石川県金沢市で毎年開催される、メディアアートとクリエイターのための祭典「eAT KANAZAWA」(以下、eAT)は、IT黎明期の1997年から金沢市が主催し、行政が主体となってクリエイティブの情報発信を行うユニークな長寿イベントだ。

その特徴は、参加するクリエイターたちですら「これだけのメンツが集まる機会はなかなかない」と口をそろえていうほどの豪華なゲストに尽きる。eATは、その時代における旬な業界トップクリエイターが多数出演するという点で類を見ない。

石川県金沢市主催のもと、今年で19回目を数えるeAT。会場は初日、二日目のスペシャルセミナー&トークは金沢氏文化ホールで行われた。今年のテーマは、「eAT金沢は終わるのか!?」

今年のeATは、1月30日から2日間に渡って開催された。初日のメインイベントでもっとも注目を浴びたのは、菅野薫(すがのかおる)氏によるスペシャルセミナー「クリエーティブ・テクノロジストのコミュニケーション」だった。菅野氏は、大手広告代理店である株式会社電通でクリエーティブ・テクノロジストの肩書を持つ人物である。

「そもそも数学が大好きだった」という菅野氏は、父親の勧めもあって東京大学の経済学部に転向し統計学を学ぶ。そんな中、ジャズの音楽活動に熱中して取り組む過程で音楽を作成するプログラム統合環境として有名な「Max/MSP」(現在の製品名はMax)を駆使した音楽制作活動に傾倒。電通に入社後は、自然言語処理やデータ解析ソフトの開発などの研究開発業務へとつながっていった。

株式会社電通 クリエーティブ・テクノロジスト 菅野薫氏

菅野氏によると、新しいイノベーションは「今までなかった『技術』ではなく、まだなかった『技術の使い方』」にある。そしてこれからの広告の世界で必要なのは『Art, Copy & Code』なのです」でデータマイニングして、それをコード(プログラミング)によって可視化することが大事だと語る

電通に課されたのは、これをどうやって魅力的なものとして大衆にプロモーションするかだった。打ち合わせでは、ホンダのエンジニアからインターナビのテクノロジーをデータとともに説明された、コピーライターやアートディレクターなどの従来の広告クリエイターではこの意義を理解するのが難しかった。そこで呼び出されたのが研究部門にいた菅野氏だったという。同氏は細かく記録された走行データを見て分析を開始。「ホンダのみなさんと、ディスカッションしながら作った」というアプリにデータを読み込ませると、走行データが光の粒として画面を動き出す。数万台のインターナビ搭載車のデータから作られた光の粒は、アニメーションしながら軌跡が次第に道路を描いていく。

菅野氏は、ホンダ、電通側の両スタッフでアプリをみながら「このデータだけでほぼ日本の地図のように描けますね」と話していたと振り返る。「ビッグデータの可視化」は統計の世界ではこの時期に始まっていたものの、菅野氏はそれを単純なグラフではなく、エンターテイメントにも通じるグラフィックへと昇華した。このプロジェクトではじめて、菅野氏は研究部署のエンジニアながら、CD(クリエーティブ・ディレクター)へと役職を変えてこの案件に参加することとなる。