当時の軽快さを完全復活させた「一太郎dash 30th」

冒頭で述べたとおり、「一太郎2015スーパープレミアム30周年記念パック」には、「一太郎dash 30th」が付属する。「一太郎dash」とは、機能拡張で肥大化したかつての「一太郎 Ver.4」を、ロースペックなノートPCでも利用できるようにしたサブセット版だ。一太郎dashをリリースした1989年10月は、まだMS-DOSが全盛期の時代だった(Windows 3.0日本語版が登場したのは1991年1月)。

当時から既に、多機能なワープロソフトよりも軽快なテキストエディターを欲するユーザーが一定数存在し、テキストエディターで文章を作成していたユーザーのニーズを満たす存在として、一太郎dashは評価された。ジャストシステムは開発意図として「1つの文書と極限まで向き合うシンプルさが、文書作成に集中できる秘訣(ひけつ)」と説明している。その一太郎dashを、30周年記念として完全復刻させたのが一太郎dash 30thだ。

Windows 8.1上で動作する「一太郎dash 30th」。ユーザーに喜んでもらうことを念頭に復刻された

バージョン情報から確認できるスプラッシュ画面は、当時のロゴをそのまま再現。ただ、日本語フォント部分は丸みが強い。NECではなく、EPSONがリリースしていたPC-98互換機用フォントの印象を受ける

実際に使ってみると、各所にジャストシステムのこだわりを確認できる。配色はもちろん当時のブラウン管ディスプレイを模したデザイン(最大化表示時は無効)や、ブラウン管の走査線を再現するために"にじみ"を演出するなど、さながら当時のPC-98シリーズを使っていた頃を思い出させてくれる。いずれの機能も有無を選択できるが、やはり当時を懐かしみたい方は初期状態のまま使ってみて欲しい。

当時の一太郎dashは「通常」「シンプル」という2つのデザインを用意し、その後者を引き継ぐ画面配色の「黒」。「ESC」キーによるメニューも当時の雰囲気そのままだ

グレーを基調にした「一太郎 Ver.5」風の配色となる「白」。白紙をイメージしたデザインに、当時を思い返す方もおられるだろう

その一太郎dash 30th、単なるオマケではない。一太郎2015が備える電子辞典を利用したり、校正機能をジャンプパレットやツールパレットから自由に呼び出したりできる。ただすべての機能はサポートしておらず、例えばツールパレットはフォント飾りや罫線などは非対応だ。フェーズもビューワーや提出確認は対応していないものの、エディターやアウトラインには切り替えられる。EPUB出力にも対応しているというから、当時の一太郎dash感覚で使っていると驚かされる場面も少なくなかった。

ジャンプリストとツールパレットを開いた状態。一太郎2015と同じ機能を利用できる

一太郎2015同様、一太郎dashでもMDIをサポート。複数文章の作成・編集が行える

一太郎dash 30thのインストールに必要な容量は約400MBで、起動時間も一太郎2015と比べて約60%も短いため、高機能なテキストエディター感覚で使用できる。ジャストシステムも「一太郎dashを論文や小説といった原稿作成、一太郎2015で仕上げるまでの下書きなどに使って欲しい」と語っているように、小気味よく動作するアプリケーションとして価値は高い。

総じて見ると、一太郎シリーズを使い続けてきたユーザーにとって今回の一太郎2015本体は、(目玉となる新機能はないものの)日々使う上での快適さは確実に向上している。「一太郎2015」「一太郎2015プレミアム」「一太郎2015スーパープレミアム30周年記念パック」のどれを選ぶかだが、フォントや電子辞典、他のアプリケーションはユーザーによって価値が異なるため、一概に上位エディションをおすすめすることはできない。ただ、懐古趣味を持つ筆者や一部の読者にとって、一太郎dash 30thの存在は予想以上に大きいはずだ。そのためだけでも「一太郎2015スーパープレミアム30周年記念パック」を購入する意義はあるだろう。

阿久津良和(Cactus)