「スティック」型へのこだわり

形状もスティック型にこだわった。「まずは、薄型テレビに挿したときにほかの端子の邪魔にならないような形状にしたかった。そして、スティックとして認識してもらえるサイズには収めたかった」。

たどり着いたサイズは、幅100×奥行き38×高さ9.8mm。当初の設計段階ではほぼ2倍の厚みで作る計画もあったが、熱設計のバランス改良などを進めるなかで、薄型化を実現したという。

また、平井部長はこんなことも語る。「2倍の厚みがあれば、スペック上ではより高いベンマーク性能を発揮することができた。だが、スティック型PCの標準モデルとなる今回の製品では、薄さを犠牲にしてベンチマークスコアを高めることより、それが新たな使い方を提案できる方が重要と考えた。5mm増やしても新たな使い方が提案できず、スティック感が薄れてては意味がない。そこに薄型化を優先した理由がある」。

5mm厚みを持ったサンプル品を見て、平井部長は、この標準モデルでは薄さを優先することを即決したという。

基板を見たいという要望にこたえ、その場でm-Stickを分解してくれる平井部長。ドライバー1本であっといまにケースと基板が外れていく

本体ケースと基板。プロセッサはIntel Atom Z3735F(1.33GHz/4コア) 、メモリは2GBオンボード。ストレージは32GB eMMCとなる

基板は、上下方向に分けて放熱が行えるように部品をレイアウト。さらに、手で触れる部分が熱くならないように、筐体部と基板との間にミリ単位の隙間を作り、CPUの熱が直接カバーに伝わることを避けるとともに、僅かながら空気の対流を作った。

基板をみると、この小さいサイズに、CPU、メモリ、パワーマネジメント機構、BluetoothやワイヤレスLAN、アンテナ、USBポート、Micro SDカードポート、ヒートシンクなどが搭載されていることに驚く。

また、BluetoothやワイヤレスLANの基板はサブボード構成となっており、このモジュールを日本で認定が取りやすい部品や、品質が保証できる部品に置き換えることができる点は、m-Stickの早期製品化においてもプラス要素になったという。

基板は本体より一回り小さい。筐体部と基板との間にミリ単位の隙間を作って空気の対流を作るなどの工夫がなされている

仕様を決める上で難しかったのは、m-Stick自らが表示デバイスを持たないことを背景に生まれる課題だった。たとえば、YouTubeを視聴する場合、フルHDの液晶テレビにm-Stickが接続されていれば、720pの解像度で表示されるというように、接続されるディスプレイによって、デフォルトの環境が変わってくる。そうしたものにどこまで対応できるかといった点は、検証に検証を重ねたという。

「デバイスを挿したディスプレイによって表示環境が変わるということは、もともと想定されていなかった使い方。ディスプレイが固定されていないこの製品だからこそ発生するプラットフォームの課題を感じた」と振り返る。

もうひとつm-Stickの設計上こだわったのが、フルサイズのUSB2.0ポート1基に限定したことだった。基板や筐体デザイン上では、ミニUSBポートをもう1基搭載できるようになっており、現行モデルの基板に信号は来ているという。

「ミニUSBポートを1基搭載すれば、使い勝手が当然広がる。だが、それを実現するには、消費電力の問題があった。現行製品では、10Wを実現するために5V2AのACアダプターを採用している。だが、USBポートを2基にして、一般的な使い方といえる給電を行うためには、15Wが必要になり、計算上は5V3AのACアダプタが必要になる。だが、現時点では、それが意外と少ない。一気に制限が大きくなる」。

ぎりぎりまでMiniUSBポートを搭載することを検討したというが、規格値を超えることで、2基搭載は不可と判断した。

m-Stick MS-NH1の端子類。左側面にはmicroSDカードスロット、右側面には電源ボタンや給電用のmicroUSBポート、USBポートを搭載