コンピュータの進歩
夕方になり、村山七段が顔をしかめる場面が増えてきた。うつむき首を振る姿は苦しげだ。控室や大盤解説会の見解はponanzaの態勢勝ち。後手は黙っていても押しつぶされてしまうので、村山七段も角を打って(図7)局面を動かしにかかった。自玉に近い場所から攻める諸刃の剣。旗色が悪いことは承知のうえでの勝負である。しかしponanzaの対応は冷静で、最後もコンピュータらしい紙一重の見切りで勝った。
今回何よりも悔やまれるのは、村山七段が用意した研究が見られなかったこと。勝ち負けは別にして、プロ棋士が時間をかけて準備した対策からどう展開するのか、見てみたかった思いは今でも消えない。
逆にponanzaが、偶然とはいえ過去に道が途絶えた定跡に可能性を示してくれたのは実りあることだった。プロ間でも過去の実戦から手を掘り返し、温故知新で前に進むというケースはこれまで何度も繰り返されている。こうした役目を担うのは、プロ棋士の中でも職人気質の人間であることが多い。
本局でponanzaが見せた構想も、そうした職人がもたらす気づきや再発見と同一線状にあることは間違いないのではないか。長い間「序盤に穴がある」と言われてきたコンピュータがそうした役を担いうるという事実に、コンピュータ将棋の進歩を改めて実感せずにはいられなかった。
将棋電王戦FINAL 観戦記 | |
第1局 | 斎藤慎太郎五段 対 Apery - 反撃の狼煙とAperyの誤算 |
第2局 | 永瀬拓矢六段 対 Selene - 努力の矛先、永瀬六段の才知 |
第3局 | 稲葉陽七段 対 やねうら王 - 入玉も届かず、対ソフト戦の心理 |
第4局 | 村山慈明七段 対 ponanza - 定跡とは何か、ponanzaが示した可能性 |