もし、「スタジオジブリ」のファンたちが"体験してみたい風景ランキング"をした場合、きっと上位にランクインするであろうシーンのひとつは、「天空の城 ラピュタ」で主人公たちが迷い込んだ"飛行石の洞窟"だろうと筆者は思っている。そのモデルとも言われている洞窟が、ニュージーランドのワイトモにあるのだ。

あの"飛行石の洞窟"を思わせる洞窟はニュージーランド・ワイトモにある!

"飛行石"の正体はツチボタル

"飛行石"の正体はツチボタルの幼虫たち。ツチボタルは粘液を垂らして虫を捕まえる

ワイトモは北島にある街で、ニュージーランド最大の都市・オークランドから車で約3時間のところにある。ちなみに、ニュージーランド随一の温泉地で先住民のマオリが今も多く住んでいるロトルアへはワイトモから約2時間、映画「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビット」のロケ地としても知られるマタマタへも約1時間と、主要観光エリアへアクセスしやすいのも魅力だ。

ワイトモは一見すると青々と茂った牧草地帯なのだが、その下には洞窟や地底川といった石灰岩がつくり出す地形が広がっている。ワイトモの地名は、マオリ語で"ワイ"は水、"トモ"は穴を意味している。ワイトモに点在する洞窟は何千年という長い歳月の中で、地底川で石灰岩を削りながら、天井からの水滴で鍾乳石や石筍を形成しながら、人目につかないところでゆっくりとその形を変えている。

冒頭で触れた"飛行石の洞窟"を思わせる空間は、洞窟の中で生きる無数のツチボタルが生み出す。正確に言うと、ツチボタルの幼虫だ。幼虫の間、ツチボタルたちは捕食する虫をおびき寄せるために青い光を発し、垂らした粘液で虫を捕まえる。幼虫の期間は半年から1年くらいで、成虫になると数日の間に死んでしまう。「なんだ、虫なのか……」と思った方、彼らのはかない命の光に免じて、むしろそれゆえに大目に見ていただきたい。

ツアーは陽気なガイドとともに

ワイトモでは様々な会社が洞窟ツアーを実施しており、今回は「ブラック・ウォーター・ラフティング」を利用した。ツアーはアブセイリングのあるコースやロープワークが必要なコース、また、滝つぼのあるコースなど、3~5時間楽しめる3つコースが用意されている。その中で筆者は、滝下りが楽しめる3時間コース(128NZドル=約1万1,740円)に挑戦した。なお、参加条件はツアーによって異なるが、体験した3時間コースは12歳以上・体重45kg以上が条件となっている。

ヘルメットやライト、ウエットスーツのレンタルは参加費に含まれているので、持っていくものは水着とタオルだけ。途中、滝つぼへ飛び込む場所があるため、メガネの人はメガネチェーンをつけるなど落下対策をした方がいいだろう。着替えたらいざ洞窟……というわけではなく、滝つぼへのダイブにそなえてレクチャーを実施。ツアーガイドはかなりテンションが高く、自然とツアー仲間ともすぐに仲良くなれた。

「洞窟へ突入! 」の前に、ツアー仲間と一緒にレクチャーを受ける

宇宙空間のような洞窟で"空っぽ"になる

ツアーは年中行っているが、冷たい地底川が流れる洞窟の中である。できれば12月~2月の夏に行くのがベストと思われる。洞窟の中では、ガイドは洞窟の成り立ちやツチホタルの生態などを語ってくれる。また、洞窟の中での小休止で振る舞われるお菓子にも注目。「ニュージーランドで話題になった巨大コオロギを捕捉しました! 気をつけて食べてください!!」などと冗談を言いながら、チョコレート菓子を配ってくれた。洞窟と言う異空間で食べるお菓子は、なんだか特別においしい気がした。

ガイドに浮輪を引っ張ってもらい、ぷかっと浮かんだまま洞窟の中を進んでいると、青白く光る洞窟は宇宙空間のようにも見えてきた。天井の高さによって光は強く、時には弱く瞬いている。ぷかぷかと漂う流れも相まって、頭の中でぐるぐると渦巻いてた悩みごとも一気に吹き飛び、"頭が空っぽ"になっていくのが分かる。ニュージーランドでは星空を世界遺産にしようとしているレイク・テカポが有名だが、一年中、満天の輝きを放つワイトモ洞窟もまた、たくさんの魅力を抱えているように感じた。

滝つぼへのダイブのほか、浮輪でぷかぷかする時間も

ツアーの後には、ベーグルと温かいスープが用意されている(無料)。冷えた身体に染み渡るスープの味もまた格別だった。ツアーに参加している人は比較的若年層が多かったが、内容にもよるものの体力が重視されるようなアクティビティーではないように感じた。癒やしを求めに"頭が空っぽ"になる冒険へ、ちょっと飛び出してみてはいかがだろうか。

洞窟から地上へ。日の光がまぶしい

ベーグルと温かいスープで洞窟探検の疲れを癒やす

※1NZドル=91.9円で換算。記事中の価格・情報は2014年12月取材時のもの