迎え撃つコンピュータ

「将棋電王戦FINAL」では、昨年11月に行われた「第2回将棋電王トーナメント」の上位5ソフトがコンピュータ側の代表として戦う。特徴的なルールである「ソフトの事前提供」は前回と変わらない。これは本番と同じ仕様のソフトを事前に棋士に貸し出すというもの。プロ棋士はそれを使って本番となる対局前に、自由に対局して研究をすることができる。対して開発者は電王トーナメント終了後の一定期間のみ改良が認められ、その後はプログラムに手を加えることができない。

このルール、当然ながらコンピュータ側にとって厳しい条件だ。事前に不利になる順を見つけられ、再現性を確立されればそれが本番でも通用してしまう。こうした事前研究に備えた開発者もいたが、本質的な対策を施すことは難しい。前回は終わってみれば既知の通りコンピュータ側が勝ち越したが、今回どうなるかは未知数だ。前回と同様に、プロ棋士がどれだけ事前に対策を練り、本番に生かしてくるかが今回の大きな見どころになるだろう。

さて、今回見逃せないのが、ニコニコチャンネルで配信されている「電王戦FINALへの道」という動画の存在。棋士と開発者それぞれのインタビューに加え、部分的にではあるが練習対局まで見ることができる、ファン垂涎の企画だ。はっきり言って、これを見ずにおくのはもったいない。損である。本記事の執筆時点(3月8日)で70! もの動画がアップされているので、別表(以下画像)を参考に、ぜひとも関心のあるナンバーを見ていただきたい。

ナンバー1~18

ナンバー19~36

ナンバー37~55

ナンバー56~70

異なる時間設定で指されている練習対局に目を通しておけば、本番がまた違った視点で楽しめることだろう。将棋があまりわからないという方には、ナンバー4の味噌汁をつくる斎藤五段、ナンバー30の竜王就位式に出席した稲葉七段、ナンバー57の阿久津八段と八王子将棋クラブ、ナンバー59~62の師匠から語られるエピソードと、このあたりが特に印象に残ったのでおすすめしておきたい。

対戦カードと展望

それでは注目の対戦カードを見ていこう。今回、出場棋士は日本将棋連盟理事の片上大輔六段が話したように、若手中心で構成されている。第2回、第3回の出場棋士の平均年齢は30を超えていたが、今回の平均年齢は26と確かに若い。これはおそらく、コンピュータにより親しんでいるであろう年齢層、という期待があると思われる。それだけ対コンピュータ戦略を練ってくる可能性も高くなることが予想されるわけで、コンピュータにとっても厳しい戦いが待っていることは間違いないだろう。

対する出場ソフトの特徴はどうか。ここでは前述の「電王戦FINALへの道」で指された練習対局の内容と結果にも触れながら、紹介していくことにしよう。

第1局 △Apery(開発者・平岡拓也)-▲斎藤慎太郎五段

今年のトップバッターは、昨年の世界コンピュータ将棋選手権で優勝を果たしたApery(エイプリー)。「将棋電王戦」は今回が初出場。名前の意味は「猿まね」。既存の手法でも良いところは積極的に真似をして強くなる、そんな思いが込められている。

斎藤五段との練習対局では1分将棋、30分切れ負けともに振り飛車を採用。1分将棋では四間飛車穴熊から飛車を成らせる大胆な構想を見せたが、堅実にとがめられて敗北。30分切れ負けでは向かい飛車から素早く仕掛け、一瞬の切れ味で斎藤陣を崩壊させた。定跡形を踏襲するオーソドックスなスタイルで、棋風はコンピュータらしく攻め寄り。穴熊の扱いでは人間に一日の長がある印象を受けた。本番では30分切れ負けの将棋のように、穴熊に組まれないような定跡を選んだほうが勝率が高くなるのではないだろうか。