませんが、子どもたちを大学へもやれましたし、とびきりの贅沢を望まなければ十分満足できる額を得られています。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

うちは主に家族で回している小さな店ですから、大型店よりも価格がリーズナブル。限られた予算内でできるだけ立派な得度式をしたいという親御さんの相談にのることも多く、うまくアレンジでき大変喜んでいただけると、自分のことのように嬉しいです。

そもそも、寄進や出家など人びとが功徳を積む際のお手伝いをするわけですから、普通に仕事をしているだけで私まで功徳を積むことができます。これが他の仕事との大きな違いで、何より誇りに思っています。

お札で作ったお供え

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

ミャンマーでは1年に数回、特にパゴダ(仏塔)や僧院への寄進が集中する時期があります。在庫を抱えるにもスペースの問題がありますから、袈裟の生産や仏具の仕入れなどをうまく調整するのに苦労しています。

得度式も4月の長期休み前に集中しますから大変です。懇意にしている僧院では、多いときで500人以上が参加する得度式を執り行うので、そういった大規模な式では仏具や装飾品を納品するだけでなく、着付けなどのお手伝いもさせていただきます。目の回る忙しさですが、全員が無事得度されるのを見るのは感慨無量なものです。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

昼食と夕食は家族と従業員全員分をお手伝いさんが家で準備し、アルミの段重ね弁当に入れて店へ届けてくれます。今日の昼食メニューは豚の角煮と魚カレー、キャベツ炒め、空芯菜の辛味炒め、干し魚のふりかけ、魚の発酵ソース「ガピ」です。これらをごはんにかけて食べます。

右端から時計回りに、干し魚のふりかけ、魚カレー、空芯菜の辛味炒め、キャベツ炒め、豚の角煮、ガピ

■休みのとりかたは?

休みはありません。でも店が自宅の居間のようなものですから(笑)。家族もいつも店にいますし。日中も休憩を挟みながらなのでそれほど苦にはなりません。

■日本人のイメージは? あるいは、理解し難いところなどありますか?

外国人と接する機会がほとんどなく、テレビもあまり見ないので、日本人についてほとんど知らないんですよね。仏教徒が多いというのも、今聞いて知ったくらいで。でも、私たちの仕事に興味を持っていただけたらとても嬉しく思います。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

数年前の地震については聞き及んでいます。どんなに発展した国でも、天災からは逃れられないのですね。

■将来の仕事や生活の展望は?

他の場所にも支店が出せればいいな、とは思っています。娘が4人いますが、上の2人は各々、軍人と医者に嫁ぎました。あとの2人のうちどちらかでも店を継いでくれればよいのですが。でも強制はしないつもりです。

ミャンマーきっての聖地シュエダゴン・パゴダ