【インタビュー】

成功例の少ない地域通貨。12期を迎えた「アトム通貨」普及の秘密は?

地域通貨は、特定の目的や地域のコミュニティ内などで、法定貨幣と同等あるいはまったく異なる価値があるものとして発行・流通される貨幣で、1980年代初頭にカナダで始まった。2000年代に入ると日本でも、地域コミュニティ再構築の特効薬として期待され、たくさんの地域が試験導入し、一時は3,000を超える地域通貨が流通していたといわれている。しかし、地域に浸透することなく、ほとんどが終息する中、12年目を迎え発展し続ける地域通貨が存在する。それが「鉄腕アトム」をモチーフとした「アトム通貨」だ。

感謝の気持ちを伝えるための通貨として発祥

手塚プロダクション 著作権事業局 クリエイティブ プランナー 日高海さん

アトム通貨は本拠の高田馬場・早稲田地域だけではなく、全国にその活用の場が広がっている。全国展開する地域通貨などあまり例がない。なぜ、これほど浸透しているのか……。その理由を、アトム通貨の運営に携わる手塚プロダクションの日高海さんにうかがった。

――まずアトム通貨の概要を教えてください。

日高海さん(以下、日高さん):アトム通貨は「10馬力」「50馬力」「100馬力」「500馬力」の4種類が用意されています。“馬力”はそのまま“円”に換算され、500馬力=500円になります。流通期間は毎年4月7日から翌年の2月末までで、次の4月7日に新しいデザインの通貨が発行されるサイクルになっています。アトム通貨加盟店ステッカーが貼られている全国1,000店以上のお店で使え、年間発行額は2,000万馬力ほどです。

4種類が用意されるアトム通貨

アトム通貨加盟店のステッカー

――そもそもアトム通貨を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

日高さん:アトム通貨は、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター、株式会社手塚プロダクション、早稲田大学周辺商店会連合会、高田馬場西商店街振興組合の4者の協働事業として、2004年4月7日アトムの1歳の誕生日にスタートしました。早稲田・高田馬場地区の地域コミュニティを活性化させることを目的に、当時話題だった地域通貨を導入したのです。高田馬場はアトム誕生の地であることからシンボルとして使用し、手塚治虫が作品に込めたメッセージをアトム通貨の理念に反映させています。

――アトム通貨は今年の4月より12期目に入るとうかがいました。ほかの地域通貨と比べ、これほど浸透し、拡大している理由は何でしょうか。

高田馬場で行われた清掃イベント。このようなイベントで参加者にアトム通貨が配布される

日高さん:アトム通貨の理念にひとつの理由があると思います。手塚治虫の講演内容をまとめた著書『ガラスの地球を救え』には、鉄腕アトムの作品テーマは「デイスコミュニケーション(相互不理解、対人コミュニケーション不全)」だと書かれています。ほかにも「地球はすべての生命にとってかけがえのない星であること」「生まれ育った宝塚への郷愁や路地裏の文化」「子どもは大人からの真剣なメッセージに必ず耳を傾ける感性をもっていること」「宇宙ステーションで育った子どもがいたらその子は国境の認識がないこと」……など、現代人に贈るたくさんのメッセージが綴られています。ここから私たちは「環境」「地域」「国際」「教育」の4つのキーワードを抜き出し、それに関連するさまざまな社会貢献活動の支援を目的とし、その活動に参加する人たちにアトム通貨を配布しています。国家通貨と交換で入手(購入)できず、社会貢献活動に参加した証である希少価値と、アトムを中心に置いた通貨券のデザインも人気で、この活動が浸透し拡大していると思います。

――現金ではなく、“社会貢献”に対して払われる地域通貨ということですね。それが各地域での活用にもつながっているのでしょうか。

日高さん:アトム通貨を導入した地域では、アトム通貨をツールに地域コミュニティの再構築、商店街の活性化、ボランティアの推進、観光振興、ふれあい支えあい運動、新しいイベントの創造、地域ブランドの開発、ほかの地域との連携などそれぞれの地域の問題解決にあわせて活用しています。女川町では震災の復興に役立てているように、地域にあわせてカスタマイズできる汎用性もアトム通貨の大きな魅力で、全国に広がった理由のひとつでしょう。

――新たな期に入るにあたり、何か特別な取り組みはありますか。

アトム通貨で描くコミュニティ・デザイン 著者:アトム通貨実行委員会編

日高さん:実はアトム通貨を題材にした書籍「アトム通貨で描くコミュニティ・デザイン」(新評論刊、税込1,944円)をこの4月に発刊することになっています。実際にアトム通貨の取り組みに参加した方々の声を集め、地域通貨をとおして“人”と“街”がどのようにつながっていき、そしてコミュニティを紡ぎ出すのか……。街の活性化にどのように地域通貨が役割を果たしていくのか……。私たちの活動経験から、地域通貨とコミュニティの関わりについて“実践書”というかたちで編纂させていただきました。拙筆ながら私が寄稿したコーナーもあります(笑)。

日高さん:また、環境省が推進する「カーボン・オフセット」に今期から取り組むことになりました。カーボン・オフセットとは、製品の製造・流通にかかるカーボン(二酸化炭素)を極力削減した上で、削減しきれなかったカーボン排出量に相当する貢献をほかの場所で行って、トータルとしてカーボン排出量を相殺するというものです。アトム通貨では、紙の原料に「サトウキビ搾汁後のバカス」を使用、印刷工程では「ベジタブルインク」「水なし印刷」を採用し、カーボンの排出を極力抑えています。一方、抑えきれなかったカーボンの排出は、被災地宮城県・登米市の「米川生産森林組合有林間伐促進森林吸収プロジェクト」で販売される「オフセット・クレジット」(J-VER)を購入することで埋め合わせることにしました。もともとアトム通貨は環境活動には積極的で、過去にも環境省の「エコ・アクション・ポイントモデル事業」に3年連続で採択され、二酸化炭素削減量を数値化し、アトム通貨加盟店や地域住民が一体となり、二酸化炭素削減に取り組んだ経緯があります。同じく、環境省の「チャレンジ25キャンペーン」で行ったメディアと民間団体による連携事業でも「旬産旬消」(旬の野菜を旬に食べることでハウス栽培による二酸化炭素を削減する)キャンペーンをラジオ局の文化放送と共同で実施しました。「ガラスの地球を救え」の理念はアトム通貨の活動の根底に永きにわたって伝わり、さらに広がっていきます。

年間2,000万馬力分(2,000万円)も発行されるのは、おそらく地域通貨として世界最大級だろう。また、アトム通貨の理念は、手塚治虫原作の「ガラスの地球を救え」という著書に込められた願いに基づいているという。4つの分野での貢献活動だけでなく、地域振興にコミュニティの結束、さらには被災地の復興支援など、アトム通貨に込められた理念が多岐にわたることがわかった。日高さんによると「もちろん理念うんぬんなどということはなく、アトム通貨を“コレクション”として集めていただき、楽しんでいただければと思っています。各地域によって紙幣のデザインが異なるので、集めがいがあると思いますよ(笑)」と付け加えてくれた。日高さん、ありがとうございました。

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