アレイカメラ方式の弱点としては、カメラモジュールのコストが高くなることが1点挙げられる。現在スマートフォンやタブレットに搭載されているイメージセンサーはハイエンドのものでも単価は10ドル未満であり、これとレンズやLEDフラッシュと組み合わせて搭載したとしても、製品全体のBOM (Bill Of Material)に占める割合はそれほど大きくない。現在タブレットへの採用が少しずつ進みつつあるRealSenseでも若干割高ではあるものの、それほどコストに大きなインパクトを与えるものではないと考えられる。

ただし筆者が聞くところ、Pelicanのような専用カメラモジュールの場合はこれらに比べ2~3倍程度のコストを要するとのことで、これほどではないとしても、LinXの技術の採用はコスト上昇要因の1つとなるかもしれない。

アレイカメラ方式のもう1つの問題として、処理加工のためにプロセッサパワーを非常に多く消費するという特徴が挙げられる。写真1枚撮影するだけで大量のデータが取得され、これを一度に処理しないといけないため、特にGPUに大きな負荷をかける。前出Pelicanのケースでは、デモ機に用いていたSnapdragon 805ではすでに重い状態で、商用化にはこれより1~2世代後のプロセッサが必要だと感じたレベルだった。おそらく現行で市場に存在するハイエンドのスマートフォンでも重い処理で、LinXにおいても同種の制限が存在するとすれば、実際にApple製品に搭載されるのは早くて2016年か2017年以降となると予想する。

AppleはLinXの技術をどのように製品に組み込むか

現時点で買収済みのPrimeSenseの技術を採用した製品が市場投入されていない状態だが、Appleは近い将来にLinXの技術を採用した製品を市場投入してくることだろう。PrimeSenseはモバイル端末というよりもむしろ、デスクトップ環境やリビングルームでの「3Dモーションセンシング」に活用してくると考えられ、例えば今年後半にもAppleによる製品投入が噂されている「新型Apple TV」のUIに採用される可能性もゼロではない。

前出のように、パフォーマンス的理由やBOMに与えるコストインパクトから、LinXの技術をiPhoneやiPadといったiOSデバイスに搭載してくるのは早くて来年2016年以降とみられる。AppleがLinXをiOSデバイスに採用する大きなメリットの1つが「カメラモジュールの薄型化」にある。LinXによれば、画質を上げるためにイメージセンサーのサイズを大きくするとレンズの厚みが増える問題が出てくる。ところが、同社の技術のように大型イメージセンサーを複数の小型のイメージセンサーの組み合わせで置き換えることで、このレンズ部分の薄型化が可能になり、カメラモジュール全体の薄型化を実現できるという。

iPhone 6をよく利用するユーザーならご存じだと思うが、同製品は本体薄型化の弊害として「レンズ部分が飛び出ている」という、非常にデザインとしては"いただけない"ものになっている。英ロンドンでハイエンドスマートフォンの新製品「P8」を発表した中国のHuaweiは、「iPhone 6のようにレンズが飛び出していない」という点をセールスポイントに製品をアピールしていたりと、すでに多くがネタに使うようなデザイン上のウィークポイントだ。ゆえにLinXの採用はiPhoneのさらなる薄型化を実現する可能性も秘めており、さらに「カメラの新しい使い方の提案」も可能にするなど、大きな差別化ポイントとして機能するとみられる。いずれにせよ、非常に楽しみな動きだ。