控室の様子。棋士や関係者、取材陣が詰めていた

人間の感覚にない順

先手は2筋を、後手は4筋を攻める互いに我が道を往く応酬を経て図3を迎えた。まずは実戦の進行を確認しよう。ここから▲5五角△同角▲同歩△4七歩成▲6一竜(図4)。美濃囲いの金がボロッと取れるすごい順である。金という駒は玉を守るうえで大事な役割を担うことが多く、すんなり取らせるのは人間としては非常に抵抗があるもの。その先を掘り下げようというのはまさに異端の感覚である。

図3:36手目△4四角まで

図4:41手目▲6一竜まで

さらに図3では、先手の攻めを受けて△7二角と打つよりなく、金を取られたうえに角を手放すのでは戦況は芳しくない、というのが人間の第一感だった。控室の棋士たちは驚きの言葉を口にしていたが、やがて検討が進んで意外に難しいとわかると、次第に感嘆の声に変わっていった。こうした人間の感覚では選びにくい順に対して、具体的な読みを武器に斬り込んでいけるのがコンピュータの強みだ。またこうした対比が、人間対コンピュータの戦いの魅力でもある。

ニコニコ生放送に出演した立会人の福崎文吾九段(右)、リポーターの藤田綾女流初段

ただし検討されていた局面と実戦の進行は微妙に異なる。やや複雑な話になって恐縮だが、図3から△4四角▲5五角△同歩の交換は、後手の損ではないか。それが検討陣の見解だった(具体的には、図4から実戦は△7二角▲4三歩△同金▲6四竜と進んだが、先手の歩が伸びたことで、このときに△5四金と出る手が消えている)。つまり図3の△4四角では単に△4七歩成がまさったのでは、というわけだ。

もちろんAperyは本譜がまさると判断したのだが(△4四角に代えて△4七歩成の読み筋は、以下▲6一竜△7二角▲4三歩△同金▲1一竜△5七と▲9九玉△7六銀▲6九香△2七角成▲6一金……と続いている)。現時点では確かなことは言えないが、こうした検討があったことは記録に残しておきたい。

この日のおやつは、サークルKサンクスのブランド「シェリエドルチェ」から、マーブルチョコパウンド、ひとくちラスクはちみつ味

屋外のテントではおやつの試食ができた

Aperyの思考ログを読んで意外だったのは、図4の金を取る▲6一竜が予想手ではなかったこと。本線の読み筋は代えて▲4三歩で、以下△1二飛▲6八銀△4一歩と続いている。先手が銀を逃げて後手も金取りを防ぐ、という進行を読んでおり、評価値は-200点ほど。ところが実戦で金を取られると、評価値は最終的に-646点に落ちた。

もう一度図4:41手目▲6一竜まで

ログからは、浅い読みでは評価値がそれほど下がらないものの、読みが深くなる過程でガクッと評価値が落ちていることがわかる。人間の思考にたとえれば、「軽視していた手を指されたので改めて読み進めてみると、思ったより悪いことがわかって愕然とした」というところだろうか。コンピュータは本質的に長い手順を読むことが苦手だ。人間は長手数であっても、「一直線」で見通しやすい変化ならば比較的容易に読み進めることができる。本局は激しい展開になったことから、そうした人間の長所が出やすい戦いになっていたのかもしれない。

京都烏丸コンベンションホールで行われた大盤解説会。北浜健介八段(左)と安食総子女流初段

村田顕弘五段(左)、香川愛生女流王将

観戦記を担当する先崎学九段(右)もニコニコ生放送に出演

夕食休憩では軽食が出された