就活がいやですぐに逃げ出してしまったライターの大北です。いまだにふつうの人がどうやって就活を乗り越えてるのかがわかりません。ふつうの人のふつうの就活話をきいてます。

とある有名大学の学園祭実行委員長をやっていたBさん(22歳)

すぐにでも内定が出そうなBさんの就職活動

Bさん(22歳)はとある有名大学の学園祭実行委員長をやっていた。「めんどくせ~と思ってた」重い腰をあげて12月のちょっと遅めの時期から就職活動をはじめ5月にSE会社から内定が出た。

Bさんが今の就職先を選んだのはお金が決め手だったそうだ。「四季報で平均年収がいいしここかなー」で選んだという。夢を語る若者が多い中、ものすごく現実的な考えだ。私立文系の彼がSEを選んだのも現実的な考えからだった。

「ぼくは夢よりお金ですね」と言い切ってくれるBさん

「あーおれ営業むいてねえ、おわりっていう。商社を受けてたときに、すごいハキハキ喋ってる男がいて。元気があるというか元気がありすぎる。ぼくも実行委員やってたのである程度ハキハキ喋れたのかなっていうのはあるんですけど、比じゃないですよ。ムリだと思って」

ハキハキが人を圧倒し他人の人生を大きく変える世界、それが就職活動(一体どんなハキハキだったんだ!)。その後Bさんはハキハキをあきらめコツコツ勉強をする。

「結局準備だと思うんですよね。自分は机にむかってSPIとかCABとか勉強してました。IT系はテストがダメなら落ちてしまうので。勉強は毎日やってました。むなしさは感じなかったですよ。やるとすぐに結果が出たんで」

Bさん、文化祭の実行委員長でかなりきたえられたようでとにかく準備、準備といっていた。受け答えもしっかりしてるし就職活動は得意そうだ。

「得意も苦手もなくてスイッチでしたね。スーツを着た段階で就活モードに入ってました。プロ意識ならぬ就活生意識といいますか。バイトでも文化祭でも腕章つけたらちゃんとやろうと思ってて。そのスイッチが黒いスーツだったっていう感じですね」

あせって縦書を左から書く

これだけしっかりしていてすぐにでも内定が出そうなBさんだが、なかなか内定は出なかった。焦る日々だったそうだが、当時の失敗談をきくと小論文を縦書なのに左から書いたことをあげてくれた。

「左から縦書を書くなんて今までやったこともないですよね。恥ずかしいですよね。それで、あ、もうこの企業受けるのやめようと思って……」

就職活動のおそろしさはこういうところにあるのではないか

かなしい。だれが悪いわけでもない。縦書は右からと決めた世の中が悪いのだ。そして一番ショックだったのはやはり第一志望の面接に落ちたときだったという。

「もったいないというか残念というか、一番行きたかったという気持ちと落ちたっていう気持ちがもう。真逆の気持ちで胸がこんがらがるというか、うずうずするというか…」

うんうん。恋に悩む若者のようだ。横できいていたマイナビニュースのMが「失恋に近い感じ?」ときく。あっ、誘導尋問だ。ずるい。

「そうですね、失恋に似てますね。その日はなにもせずすぐに寝ました。切り替えられなかったんですね」

失恋だといってるのにBさんの解決策は寝ることだった。この人、どこまでも現実的なんだな。

そこに気づくと内定が出る

「4月に入ってからのある会社の最終面接が転機でした。そこでなんでSEになりたいのかってきかれて。こっちとしては答えたつもりだったんだけど、その後もう一回きかれた。家に帰ったあと一人で反省会をしていたときに気づいた。自分にとってのSE像がそもそもなかったんです」

とある最終面接での質問がBさんのターニングポイントだった

気づき。その後も気づきという言葉を使っているが、とにかく彼にとってはそれが決定的な出来事だったようだ。

「なんでSEになりたいのかとか、自分の能力は今どれくらいで最終的にどういうSEになりたいのかとか。そこで、あるSEの資格を目標にしました。そのためには何が足りてなくてどういうステップが必要なのかってことをワードに書き起こしてたら受かりましたね」

Bさんがいう気づきを文字にすると、就職活動の手引きに書いてあるような内容であることにおどろく。ただ知るのと理解するのはちがう。最初にわたされた冊子に答えが書いてあるなんて。なんてドラマチックな展開なんだ、就職活動。そこに"気づく"ものにはゴールが待っていた。

「合格の瞬間はうれしいというよりホッとしましたね。はい、ゴールみたいな。文化祭が終わったときと似てたかな。もう一回就活できたとしてもやりたくはないですね。

でももうちょい早く気づけなかったのかなって後悔はあります。それで手際よく適切な準備がちゃんとできていれば内定も多く出たんだろうなと。そういう意味では早く気づけた人が強いんじゃないですかね。おれも人と会って気づいたんで、人と会う回数が多ければ多いほど強いと思います。フットワークの軽い人は強いんじゃないかなと」

気づき気づきと聞きすぎて、スピリチュアルな気分が高まってきた。今数十万円のツボをすすめられたら買ってしまうことだろう。

「就活を通してその辺りの意識は変わりましたね。もっと行動におこしていくのが大事かなって。旅をしたりしてフットワークを軽くしたい。成長ですかね。成長したのは今こういう初対面の人とのいい接し方を覚えたというか、猫かぶってるというか。悪いほうに成長してる気がしてるんですけど」

良いも悪いもないが、もともと学祭できたえられてた彼でも成長したらしい。仕事観は変わったりしたのだろうか。

今はお金がモチベーション

「もともと働きたくないなとしか思ってなくて。それは今も変わらないですけど。今は欲しいものができて、お金がもらえるというのが働くモチベーションになってます。

大変な仕事をやって感謝されてやりがいを感じるよりはお金がほしいって感じですね。学祭は割にあわないくらいの責任だったり仕事だったので。うわーお金もらえるんだ、すげー! みたいな(笑)

お金お金いってるのは学祭によるところもあるし性格によるところもあるんですけど、単純に今お金が足りてないんです。パソコン、Wii U、スキーもしたいしスノボもやったらすごい楽しくて、うわー、足んねー、みたいな感じですかね」

パンドラの箱をあけてしまった感じがある。Bさん、やりがいよりもWiiUでいいのかと問いたい気持ちもあるが……ともあれBさんにとって就活はどういうものだったのだろう。

「ぼくは就活に対して負の感情はないですね。楽しくはなかったですが、どMなんで。もちろん不合格くらって楽しいとはならないですけど、たくさん受ける方がいい気がしますね。

理不尽かなと思うところもあります。第一印象の悪い人が落ち続けたり、数分の面接で人のことがわかるのかなとか。ただ、人気の企業の募集10人に対して1万人集まるんで。現状の採用しかないのかなと。

会社というのは食うための場所だと思ってて、会社に入るための手段が就職活動。就活がなんだったか考えたら、食っていくための準備段階みたいな感じですかね」

ここでもまた準備。なんだねきみは委員長か、という感じだが実際に委員長である。「そうですね、学祭も準備が大切ですね」とBさんはいう。ドライで現実的でスペックも十分。そんなBさんでもすんなりとはいかなかった就職活動のむずかしさを知った。


大北栄人(おおきたしげと)
デイリーポータルZなどで書いてるライターです。娘にダンボール製のリカちゃんを作ったり、いちご大福のピリピリ原因やコーラが何味なのかを調べたりして話題に。Twitterアカウント:@ohkitashigeto