COOL Chips XVIIIの記事一覧はコチラ

COOL Chips XVIIIにおいて、Intelは14nmプロセスで製造するCore Mプロセサ(開発コード名:Broadwell-Y)の電力管理について発表した。携帯機器への使用をターゲットするプロセサでは、ファンレスの動作や電池の寿命が重要なファクタであり、電力管理は重要な技術となっている。また、電力管理で低電力化することは、元と同じ電力を使えばより高い性能が得られるので、高性能化にも寄与する。

Broadwellの電力管理について発表するIntelのAnant Deval氏

アクティブ状態での電力管理

電力管理を考えるときには、供給可能な電力を超えないようにしなければならない。また、発熱が大きすぎると、チップが過熱して壊れてしまう恐れがあり、チップ温度の上限を超えないようにする必要がある。

次の図でPL1/TDPと書かれているのは、この電力で継続的に動作させてもチップが過熱しないという最大電力である。PL2はVR(安定化電源:Voltage Regulator)自体の過熱やタブレットやラップトップPCの筐体などが過熱しない限界の電力値、PL3はバッテリが供給できる最大電流(とその時の供給電力)である。

クロックを引き上げるターボブーストをどれだけの期間継続できるかは、これらのPL1、PL2、PL3の値で決まる。なお、これらのPL1~PL3の値は温度に依存して変わる値であり、固定の値ではない。

そして、Iccmaxというのは安定化電源が供給できる最大電流(電力)である。この値は電源の相数や使用するコイルの磁性体が飽和する電流などで決まる。

発熱と電力供給の制約

次の図の横軸は時間で。縦軸は電力(赤線)と温度(青線)である。パワーオン直後は23℃くらいと温度が低いのでPL1の値が引き上げられており、13W程度の電力で動作をさせている。しかし、TDPが5W以下のチップであるので、急速に温度が上がり、1の時点でPL1の制限に引っかかり、通常動作に移行する。そうすると、消費電力は8Wに下がるが、まだ温度が高いので、その後も徐々に電力を下げて行く。

そして温度が45℃程度に達すると、5~6W程度での動作を続ける。そして2の時点で、まだ、温度が高いということで低電力動作に移行している。この時の電力は0.5~2W程度である。

低電力動作のため、3の時点で温度が下がると、4でPL1の制限値が引き上げられ、ターボ動作に移行する。しかし、5でケース温度が上がったという理由でPL2の制限に引っかかり通常電力動作に戻っている。

この電源電圧、クロックの移行は、プロセサチップの中にある電源制御用の32bitマイクロコントローラで実行されるファームウェアが制御している。

このように、Broadwellプロセサは、温度センサからの信号でPL1の値を調整することにより、環境に応じて、最大の性能が得られるようになっている。

最高の性能を引き出すためにPL1の値を温度に応じてダイナミックに調整する

Broadwellは、CPUとGPUを1つのチップに集積している。そのため、電力やメモリバンド幅をCPUとGPUで分け合うことになる。CPUがビジーな時はCPUに電力やメモリバンド幅を多く割り当て、描画処理がビジーな時にはGPUに多く割り当てれば、全体として処理時間を短縮でき、性能が上がる。

両者の負荷がバランスしている場合は、ターボブーストの余裕は均等に配分されて、両者のクロックを同じ比率で引き上げるが、CPUヘビーの処理の場合は、次の図の直線の傾きを寝かせて、CPUのクロックは大きく引き上げ、GPUのクロックの引き上げは小さくする。GPUヘビーな処理の場合は、その逆に直線を立てるように調整する。

この傾きは、GPUドライバが動作状態をモニタして負荷の性質に応じて調整する。

BroadwellプロセサはCPUとGPUが同一チップに搭載されているので、動作状況に応じて、CPUとGPUに配分する電力やメモリバンド幅を調整する

GPU側の負荷が低い場合は、電源電圧とクロック周波数を落として、消費電力を下げるが、いくら負荷が低くても、回路の動作限界の電圧(Vmin)より電源電圧を下げることはできない。このため、限界以下の負荷状態では効率が低下してしまう。

これに対してBroadwellではクロックのデューティサイクルを変えている。具体的には必要な処理性能になるようにクロックを間引いていると考えられる。下のグラフは縦軸がグラフィック性能、横軸が消費電力であるが、間引きを行わない場合(○)は5W以下ではグラフィック性能の低下が大きいが、間引きを行う(×)と全域で電力に比例したグラフィック性能が得られ、低負荷時の消費電力を低減できる。

GPUでも低負荷時には電源電圧とクロックを下げて低電力化を行うが、回路が動作する下限の電圧以下には下げられない。このため、低負荷時には電力効率が低下してしまう。これに対して、Broadwellではクロックのデューティサイクルを下げることで、電力と性能の比例関係を保っている

(後編は5月22日に掲載します)

COOL Chips XVIIIの記事一覧はコチラ