Flashを使ったTVアニメ制作の利点

一方、プロジェクト(番組)単位でアドビ システムズの「Adobe Flash Professional」を活用した経験を語ったのが、アニメの現場でアニメーター/キャラクターデザイナー/監督などを務め、その経歴の中でデジタル制作を推し進めてきたことで知られるりょーちも氏だ。

FlashはIllustratorと同様にベクターデータを扱うので解像度という概念がなく、拡大縮小が自在。その一方で、ラスタデータの描画も可能で、ラスタをベクターに変換することも、ラスタをラスタのままで扱うこともできるなど、非常に柔軟性の高いものである点を評価した。

Flashだけではなくデジタル制作全般の利便性にも触れ、「カット袋」(手描きの原画を入れておく紙の袋)の概念が消え、データをサーバ管理(Dropbox)できるようになったことも作業の効率化を推し進めたと語った

そして、旭プロダクションが解説した線画の二値化に関して、Flashでカバーできることにも言及。しかしながら、Flash上で実行される二値化が簡易処理であるため線が荒くなってしまうという弊害があり、主戦力として導入しようとすると小さなところでつまずくという実体験も披露。時には「作画のクオリティーが下がるのでやめてほしい」と言われてしまうこともあったという。

しかしながら、JSFLアクションスクリプトなどのFlash用マクロでアニメーション制作向けのカスタマイズを行えること、データがとても軽いためやりとりが容易なこと、プレイヤーセットでデータを渡せるので簡単かつコマ送りで動画チェックを行える点などは、同ツールならではの利便性であると熱弁。自身の経験でつまずいた部分も明らかにしながらも、同ツールによる制作が業界内でも広がれば、とプレゼンテーションを行っていた。

原画マンのデジタル対応

話題を旭プロダクションの事例に戻すと、同社でキャラクターデザインなども手がける橋本氏から、描画を手がけるアニメーター側のデジタル対応について語られた。原画制作に関するデジタルの利点は「クオリティーをあげることに集中できる」こと。橋本氏の感覚として、手を動かすスピードはあまり変わらないが、微調整がアナログよりずっと楽で、1枚辺りのスピードはそのままだが、その分クオリティーが上がったと話していた。また全員ではないが、デジタルに切り替えたら突然能率が上がった人もいたという。

また、橋本氏は、2000年ごろにアナログ動画の描画からキャリアをスタート。15年のキャリアのうち、途中からデジタルに転向し、5年ほどデジタル作画を行っているという。そんな同氏から、アナログからデジタルへの転向にかかるおおよその期間も語られた。パソコンの素養があれば、多くの場合1カ月程度で転向可能で、ツールの使い方に慣れるためには1週間程度を要するという。とはいえ「PCの素養」は各人によってまちまちのため、習熟の速度に影響するの確かだが、OSのカスタマイズのような中級者以上の知識がなくても、抵抗なく機器に触ることができれば大丈夫だとコメントした。

そして、重要な点として、アナログとデジタルを行き来すると、ツールの使い方を忘れたりするなどしてモチベーションが下がってしまうため、デジタル移行を決めたら一気に行った方が覚えが早いため、「どっちつかず」な状態は避けるべきと語った。