マーケティングにおいて重要とされている「ペイドメディア」「アーンドメディア」「オウンドメディア」という三つの柱。それぞれ手法も目的も異なるが、本稿では「オウンドメディアの価値と効果」について、改めて考えてみたい。

オウンドメディアは、紙媒体やWebサイト等で継続的に情報を発信し、読者との長期的なエンゲージを獲得することを目的とする、いわば土台から作り始めるマーケティング手法だ。即時的な効果が得られにくいことや、コンテンツを作り続ける体制が必要なため、企業にとってある程度の負担があることを覚悟する施策でもあるが、成果を挙げる企業も増えている。

今回は、スキンケア商品「プロアクティブ」などのコスメ用品の通信販売を行うガシー・レンカー・ジャパンが、短期間で具体的な成果を上げたことで注目される、ニキビに関する情報サイト「ニキペディア」の運営について関係者に取材した。

ガシー・レンカー・ジャパンが運営するオウンドメディア「ニキペディア」イメージ

「お客様の情報の取り方に置いて行かれる」

今回お話しをうかがったのは、ガシー・レンカー・ジャパン デジタルマーケティング部 シニアマネージャーの藤原尚也氏と、同サイトにコンテンツレコメンデーションプラットフォームを提供するアウトブレイン ジャパン 社長の嶋瀬宏氏だ。

ニキペディアが開設されたのは2014年2月。ニキビに関するさまざまな情報を掲載するWebサイトとして、ガシー・レンカーの通販サイトとは完全に切り離す形で立ち上げられた。同サイトは、1年余りで月間40万UUを達成したほか、通販サイトでのコンバージョン(CV)率が平均2.5%という驚異的な数字を上げるほどに成長した。

では、どのような取り組みがこうした成果につながったのだろうか。

ガシー・レンカー・ジャパン デジタルマーケティング部 シニアマネージャーの藤原尚也氏

藤原氏がネット上におけるユーザー行動の変化に気付いたのは2011年頃。タレントを起用したテレビCM中心の従来型のマーケティングが通用しにくくなったと感じていたという。同時に、それまでほぼ相似形を保って推移していたGoogle検索における「ニキビ」と「プロアクティブ」の検索ボリュームが、その頃を境に差を広げ始めたのだ。

「本当にニキビに悩んでいる人たちは、違うソリューションを求めて検索しているということが分かりました。お客様の情報の取り方についていけてないんだなと痛感しましたね」(藤原氏)

それと同時に、検索量の差分に当たる層――「プロアクティブ」ではなく「ニキビ」で検索するユーザーは、顧客となり得る可能性を持っているとも考えられた。「ニキビ」で検索するユーザーに情報を届けるためにはどうしたら良いか。藤原氏は、ガシー・レンカー本社が米国で始めていた「ACNE.com」をヒントに、別ブランドで情報提供を行うオウンドメディアの立ち上げを企画した。しかし、ひとつ米国とは大きく方向性を変えた部分がある。

米ガシー・レンカーが運営する情報サイト「ACNE.com」のイメージ」

「米国のサイトは、製品とは別のブランド名で立ち上げながらも、記事内容では"いかに自社の商品が素晴らしいか"を訴えている。そうではなく、さまざまな選択肢がある中でお客様が自分の意志で選ぶことが、これからのデジタルメディアのトレンドとしてベターだと考え、立ち上げの際には"絶対にプロアクティブを勧めないこと"を徹底しました」(藤原氏)

自社商品を勧めないオウンドメディア

ニキペディアで記事を書いているのは、同社に勤める一般の女性社員。専任は配置せず、全員が通常の業務をこなしながら執筆している。

藤原氏がライター陣に求めることは、「純粋に自分がニキビで悩んでいたら何が知りたいか、思ったことを素直に記事にしてほしい」ということだ。マーケティングのセオリーや文章のテクニックよりも、実感や生活感覚が伴う内容であることを重視する。その範囲においてテーマ選びは自由だが、執筆に当たっては条件が2つある。

「1つは、ネットの情報を使わないこと。正確な出典を書籍で調べたり、社内で契約するスキンアドバイザーや皮膚科医に相談するなど、本当に自分で悩んで自分で答えを出して書くことを徹底してもらいました。もう1つは、記事1本ごとに検索キーワードを決め、どんな人がどんな状況で検索してその記事を見に来るのか、ペルソナを細かく想定し、スタッフに回覧して全員が納得してから書くということです」(藤原氏)

悩んでいる人にとってそれが本当に良いコンテンツになっているのかということを、検索する心理から追求しようという考えだ。

また、執筆する段階においては検索の入り口からコンバージョンまでのファネルを想定。「漠然とニキビで悩んでいる人」か「なんとなく自分のニキビの原因がわかってきた人」「商品情報に触れて購入を検討し始めた人」という3段階のうち、どの層に向けて伝えるのかを明確にイメージして記事を執筆してもらう。こうした努力により、ほとんどの記事が公開から一カ月程度で、狙ったキーワードのファーストページに表示されるほどSEO効果を挙げている。

当然ながら、この方法でコンテンツを作るには相応の時間と労力がかかる。通常業務を行いながらでは企画した記事が予定通り進まないこともあるが、「量より質を重視する」と藤原氏は話す。

「漠然とニキビで悩んでいる人」か「なんとなく自分のニキビの原因がわかってきた人」「商品情報に触れて購入を検討し始めた人」という3段階のファネルを想定

そしてニキペディアで特徴的なのが、競合となる他社の商品を"普通に"記事で取り上げていることだ。良い点・良くない点の比較ではなく、まったくのユーザー視点で実際に商品を試して特徴を紹介している。

「いくつもの選択肢から何が良いのかを判断するのはお客様であって、僕らではない。選べるようにすることで、お客様が自分で考えて自分で納得して買ってくれる。納得して買えばきっとその商品が好きになるし、継続して使うと思うんです。価格よりも商品に魅力を感じて買ったなら、理解度も高く継続率も高くなるはずです」(藤原氏)

見えてきた課題とそのソリューション

運営開始からしばらくすると、記事数の増加につれて徐々にPVが伸びていく一方、課題も見えてきた。検索から記事へ直行するユーザーが多いために、ファネル入り口から商品理解を経由しCVするまでに非常に時間がかかっていたのだ。訪問者が自分で理解を深め、自分で判断するためには、サイト内を回遊してもらうことが必要だと考えた藤原氏は、アウトブレインのレコメンデーションツールに目をつけた。

アウトブレイン ジャパン 社長の嶋瀬宏氏

米アウトブレインは、独自のアルゴリズムに基づくレコメンドエンジンにより、読者とメディアを結ぶプラットフォームを提供する企業。2013年に日本法人を設立し、2014年4月より営業開始した。

アウトブレイン ジャパンの嶋瀬氏は、藤原氏からの要望に応えフェーズ1から3まで3段階でのツール導入を提案したという。

フェーズ1は、同社の持つメディアネットワークにおいて読者に最適化したレコメンド記事を表示させ、トラフィックを送る「Outbrin Amplify」の導入。「SEOに関しては、すでに最適化されていた」(嶋瀬氏)という同サイトにおいて、検索以外の方法で訪問者を増やすことを目的とした。

フェーズ1 : パーソナライズした記事をレコメンドし、トラフィックを送る「Outbrin Amplify」、その導入の効果

フェーズ2では、読者が関心を持つ可能性が高い記事をオウンドメディア内でレコメンドするウィジェット「Outbrain Engage レコメンデーションエンジン」を導入。サイト内の回遊を増加させ、より深く理解してもらうことを狙った。

フェーズ2 : 記事下などで読者の関心が高そうなコンテンツをレコメンドするウィジェット「Outbrain Engage レコメンデーションエンジン」、その導入の効果

「アウトブレインの提供価値は、認知の部分にあります。例えば、豆乳はニキビに効くのかという記事ならば『豆乳』と『ニキビ』の関連を知らなくては検索ができません。私たちが匿名読者の閲覧履歴などを基に、興味を持つだろう記事をプッシュすることで、検索で訪問しない層に認知を広めることができます」(嶋瀬氏)

同サイトが想定するファネルでいえば、フェーズ1は間口を広げ、フェーズ2はステップの進行を促進する役割を果たしている。

さらにフェーズ3として、ページの途中からトップに戻った際にレコメンド記事を表示する「Top Box レコメンデーション」を導入。記事を開いたものの求めていた内容と違った場合に、方向性の異なる記事をサジェスチョンして離脱を防ぎ、さらなる回遊を促す狙いだ。段階ごとに明確な目的をもって導入した施策が、合理的な成果を上げている。

比べることで納得して買ってもらうことの価値

興味深いことに、アウトブレインの導入後の効果測定において最も反応が高く、CVにも結び付いているのが、競合商品を紹介する記事だという。藤原氏の狙った「プロアクティブ」以外の検索ワードでサイトにやってきたユーザーの入り口として、競合商品の記事が成果を上げている格好だ。

「弊社の商品は、1回買ってもらえば終わりではなく、定期的に使い続けてもらうことが非常に大切です。商品を一層理解してもらうためには、売る側が"いいでしょ"とアピールすることはあまり良くないと思っていて。あえて競合も肯定的に書くことで、お客様がさまざまな方向から比べられるようにしようと考えました」(藤原氏)

競合商品を紹介する記事のイメージ。同記事では、オロナインを実際に使用し、効果があったことをレポートしている

価値あるオウンドメディアを作るために、良質なコンテンツの提供は不可欠だが、最終的な目的はそこではない。ニキペディアは、1ユーザーがCVに至るまでの"文脈"を、最後まで丁寧に作ることが大切だと気付く事例と言えるだろう。

藤原氏は「短期間でここまで成長できるとは想定していなかった」と振り返る。書き手の社員も自分たちの記事によって成果が出ることに手ごたえを感じ、より検索ボリュームの多いキーワードをターゲットにしたり、PVの伸び悩む記事はリライトをするなど、積極的に参加しているようだ。

なお、今後は、ユーザーとのより深いコミュニケーションを目的に新たな施策を準備中だという。ニキビに関する検索需要全般を取り込むことを燃料に、読者に響くコンテンツと理解を促すシステムを両輪として、ニキペディアの快走が続きそうだ。