OECD(経済協力開発機構)のアンヘル・グリア事務総長(写真右)は4月15日、OECD経済局日本・韓国課長のランダル・ジョーンズ氏(写真左)と共に、日本記者クラブで記者会見を開き、OECDの2015年版対日審査報告書を発表しました。

「なぜ日本はこのように低成長のままなのか?」

まず始めに、グリア事務総長は、

「アベノミクスの第一の矢である量的金融緩和は、デフレ脱却マインドを醸成する上で、ポジティブな効果を生んだ。ただ、中央銀行(日銀)による金融政策には限界がある。黒田日銀総裁は良い仕事をしているが、政府による抜本的な構造改革の早期実現が不可欠だ」

との見方を示しました。

続けてグリア事務総長は、

「日本の潜在成長率は、人口減少と労働生産性の低さにより、急速に低下している。日本の実質GDP(国内総生産)の前年比伸び率は、2015年が1.0%、2016年が1.4%程度と予測できる。なぜ日本はこのように低成長のままなのか?

日本は15歳の学力テストにおいて、国際比較で常にトップであり、R&D(研究開発)投資も多い。だが、日本の労働生産性はOECD平均の70%前後に留まっている。その理由に、まず労働参加率が低いことが挙げられる。女性や高齢者、外国人労働者を上手く活用できていない。保育所の拡充、男女間の格差につながる労働市場の二極化を是正するなど、女性の労働参加率を高める政策が必要だろう。さらには外国人労働者の受け入れの拡充なども検討すべきだ。

「日本は起業率が低すぎる」

また、日本は古参の企業の割合が多く、起業率が低すぎる。起業2年未満の企業の割合は、米国や他の先進国の半分程度だ。OECD全体では、起業5年未満の企業が半分を占めており、新しい企業が雇用を創出している。起業家にとって魅力の低い国が日本なのだ。

その他、生産性を高めビジネス環境を改善するために必要な対策としては、コーポレートガバナンス=企業統治を高めることや、企業が貯めこんでいる多額のキャッシュを生産的に使うことなどが挙げられる。労働生産性を高めるための数々の政策を早期に推進すべきである」

との見解を述べました。

「日本の債務残高はOECD34カ国のなかで最悪な未知のレベル」

さらに、日本の経済成長率を高めるために必要なこととして、グリア事務総長は、

「抜本的な構造改革の早期実現と共に、消費税率を現行の8%からいずれは20%程度へと段階的に引き上げていくべきだろう。日本政府は消費税率の10%への引き上げを計画しているが、それでもOEDCD平均(19%)の半分にすぎない。日本の債務残高はGDP比で226%と、OECD34カ国のなかで最悪な未知のレベルにある。所得税の課税ベースも拡大すべきだ。

収入に対する控除の割合は日本は61%と米国(57%)やドイツ(52%)、英国(27%)と比べて高い。消費税増税と課税ベース拡大の両輪で歳入を増やす必要があるだろう。同時に、歳出削減も不可欠だ。超高齢化社会においては、医療や介護の分野での自己負担を増やす必要があり、個別診療の報酬を積み上げて医療費を算出する出来高払いなどは、なくすべきだと言える。年金の支給開始年齢を引き上げる対策も必要だ。

2020年度までの基礎的財政収支の黒字化を実現するためには、歳出抑制、歳入増加につながる信頼性のある計画を策定すべきであろう」

と強調しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。