画像編集ソフトウェアの先駆け製品であり、主流製品でもある「Adobe Photoshop」。1990年に発売されてから、今年25周年を迎えた。日本で開催される記念イベント「INSIDE PHOTOSHOP Photoshop 25th Anniversary Exhibition」に合わせて、生みの親の1人であるトーマス・ノール氏が来日し、Photoshopを生み育ててきた思いと、次の新バージョンに加えられる新機能について、豊富なデモを駆使して熱く語った。

トーマス・ノール氏。会場で「もしもPhotoshopでひとつの機能しか使えないとすれば、何を選ぶか」と質問されて、「コピースタンプツールの機能が好き。初期バージョンのときから愛用してきた」と語った

「開発する人」が「使う人」

印刷用DTPから、ファッション写真、映画制作、Webデザイン、モバイルアプリ制作、そして3Dプリントと、クリエイティブの世界を大きく広げてきたPhotoshop。その魅力のひとつは、クリエイターを感覚的に刺激する高度で革新的な機能が、誰でも気軽に使いこなせることだ。

トーマス・ノール氏が語るPhotoshopの歴史を聞いていると、画像編集をする人が自分でほしいツールを開発し、さらに、自分が開発したツールをずっと楽しく使い続けてきた25年間(前身を含めると27年間)であることに気づく。

トーマス・ノール氏は、11歳のクリスマスに、ARGUSの本格的なカメラをお父さんからプレゼントされ、写真の現像も自分でやるようになった。これが出発点だ。長じて、ミシガン大学時代には、コンピュータビジョンの学問領域を専攻。重なったり、向きが異なったりする画像をいかにしてコンピュータに正確に認識させるかというアルゴリズムを研究した。また、画像から輪郭を抽出してコンピュータに認識させるツールも、博士課程の学生時代に自分で開発した。

一方、弟のジョン・ノール氏は、映画制作会社でカメラオペレータとして働くなかで、やはり画像をコンピュータ処理することの重要性に気づき、さまざまなトライを重ねていた。トーマス氏が開発したツールをジョン氏へ提供し、ジョン氏がリクエストをフィードバックすることを繰り返すうちに生まれた1本のアプリケーションが、Photoshopの初期バージョンだ。

トーマス氏とジョン氏の兄弟は2人で会社を興し、さまざまな会社を訪れてPhotoshopをデモし、売り込んだ。興味を持ち、契約したいと手を挙げたのがアドビ社だ

1989年にアドビがPhotoshopに関する権利を買い取り、1990年、Photoshop Version1.0が発売された。その後もトーマス氏は、Photoshopとその関連製品の開発に従事して、Photoshopを使い続けてきた。

トーマス氏は"自称"「アマチュア写真家」であり、アフリカ、ヨーロッパ、中国、日本、イースター島、インド、南極など、地球上のあらゆる場所を回り、人や風景や文化や空気を撮影してきた。デモで次々に映し出されたトーマス氏の作品は、いずれもコントラストが明確で、輪郭がくっきりと印象的だ。

25年も生き続けている多くの機能

Photoshopには、初期バージョンから生き続けている機能がたくさんある。たとえば、レベル補正ダイヤルは、トーマス氏が子どもの頃に暗室での現像で苦労してきた経験がダイレクトに反映されているという。「黒を黒に、白を白に表現するのは非常に難しい。露出を変えたり、コントラストを修正したりするが、なかなかうまくいかない。そこで、発明したのがレベル補正ダイヤル。ひとつのダイヤルで白、別のダイヤルで黒、それぞれ独立して調整できるようにしたんだ」とトーマス氏は紹介した。

このほか、コピーペーストした画像部分を元画像の背景に置くこともできるフローティング機能、RGBチャンネルの個別調整機能、ぼかし(ガウス)、そして、トーマス氏が学術論文のために開発した輪郭を認識する機能も、初期バージョンから現在に至るまで搭載され続けている。

「黒を黒に、白を白に」表現するために、レベル補正のインタフェースを発明した

もちろん、25年間で大きく変わったものもある。最大の変化は、Photoshopを使うためのハードウェア環境だろう。1990年当時は、画像を取り込むスキャナも、Photoshopが稼働できるスペックのMacintoshも高価だった。印刷のための画像出力にも、1枚ごとに1,000ドル単位の料金がかかった。そのため、当時はPhotoshopという名前でありながら、「写真家のためのツールとは、とても言えなかった」とトーマス氏は肩をすくめる。

現在では、iPhone、iPad、Android搭載端末など、小型の携帯端末でもPhotoshopの機能を搭載したモバイルアプリを使うことができる。しかも、Adobe Photoshop CC、Adobe Camera Raw、Adobe Lightroomという3種類のクリエイティブツールをすべて使えるクラウドサービス「Adobe Creative Cloud」が、月10ドル(日本円980円)だ。トーマス氏は、初期のPhotoshop1.0が単製品で795ドルだったことを引き合いに出し、その状況の変化を強調した。プロフェッショナルでなくとも、学生でも子どもでも、画像を編集して自己表現できる環境を、Photoshopは先駆者として切り拓いてきたのだ。

写真のワークフロー1990年版(左)、写真のワークフロー2014年版(右)。画像編集のワークフローは、25年間で、格段に進化した

トーマス氏直々に、Photoshop1.0をエミュレーターで立ち上げてデモを実施。選択範囲をコピーアンドペーストすることが当時としては画期的で、聴き手は必ず驚きの声を上げたという

将来搭載される新機能は「霧、カスミ」を除去するマジック

そして、サプライズとして、次期バージョンで搭載される新機能を、搭載に先駆けていち早く紹介する時間が設けられた。今回の25周年記念イベントには、Adobe Camera Rawのエンジニアリングチーム―トーマス氏に加えて、マックス・ウェンデト氏、ジョシュア・バリー氏、エリック・チャン氏の合計4人―が来日したのだ。その中でエリック・チャン氏が前に進み出て、新機能を紹介した。

新機能は、DeHaze、つまり、霧除去技術である。Photoshop製品のDeHaze(デヘイズ)は、スライダーを動かしていくだけで霧を除去して画像をくっきりと際立たせることができるし、逆に、霧を付加していくこともできる。

Photoshop製品の次期バージョンで加わる新機能は「DeHaze」、つまり、霧除去と霧追加の機能だ

新機能の日本語名はまだ決まっていない。機能は、霧・カスミを除去するだけでなく、追加もできるというもの。正式発表はまだこれからということだが、次期バージョンのAdobe Camera Rawと、Adobe Lightroomに搭載される見込みである。

トーマス氏はじめ、Adobe Camera Rawのエンジニアリングチームの4人が来日。Photoshop関連製品の魅力をアピールした