元フィギュアスケート選手の澤田亜紀さんが、世界国別対抗戦に出場した日本人選手の演技をチェック

2014-2015シーズンの世界ランキング上位6か国による、フィギュアスケートの世界国別対抗戦が4月19日に閉幕した。

「男子シングル」「女子シングル」の各2名と「ペア」「アイスダンス」の各カテゴリーで得たポイントの合計で順位を決める今大会。日本は合計103ポイントで3位に終わった。1位は110ポイントのアメリカ、2位は109ポイントのロシアだった。

日本からはシングルには羽生結弦選手、無良崇人選手、村上佳菜子選手、宮原知子選手が出場。ペアには古賀亜美、フランシス・ブードロ・オデ組が、アイスダンスにはキャシー・リード、クリス・リード組がそれぞれ出場した。

エース・羽生選手はショートプログラム(SP)とフリーで共に1位となり、一人で24ポイントを獲得する活躍を見せた。他の選手たちも各々健闘はしたが、その演技は元選手の目にどのように映ったのだろうか。

四大陸選手権4位などの成績を収め、現在はコーチとして活動する元フィギュアスケート選手の澤田亜紀さんに、シングルに出場した選手の演技について解説してもらった。

無良選手、村上選手、宮原選手のSP&フリー

無良選手

「SPでは細かいミスはありましたが、無良選手らしい大きなジャンプが帰ってきたのではないでしょうか。フリーでも、冒頭の4回転トゥーループで両足着氷になった以外は目立ったミスもなく、見事に『オペラ座の怪人』の主人公・ファントムを演じきったのではないかと思います」。

今大会は日本のキャプテンとして、皆をまとめる役も担った無良選手。澤田さんは、演技にもメンバーを引っ張っていこうという姿勢が感じられたと話す。

「演技後半は疲れが出てスピードが落ちることもありますが、今回は後半になるにつれてスピードが出てきた感がありました。日本チームのキャプテンとしての責任も果たせたのではないかと思います」。

宮原選手

「SPでは冒頭に珍しいミスがありましたが、後半のジャンプで見事にリカバリーができました。SPではジャンプコンビネーションが必須要素となっているため、もしリカバリーができていないと大きな損失になっていました。冷静に対応できたのも、万が一に備えて日ごろからきちんとシミュレーションをしているからだと思います」。

全日本選手権優勝、世界選手権2位という実績を引っさげて今回初出場を果たした宮原選手。SPは6位ながらもフリーでは僅差(きんさ)で3位になるなど、高い実力を見せつけた。

「フリーでは持ち前の体力を生かし、後半のダブルアクセル-3回転トゥーループを2つとも成功させ、大きな得点源となりました。基礎点が1.1倍になるところで要素を行ったうえ、加点がつく非常にいいジャンプでした。スピンなどもすばらしく、『できるものをより質の良いものに』と、コツコツ積み重ねてきたことがきちんと評価されていたという印象です」と澤田さんは称(たた)える。

村上選手

「SPは大きなミスもなく、見事に『オペラ座の怪人』のヒロイン・クリスティーヌを演じ切りました。気持ちよく曲に乗せてステップも踏めており、村上選手らしさがしっかりと出た演技だったのではないでしょうか」。

SPは5位発進となり、演技後は持ち前の「佳菜子スマイル」も出ていた村上選手。ただ、フリーは予定してた3回転フリップが1回転になってしまうなどのミスがあり、スコアを伸ばせず。6位に沈み、演技後はチームメートに申し訳なさそうな表情を見せた。

「フリーでは中盤に少しミスが出てしまい、すごく悔しい内容になってしまったと思います。しかし、ミスを終盤まで引きずらず、途中で気持ちが切り替えられたことは、よかったところではないでしょうか。上位選手の引退により、この1年は『自分がみんなを引っ張っていかないと』という気持ちで、とても苦労したはずです。ただ、少しずつ苦しみから抜け出せているのではないかと感じますし、気持ちの面でも成長できた1年になったのではないかと思います」。

来シーズンも日本人選手たちの活躍に期待

今回の3位という結果には、少なからずペアとアイスダンスの影響があったといわざるを得ない。どちらの種目もショートとフリーで6位に終わってしまったからだ。澤田さんはその遠因として、競技人口の少なさがあるのではないかとみている。

「日本選手はシングルのスケーターが多く、野辺山合宿などを経て仲間同士で切磋琢磨(せっさたくま)し、世界のトップに立つようになってきました。その一方で、日本チームはアイスダンス・ペアの競技人口が少ないことが指摘されていました。今回上位に入ったチーム(カナダなど)はどちらも競技人口が多く、カテゴリー内で競い合ってここまできた選手が多いです」。

国内に代表選手が少ないということは、それだけ競い合う機会が限定されることを意味する。国際大会などの大きな大会が、課題発見の場になるというケースも少なくないという。

両種目は今後も日本フィギュアスケート界の課題となってきそうな感がある。ただ、そういった現状を打破するための若い力も少しずつ増え、着実に成長してきていると澤田さんは話す。

「最近はペア・アイスダンスをやりたいという選手が増え、昨年末の全日本選手権は7組のカップルが出場していました。また、新たにペアを始めようとしている選手たちもいます。シングルだけではなく、ペア・アイスダンスの競技人口も増えていけば、自然とチーム全体が強くなっていくのではないかと思います」。

「フィギュア大国」と称されることもあるロシアやアメリカと、肩を並べるぐらいにまできた日本。この2か国に追いつき、追い越すための機は熟しつつあるようだ。来シーズンの日本人選手たちは、今シーズン以上に刮目(かつもく)に値しそうだ。

写真と本文は関係ありません

取材協力: 澤田亜紀(さわだ あき)

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。関西大学文学部卒業。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では、優勝1回を含め、6度表彰台に立った。また2004年の全日本選手権4位、2007年の四大陸選手権4位という成績を残している。2011年に現役を引退し、現在は母校・関西大学を拠点に、コーチとして活動している。