ソフトバンクと言えば、ソーシャルメディアを活用し、企業のブランドイメージを向上させている企業の代名詞と言えるだろう。孫正義社長自身がTwitterを積極的に活用。かつては、ユーザーからの要望に対し「やりましょう」とつぶやいて、即座に社員に対応させることで、顧客満足度の向上につなげていた。意見をつぶやいたユーザーだけでなく、それを見ていたファンでさえも孫社長の対応に驚いたものだ。

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ファンになってもらうためにはどうするか

かつて孫社長がTwitterを活用していた一方で、ソフトバンクモバイルのマーケティングコミュニケーション本部 Webコミュニケーション部という部署では、いかに「ソフトバンクをファンを作っていくか」がミッションとなっている。

「ソフトバンクと言えば、携帯電話会社というイメージが強いが、孫社長はソフトバンクを携帯電話会社ではなく『インターネットカンパニー』として位置づけている。我々はユーザーに対し、そのギャップを埋めるために様々なお知らせをしたいとおもい、ソーシャルメディアに取り組んでいる。

ソフトバンクというブランドに興味を持っている人たちにファンになってもらい、そこから購買、契約につなげていくのを目指している」(同部 ソーシャルメディア課 課長 亀田 輝行氏)

孫社長の個人アカウントでは2015年2月末時点で235万人のフォロワーがついている。一方、ソフトバンクの企業アカウントはTwitterが27万人、Facebookは130万人だが、LINEの"お友達"は1970万人と圧倒的な数を誇っている。

「LINEはお友達の数も多く、一度の投稿で多くのユーザーに届くので、これまでにはない価値を感じている。店舗に行っていただく施策も、アクティブな反応が得られており、重要なメディアとしてとらえている」(同部 Web企画課 課長 岩本 嘉子氏)

ソフトバンクモバイル マーケティングコミュニケーション本部 Webコミュニケーション部 ソーシャルメディア課 課長 亀田 輝行氏(左)と同部 Web企画課 課長 岩本 嘉子氏(右)

携帯電話会社にとって、週末にお客さんにショップを訪れてもらうことが重要となる。そのため、ソフトバンクでは金曜の夕方にLINEのメッセージを飛ばすことが多いという。

「金曜の夕方にトーク配信を行うことで、気がついてもらい、週末に店頭に行ってもらいたいと期待している。タイムラインは一日一本までという制約がある。日中は見ている人が多くないので、ユーザーからの反応を見て配信している」(亀田氏)

LINEは圧倒的なリーチ力が鍵

ソフトバンクのLINEといえば、やはり人気があるのが、メインキャラクターであるお父さんによるスタンプだ。

携帯電話が最も売れるのは学生や新社会人需要が多い春商戦なのだが、このシーズンに向けても、ギャル語を使ったスタンプを配信している。

「学生がアクセスするタイミングを狙って、学生が使いたくなる言葉をプランニングしている。CMシリーズのクリエイティブをされている佐々木宏さんに監修していただいて、制作しているので、クリエイティブの質はかなり高いと思う。お父さんを活用しながら、その時期にユーザーが使いたい思えるニーズに合わせている。会話に合わせて使いやすいようなフレーズに対しては相当、知見を貯めているように思う」(岩本氏)

スタンプが登場するたびに話題となるお父さん犬。今後の続編にも期待がかかる

ソフトバンクでは、他のキャリアには負けないほど、スタンプの配信を行っており、ユーザーが使いたいと思える言葉などのノウハウは相当な蓄積があるようだ。ただ、単にお父さんを使ってスタンプを繰り返し配信するだけでなく、新たなチャレンジも行っている。

「LINEビジネスコネクトというソリューションを活用して、日本全国、その地域に行ったら、ご当地のお父さんスタンプをダウンロードできるという取り組みを行った。地域連携は、LINEのスタンプでも初めてではないか。LINEさんと独自にやって取り組んだ。スマホの位置情報を読み込むことで、どこの地域からアクセスしたか判断し、その地域の名産品に扮したお父さんスタンプがもらえるようになっていた」(岩本氏)

実はこの取り組みは単に位置情報連携したというわけではない。ソフトバンクにとって、「いかに全国でスマホが快適につながるか」というのが他キャリアとの競争で重要になってくる。「全国どこでもつながって、スタンプをもらえる」というサービスが結果として、ネットワーク品質の訴求につながるのだ。

LINEの反応はほかのメディアと比べてもかなり大きいと岩本氏

「ネットワークの品質をストレートにアピールするというのは、どうしても企業メッセージになってしまい面白く感じてもらえない。自ら『ナンバーワン』と訴求すると、ネガティブにとらえる人もいる。ソーシャル上でも楽しく、ネットワーク品質の良さを理解してもらえるように努めた」(岩本氏)

ソフトバンクがこれまでLINEスタンプ配信を手がけてきた中で、最もユーザーの反響が大きかったのが、2014年11月に福岡ソフトバンクホークスが日本一に輝いた瞬間だったという。

亀田氏は「日本一になったときはインパクトがあった。過去最高のダウンロード、サイトへのアクセスもあった」といい、岩本氏も「連動性でいえばTwitterかと思ったら、LINEでも瞬間風速を感じることができた」と振り返る。

ただ、一方でLINEの場合は「コスト」を気にする必要がある。TwitterやFacebookでは自由に投稿できるものの、LINEでは、スタンプやメッセージの配信もLINE社へのコストが発生する。

「LINEは運用コスト、スタンプ配信もお金がかかるメディア。費用対効果を考えながら展開している。年間、継続していくためには、いくらかかって、どういうものを入れるとペイするのかを常に考えながらやっている」(岩本氏)

実際のところ、LINEには膨大なユーザーがついており、企業としても、活用せざるを得ない状況になっている。業界関係者によれば「LINEのスタンプ配信にかかる手数料は年々、上昇している。効果があるので辞めたくても辞められない。LINEは本当にうまい」という。

Facebookは"身近さ"をアピール

企業としてもコストはかかるものの、かなりの費用対効果が見込めるLINE。スタンプの作成に関しても、デザインテイストやフレーズなどをCMと同じようにクリエイティブするなど、手間とお金をかけている。しかし、一方で、社員の「手弁当」で地道に更新を続けているのがFacebookだ。

3月3日のひな祭りでも、Pepperを交えた投稿を行っていた

「ほかの会社は制作会社と組んでやっているようだが、Facebookに関しては運用開始から自社内でやっている。ビジネスと関係ないものは自分たちでやっており、お父さんのデコレーションをしたバレンタインのチョコを作るだけでなく、撮影もしている。

月曜日の朝に、世間に癒やしを与えようと、ソフトバンク社内で働く女性を紹介するコーナーもやっていた。そろそろ企画がマンネリ化してきたので、今度は社内で出会い頭で会った社員を取り上げ、恋がときめく的な感じで、動画を訴求するということをやり始めている。

ビジネス寄りの話をしても、ユーザーが欲しがっているとは限らない。会社のなかで情報を吸い上げると、いろんな部門が情報を出したがっているが、真面目な話ばかりになっても面白くないので、気休め、楽しんでもらう情報を配信している」(亀田氏)

実際に亀田氏は年末年始も、お父さんの人形を持って、実家に帰省。電車の中や庭で撮影をして、Facebookの記事にしていたという。

「つねにお父さんの人形を持ち歩いている。帰省したときには地元でかまくら祭りがあったので、持参していたお父さんの人形と共に撮影した。実際は雪がなかったが、かき集めてつくった。年末年始、年明けはいろんなネタを仕込まないといけない。1月5日は『囲碁の日』、1月7日は『七草がゆ』などを仕込んできた」(亀田氏)

「海外旅行に行く人がいたら、人形を持たせて写真を撮ってもらうにしている」(岩本氏)

芸の細かい投稿が目につくソフトバンクの投稿。すべて社内で考えて手作りという点も、ユーザーに響くポイントかもしれない

炎上には細心の注意を払う

企業がソーシャルメディアを運営していく上で、どうしても気になるのが「炎上」だ。ソフトバンクとしても、炎上しないような細心の注意を払って書き込みを行っている。

「基本的にはおっしゃることはごもっともなので、そのままにしている。(ネットワーク品質に対して)ここがつながらないという指摘は、社内で認識するように、社員が見て、改善するために努力できるような環境にはしている。返信はあまりしていないが、みなさんに一律の情報を提供してたいので、反応は見ているが、こちらからアプローチはしていない」(亀田氏)

「炎上したときは、そのまま載せる。しかし、炎上しないような取り組み、ネガティブに触れないように努力してやっている」(岩本氏)

また、かつてTwitter上ではソフトバンクに対して熱心すぎるファンがいたことがあった。そうしたファンに関しても「チェックはしている。あまりにユーザーの中で反応があるときはどうしようか考えるが、企業が乗り込む話ではなく、本当に悩ましい」(亀田氏)とのことだ。

ただ、ソフトバンクとしては、これからも積極的にソーシャルメディアを活用する姿勢は変わらない。亀田氏は「ユーザーにとにかく楽しんでもらいたい。他社が真似して投稿してくるが、うちは徹底してお金をかけない。自前主義を貫く」という。

亀田氏が社内や帰省中もネタを探しつつ、一方で岩本氏が「ビジネス観点で効果があるかどうか、お金をかけただけ成果があったかを現実的に見ている」と、あくまで冷静なスタンスで状況を把握する。

ソーシャルメディアを見ているファンを楽しませつつ、周りの空気感やコスト感覚を冷静に判断するというのが、ソーシャルメディアを運営する上で欠かせないようだ。

他企業のソーシャルメディア運用も常に参考にすると両氏。探究心とリサーチ力が、飽きられないコンテンツ作りに繋がっているといえよう