「日本経済は緩やかな回復基調、輸出が緩やかに増加し国内需要が堅調さ維持」

日銀の黒田東彦総裁が2月27日、日本記者クラブで講演しました。

まず、日本経済の現状と先行きについて黒田総裁は、

「日本経済は緩やかな回復基調を続けている。先行きについても、輸出が緩やかに増加し、国内需要が堅調さを維持すると見込まれ、潜在成長率を上回る成長が続くと考えている。1月に公表した『日銀展望レポート』においても、中間評価における実質GDP成長率の見通しは、2014年度は-0.5%となるものの、2015年度は+2.1%、2016年度+1.6%と予想している」

と述べました。

また世界経済について黒田総裁は、

「原油価格の下落もあり、先進国を中心に緩やかな回復が続くと考える。1月にIMF(国際通貨基金)が公表した見通しによれば、2014年に3.3%の伸びとなった後、2015年は+3.5%、2016年は+3.7%と(3ヵ月前の見通し対比では下方修正されているものの)、全体としては緩やかに成長率を高めていくだろう」

「地域別では、当面の牽引役を担うのは米国だ。雇用の拡大ペースが高まり、ガソリン価格が大幅に下落するもとで、個人消費が堅調に増加している。こうした家計部門の堅調さは企業部門にも波及しており、先行きも民間需要を中心にしっかりとした景気回復を続けると見込まれる」

日銀の黒田東彦総裁

「中国経済は成長ペースがやや鈍化しているものの、総じて安定した成長続ける」

「一方、欧州経済は、回復のモメンタムが弱い状態がなお続いているが、原油価格の下落により個人消費が緩やかながら着実な回復を続けているほか、ユーロ安のもとで輸出に持ち直しの動きが見られており、一段の減速には歯止めがかかっている。先行きについても、国債買い入れの開始などECB(欧州中央銀行)の相次ぐ金融緩和措置が景気の下支えに寄与し、緩やかながらも回復を続けると考えられる」

「そして、中国経済は、成長ペースがやや鈍化しているものの、外需の緩やかな改善や当局による景気下支え策の効果が見込まれるため、総じて安定した成長を続けると見ている」

「中国以外の新興国・資源国については、全体として勢いを欠く状態が続いているが、先進国の景気回復の好影響が及んでいくにつれて、次第に成長率を高めていくと予想できる」

「世界経済全体では、先進国を中心に緩やかな回復を続けると見ており、そのもとで、日本の輸出は緩やかに増加していくであろう」

「ただ、ギリシャ問題を含めた欧州における債務問題の帰趨、構造問題や政情不安を抱える新興国・資源国の動向、地政学リスクなど、様々な不確実性には十分に注意する必要がある」

と分析しました。

「2%程度の物価上昇率を目標にした金融政策運営はグローバル・スタンダード」

さらに物価動向と金融政策については、

「日本銀行を含む多くの中央銀行は、2%程度の物価上昇率を目標に、金融政策運営を行っている。英国、カナダ、ニュージーランドなどでは2%をターゲット(Target)として掲げているほか、米国でも2%を長期的なゴール(Longer-run goal)としている。ユーロ圏では、物価安定の数値的な定義(Quantitative definition)として目標を定めており、その値を2%未満かつ2%近傍としている」

「このように、2%程度の物価上昇率を目標にして金融政策運営を行うことは、グローバル・スタンダードと言える」

「そのようななかで、現在、日本銀行は2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に2%の『物価安定の目標』を実現するため、『量的・質的金融緩和』を推進している」

「直近1月のCPI(消費者物価指数)は、夏場以降の原油価格の大幅な下落を背景に伸び率が鈍化し、前年比+0.2%となった。こうしたなか、日本銀行は昨年10月に追加緩和を決定したが、これは原油安に対応したものではなく、原油安が、現実の物価上昇率の伸び悩みを通じて予想物価上昇率に影響し、デフレマインドの転換が遅延するリスクを危惧したことが背景にある」

「2%の早期実現に本気ではないと思われてしまったら、せっかく順調に働いてきた『量的・質的金融緩和』が機能しなくなってしまうため、その疑いを晴らす必要があったのだ。その後、原油安は続いているが、デフレマインドの転換は着実に進んでいると見ている」

「物価の基調的な動きに変化が生じた場合には躊躇なく調整を行う」

「企業行動の面でも、2年連続で賃上げが実現しそうだ」

「今後、原油価格が緩やかに上昇していくという前提に立てば、2015年度を中心とする期間に物価上昇率は2%に達するものと考えている。もし、物価の基調的な動きに変化が生じた場合には、『物価安定の目標』の早期実現に向け、躊躇なく調整を行う方針に変わりはない」

「原油価格そのものに反応することはないが、それが予想物価上昇率にどのような影響を与えるのか、デフレマインドの転換が進んでいくのかどうか、に注目して、今後も金融政策運営を行っていく考えだ」

との見解を示しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。