ゴフォ、ゴフォ、グォォゥフォォォォ!!

ここ最近、編集部のデスクに座っていると、えげつない咳の声が響いてくることがある。発生源は隣接する営業部に所属するA山だ。

中央内科クリニックの村松弘康院長

風邪を引いたのかと思いきや、それにしては、あまりにも咳込んでいる期間が長い。「どこか体を悪くしたんじゃないの?」と声をかけてみると、「ここんとこ、タバコを吸うと咳がひどくなっちゃうんだよね」とあっけらかんと返してくる。

幸いにも直近の健康診断では大きな注意点はなかったようだが、大病を患う前にタバコをやめた方がいいのは明白。ただ、禁煙の意志について聞いてみると、「やめた方がいいとは思うんだけどねぇ」と煮え切らない態度。

マイナビニュースでは禁煙をテーマにした記事を継続して特集している。優柔不断なA山にすっぱりタバコを絶たせるのも、編集部としての使命。

「意志が弱いから無理だよ」と否定にかかるA山を尻目に、編集部では「禁煙外来」の専門家に相談することにした。

禁煙外来のコストは1日230円程度。タバコひと箱よりも安い!

簡単に言えば、禁煙外来とはニコチン依存症を治療するのを目的とする専門外来だ。医師による問診や簡単な検査を経て、その人のライフスタイルに合った禁煙補助薬を提供していくというのが大まかな治療の流れ。

かつては保険外診療だったが、近年は一定の条件が課せられるものの、保険適用となっているとあって、受診して禁煙を開始する喫煙者が増えつつあるという。

「禁煙外来を活用すると、禁煙の成功率は7割に上がります。単に我慢をするだけでは1~2割しか成功しないと言われている中、これだけの効果が発揮できるのは、やはり補助薬の効果が高いということでしょう」

と話すのは、今回お話を伺った東京・人形町にある中央内科クリニックの村松弘康院長。呼吸器内科とアレルギー科の専門医として長きにわたって活躍してきた村松院長は、タバコが原因で重い病気にかかってしまう人の姿を見て、なんとかしなくてはならないと早期に禁煙外来に取り組んできた一人である。

禁煙外来での治療は、約3カ月間のプログラムで、全5回受診する。この間、用いる禁煙補助薬により薬の使用期間は異なるが、全体の治療費が気になるところだ。

「保険診療の認可を受けた施設では、3割負担の方ならば、診察と薬代を含めて最大2万円程度ですよ。1日につき220円から230円。1箱400円のタバコを毎日20本ずつ吸うのであれば、経済性も圧倒的に高いんです」

と村松院長は解説を続ける。思いのほか治療費がかからないという話を聞いて、A山も心が動かされた様子だ。

“200”の壁が、禁煙治療を受けるための条件

現状ではすべての喫煙者が保険適用診療を受けられるわけではないという。

「1日で吸う本数×喫煙年数の値が“200”以上」が第一の条件。さらに「医師によるニコチン依存症の問診において10の設問のうち5つが“Yes”となること」「文書で患者の同意を得ること」も条件に含まれる。

また、「初めての禁煙外来の利用であること、もしくは前回から1年以上の時間が経っていること」なども忘れてはならない。保険適用の場合は1年に1回しか利用できないのである(*)。

(*)自由診療(保険外診療)という形にすれば1年に何度も受けることが可能。その場合は基本的に10割負担となりますが、費用は各病院で異なります。

この条件の中でハードなのは“200”という数値の達成だろう。1日20本なら喫煙歴10年、40本なら5年という計算だ。この数値は厚生労働省が定めたガイドラインに沿っているが、ちょっとハードルが高い印象だ。喫煙歴が短い若年者でも保険診療にて禁煙治療が受けられるよう、厚生労働省にはこのハードルの見直しをする努力を今後期待したい 。

A山の場合、1日25本を10年間続けてきたから値は250と条件をクリア。これまで禁煙外来の利用もない。めでたくなのか、残念ながら、なのかはわからないが、とにかく治療を受けられる運びとなった。

「A山さん頑張りましょうね」と村松院長の優しい掛け声で治療はスタート。あらかじめ記入した中央内科クリニック独自の問診票を元に、村松院長はA山に質問をかけていく。

喫煙歴、喫煙しやすい環境か否か。家族に喫煙者はいるのか、働く場の喫煙スペースの有無は? ――こうした質問を通して、本人の禁煙に対する本気度を浮き彫りにしていくのが一つの狙いだという。

禁煙補助薬の効果は大きくとも、タバコを止めたい気持ちがなければ、治療がうまくいかないのだ。