Satya Nadella氏がCEOに就任してからMicrosoftは無料で提供するソフトやサービスを急速に拡大してきた。ユーザーにとっては嬉しいことだが、同社はなぜ「無償」提供に力を注ぐのだろうか。無償化は同社にとって、本当に持続性のあるビジネスモデルなのだろうか。そんな疑問への答えをMicrosoftが初めて公にした。Convergence 2015で最高マーケティング責任者であるChris Capossela氏が、フリーミアムモデルと新ブランド戦略について語った。

フリーミアムで「獲得」、そして「マネタイズ」へ

Microsoftは長年、主にOEMやビジネスにソフトウェアをライセンスして収益を得てきた。しかし、2014年2月にSatya Nadella氏がCEOに就任してから、そんな同社のイメージが急速に変化し始める。同年3月にデジタルノートソフト「OneNote」が全てのプラットフォームで無償化され、無料で利用できるソフトやサービスが瞬く間に拡大した。昨年秋には主要な機能を無料で使用できるOfficeアプリのiOS版の提供が始まり、Androidにも拡大。Office 365に付属するOneDriveは容量無制限になった。今年夏に登場するWindows 10はWindows 7以降やWindows Phone 8.1からのアップグレードがリリースから1年に限って無料になる。

モバイルデバイスの画面サイズでパーソナル向け(無料)とプロフェッショナル向け(有料)を分けるMicrosoftのフリーミアムモデル

ユーザーにとっては嬉しいことだが、Microsoftはなぜ「無償」提供に力を注ぐのだろうか。Nadella氏が提唱した「モバイル優先、クラウド優先」に基づいた施策と考えられるが、広告ベースでサービスを無料提供するGoogleに対抗するために無償提供に踏み切っているように映るのも事実。無償化はMicrosoftにとって、本当に持続性のあるビジネスモデルなのだろうか。

そんな疑問への答えをMicrosoftが初めて公にした。Convergence 2015(3月16日-19日)の一般セッションで、最高マーケティング責任者であるChris Capossela氏がおよそ18カ月前から取り組んでいる「マーケティング改革」について語った。新しいマーケティング戦略の根幹にあるのは、Microsoftの“ビジネスモデルの変革”である。

Capossela氏が最初に挙げたキーポイントは「フリーミアム(Freemium)イノベーション」だった。フリーミアムとは基本的な機能を備えたソフトやサービスを無償で提供し、プレミアムな機能やサービスを有料で提供するモデルである。EvenoteやDropboxなどがフリーミアムを採用している。

現時点でMicrosoftではモバイル向けのOfficeアプリがフリーミアムの代表例になる。簡単なパーソナル利用になる10.1インチ以下の小型デバイスを対象に、編集も可能なフル機能のOfficeアプリを無償提供している。10.2インチ以上のデバイスはキーボード/マウスも使った生産的な用途にも用いられるとみなし、フル機能の使用にOffice 365の契約を求めている。サブスクリプションでは、プロフェッショナル向けに相応しい生産性に優れた機能も提供する。

Microsoftのフリーミアムモデルは「acquire(獲得)」「engage(関与)」「enlist(参加)」「monetize(マネタイズ)」の4段階にユーザーを導くものだという。試用版ではないフル機能版を無料で提供することで多数のユーザーを“獲得”する。そして製品にユーザーをより深く“関与”させる。

例えば、無料通話でSkypeを使い始めた人はメッセージ機能のユーザーになり得る。製品を気に入りだしたユーザーは、やがて製品に対して意見を述べる(“参加”)ようになり、ユーザーの要望に応える機能やサービスを有料で提供することで、有料ソフトや有料サービスに対するユーザーの関心を高められる(“マネタイズ”)。

無償化で多数のユーザーを獲得し、ユーザーとの関係を深めた上でマネタイズに導く