去る2月14日、Apple Store Ginzaにて、瀧野川女子学園中学校をこの春卒業する3年生の代表者5名による卒業論文発表会が行われた。自分で選んだテーマについて調査、論考した結果をiPadとKeynoteを使ってプレゼンテーションするという形式で、バラエティ豊かな研究報告がなされた。

発表に先立って、瀧野川女子学園・山口治子校長から挨拶が

瀧野川女子学園は、東京都北区に所在する私立の中高一貫女子校である。2015年度より中学校では、新入生全員にiPadを無料で配布し、全教室、全教科でICT化を推進していくという。この卒業論文発表会もApple Store Ginzaで行い始めて6回目となるとのことだ。当日は今春卒業する中学校3年生の代表者5名が卒業論文をiPadとKeynoteを使って発表を行った。この卒業論文は自分でテーマを選び、約1年をかけて取り組んできたものだ。代表に選ばれた5名の研究は音楽から食文化、心理学などバラエティに富んでいる。発表会は「ごきげんよう」の挨拶から、生徒による開会の言葉に始まり、続いて同校の山口治子校長が登壇。「調べれば調べるほど伝えたいことが増えてしまって、この気持ちをどうやって伝えよう、どうやってまとめよう、と、とても苦労したと思います。代表者5人は、限られた時間ではありますが、もっともっと皆さんに思いを伝えたいということで一所懸命にブラッシュアップしてきました。これから始まる発表を楽しみにしています」と労いの言葉を述べた。

「恋愛と心理効果」をテーマにした綾泉さん

鑑賞上についての注意が司会進行役の生徒二名からあった後、研究の発表がスタート。一番手は「恋愛と心理効果」をテーマにした綾泉さん。数多い心理効果の中から「吊り橋効果」や「ハロー効果」について調べたところ、「恋は錯覚、勘違い」という結論に至ったという。「始めは勘違いだった好きという気持ちが恋愛をすることによって本当の気持ちに変わっていくのだと思います」という言葉でまとめた。

「パガニーニ ~悪魔に魂を売った男~」と題した論文を認めた星花さん

二番目はニコロ・パガニーニを題材にした星花さん。悪魔に魂を売った男とも噂されたイタリアの作曲家/バイオリニストについて研究を進めた。ダブルストップ(重音奏法)、ギターの奏法から着想を得た左手のピチカートを、実演を交えながら解説し、パガニーニの超絶技巧の秘密はマルファン症候群によるものではないかという説を唱えた。「調べていくうちにパガニーニの凄さを実感し、自分も頑張っていきたいと思った」とも話していた。

「食のありがたさについて ~ごちそうさんから学んだこと~」を発表した愛さん

三人目はTVドラマ『ごちそうさん』に触発され「食のありがたさについて」を主題に据えた愛さん。グローバル資本主義が拡大する中での食の問題を訴えつつ、多くの人と食べることの「幸せ感」を共有すること、実際に自分で野菜や果物を収穫すること、より多くの人々と食べられることのありがたさを共有することで、食べ物を残さないという習慣を身につけようと呼びかけた。愛さん自身、同校の食堂の廃棄量を調べたり、ラディッシュの栽培に挑戦し、実際のアクションに起こしていた。

「私の好きな小倉百人一首」というタイトルで和歌に対する愛情を伝えてくれたゆうさん

続いては1、2年生の時の国語の授業がきっかけで『小倉百人一首』を題目にしたゆうさん。和歌について、五七五七七という短い言葉の中で情景や自分の感情を上手く表現していて魅力的だと感じたと言う。発表では好きだという柿本人麻呂と儀同三司母、崇徳院の歌をピックアップした。時代背景や作者について調べることでこんなにも解釈が深まるのかと感想を述べたのち、「将来を不安に思う気持ちや、また愛する人と逢いたいと願う気持ちは今の時代も変わらない」と伝えた。

2020年の東京五輪に想いを馳せるすずかさんは「オリンピックの過去と未来」というプレゼンを

最後は、ロンドン五輪やソチ冬季五輪の中継を見て、緊張やプレッシャーを感じながらも力強く競技に臨む選手達の心の強さに感動し「オリンピックの過去と未来」という課題に取り組んだすずかさん。五輪競技の歴史を紹介するとともに、2020年に開催が予定されている東京五輪について、ザハ・ハディドの新国立競技場プランの写真などを交えてプレゼンを行った。近大五輪に影を落とした戦争にも触れながら、2020年の開催には安全な環境のもとで、選手に対する拍手や歓声で溢れていて欲しいという願いの言葉で発表を締めくくった。

5人の発表が終わると、ゲストとして招かれた東京工業大学の齋藤滋規准教授、プランナーであり瀧野川女子学園の特別講師でもある久保田達也氏の二人による講評が。

東京工業大学の齋藤滋規准教授

瀧野川女子学園の特別講師・久保田達也氏

齋藤氏は研究者、大学の教員という立場から見ても、レベルの高い発表だったと評価した。ビジュアルに訴えてエンターテインメントになっている、発表の中に「人」が出てきて無機質なものになっていない、自分達の幸福な未来が見えるといったことも良かったし、頼もしく思えたとも語った。

素晴らしい発表だったと讃えた直後、感極まって涙した久保田氏は、「30年間教育に携わってきて考える人物を育てたいと思っていたが、このプレゼンテーションを見ていて、もう出来るんだと感じたし、iPadのようなツールとインターネットが生活の中に溶け込んでいる様子がよく分かる」 とコメントした。

全体を通して印象に残ったのは、プレゼンターの5人がiPadとKeynoteを、単に使いこなすというだけでなく、考えたことを具体的な形にしているところだった。プレゼンターの一人が発表の最中、誤ってスリープさせたiPadを慌てず復旧させたのを目睹した講評者から驚嘆の声が漏れたが、それにとどまるものではなかった。Keynoteのテンプレートを利用すれば、誰でもそれなりのプレゼン資料の作成はできるだろうが、5人の発表は、先にアイディアがあって、それを具現化するためにiPadとKeynoteを利用しているように見えたのだ。瀧野川女子学園では「好きなことを思い切りやり抜き、社会で活躍貢献できる女性になる」ことを目標として掲げているが、少なくとも「好きなことを思い切りやり抜く」ことに関しては、中学を卒業する時点で、皆やれるようになっているのではないかと思えた。