妊娠しても事情があって産めないとき、手術で人工的に妊娠を中断する方法を「人工妊娠中絶」と言います。望まない妊娠は避妊して未然に防ぐのが一番ですが、時には健康上の理由や経済的な理由から、産みたくても産めないというケースもあります。「避妊に失敗したら中絶すればいい」などと安易に考えないためにも、中絶の具体的な内容とリスクについて、しっかり知っておきましょう。

妊娠21週6日がタイムリミット

日本では、中絶手術は「母体保護法」という法律によって定められており、母体保護法指定医のもとでのみ受けることができます。中絶手術を受けられる時期は、妊娠22週未満(21週6日)まで。これは法律で定められているため、この時期を過ぎると手術を受けることはできません。

手術前には、原則として本人とパートナー(胎児の父親)のサインが入った同意書が必要になります。未成年でも手術は受けられますが、通常は、手術中や手術後に何かあった場合に連絡できるよう、保護者の署名が求められます。

なお、中絶手術は保険適用外となります。費用は病院によってさまざまですが、妊娠初期(12週未満)であれば10万円前後、妊娠中期(12週~21週6日)だと最低でも40万円程度はかかるものと覚えておきましょう。

決断時期が早いほど負担は少ない

では中絶手術では、具体的にはどんな処置を行うのでしょうか。その方法は、妊娠初期(12週未満)と妊娠中期(12週~22週未満)で大きく異なります。

初期中絶は、子宮口を開く処置をした上で、吸引器を使って子宮内容物を吸い出す「吸引法」や、器具を使って胎児と胎盤をかき出す「掻爬(そうは)法」という方法で行われます。手術自体は10分程度で終わることが多く、体調に問題がなければ日帰りまたは1泊程度で退院できます。

中期中絶になると、子宮口を開く処置の後、薬の力で人工的に陣痛を起こして流産させるという方法がとられることが一般的です。初期中絶より痛みも体への負担も大きく、子宮の状態を経過観察する必要があるため、入院には約4~5日を要することも。また中絶後は役所に胎児の死産届を提出し、火葬による埋葬の許可をもらう必要があります。

感染や子宮穿孔(せんこう)、子宮破裂などのリスクも

中絶手術は、たとえ初期でも、手術である以上は体へのリスクが伴います。考えられるリスクとしては、まず初期中絶の場合、掻爬や吸引の際に子宮に穴があいたり(子宮穿孔)、組織の一部が残ったりすることなどがあります。中期中絶では、薬の影響で陣痛が強くなりすぎて子宮が破裂することも。またどちらの場合も、手術後に子宮内感染が起こることがあり、その炎症が不妊の原因になることもあります。もちろん、信頼できる指定医のもとで手術を受ければ、そうしたトラブルは極めてまれと言えます。しかしリスクとして、覚悟はしておかなければなりません。

このほか、後悔や罪悪感など精神的ダメージが、体への負担以上に重荷になり、手術後の月経不順を引き起こすこともあります。よく考え、納得したうえで中絶すると決めたのであれば、いつまでも引きずらず前に進むことも必要。そしてその後の人生では、つらい経験を繰り返さないよう、避妊について、より真剣に考えることが大切です。

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善方裕美 医師

日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。

主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など