2月14日、15日にFirefox OSのハッカソンが開催されると発表された時、Twitterでは悲鳴が上がっていた。というのも、国内初のFirefox OSスマートフォン「Fx0」のお披露目会も2014年12月23日の祝日であり、関連イベントが連続して「カップルのデート日和」であったからだ。

そして何故か、お披露目会に続いてハッカソンも取材することになった筆者だが、70名の枠に対して100名が応募したように、参加者の熱量はチョコをも溶かす激しいものだった。参加者の多くは男性で、一心不乱にコードを打ち込み、どういうアプリケーションを組み上げるか真剣に議論しあう。そんなハッカソンの内容とは。

WoT時代のOS、WoT時代のハッカソン

「Firefox OSとは何か」という問いについては、初心者講座のレポート記事(Firefox OSのここがわからない - そんな人へKDDIが"Fx0使いこなしセミナー")をご覧いただきたい。

このハッカソンでは、「Fx0」とモバイルSoCのアーキテクチャなどを手がける英ARMが提供するデバイス開発プラットフォーム「ARM mbed-enabled devices」を活用して、Webに繋がるモノ作りやモノと人を繋げるWebアプリを作る。14日はトークセッションとそれぞれのチームの自己紹介、アイディア出しを行い、15日まで制作を続けて、成果物を発表するという流れだ。

KDDIは、Firefox OS端末を投入するにあたり、開発ボードを2014年10月から提供しているが、これに並ぶ形で今回提供されているのがARMの開発プラットフォームであるmbedだ。

mbedと各種センサーを組み合わせてIoTの末端デバイスとして作り上げる

ARMは、セグメント マーケティング オペレーター セグメント マネージャーの清水 章氏やInternet of Things ビジネスユニット スタッフアプリケーションエンジニアの渡會 豊政氏らが技術アドバイザリーとしてハッカソンの場にとどまり、各チームのサポートを行っていた。

mbedは、渡會氏の肩書にもあるように「IoT(Internet of Things)」の時代に適したマイコンで、Webを通してすべてのものに繋がっていく「WoT(Web of Things)」にも密接なかかわり合いを持つ。

マイコンで言えば、ここのところRaspberry Pi 2も人気を集めている。ただ、あちらがLinuxの開発環境を必要とする(Windows 10に対応予定)のに対し、mbedはWebブラウザ上で開発ができることを特徴としており、OS環境に依存することなく、自由な開発ができるというわけだ。

Web上で開発できる魅力は、Firefox OSのWoTの世界観と合致するところであり、今回のハッカソンに持ってこいの存在。渡會氏は「ハッカソンは組み込み系とWebアプリ系の人で分断しがちだが、今回は両方の人材が来て、チームごとにコラボレーションしているケースが多い」と、WoT時代の先駆けとなるハッカソンになる感覚を掴んでいる様子。

清水氏も「昨今、IoTと盛んに言われていますが、Webと組み込みがもっと繋がっていかないと肌で感じています。ARMはアメリカでAT&Tと共同で一年間、2カ月に1回程度のペースでハッカソンを開催しましたが、国内でこうした取り組みは初めて」と話し、今回のハッカソンに期待を込めているようだった。

ARM以外にも、Gracenoteや楽天、日本マイクロソフト、スイッチサイエンスなどが開発チームに協力。日本マイクロソフトはAzureのmBaaSやWebサイトの機能を提供したほか、楽天は、楽天のサービスで扱う情報を取得できるAPI、Gracenoteは、音楽メタデータを利用できる楽曲情報API、Rhythm APIを提供した。

また、ハッカソンの活動記録として、Mozillaが提供しているプロジェクト管理ツール「Fabble」が多くのチームに利用された。

詳しくはFabbleのFirefox OSハッカソンページで見られるが、Githubでサインインでき、派生プロジェクトの管理も容易となっている。参加者の反応も上々のようで、気になったプロジェクトがあったら、是非参考にしてほしい。

ハッカソンの結果は?

このハッカソンでは、「Fx0賞 by KDDI」や「ARM賞」「Mozilla賞」「Microsoft賞」「Gracenote賞」という5つのアワードが設定されており、12チームがアワードをかけて争った。

わかりやすかったで賞

5つのアワードと記したが、ハッカソンの見学で来場していた高校生によって、急遽「わかりやすかったで賞」が創設された。選ばれたのは「ダンス ダンス ウェアラブル(D.D.W)」。足元に加速度センサーなどを取り付け、スマートフォンに熱中しがちな子供たちが「外で体を動かす体験をできるように」というコンセプトで開発。

高校生たちからは「ビジネスモデルもしっかり練られている」として、この賞が送られた。実際にこのアイディアを具現化したいとして、チームのメンバーは「KDDIにご支援いただけたら」と、同社のスタートアップ支援プログラム「KDDI∞ラボ」への応募を検討していた。

軽快なダンスを披露

Microsoft賞

Microsoft賞は「ハムクラウド」が選ばれた。ハムクラウドは、ハムスターなどの小動物の餌や水の管理をアプリで実現するもので、水が減っている場合などに、アプリで状態を確認できる。

データをMicrosoftのクラウドサービス「Microsoft Azure」へ送り、数値を管理する。特に、mbedから直接クラウドに接続できるというメリットを最大限に活かした手法が評価の対象となっていたようだ。

Gracenote賞

Gracenote賞は、空気よめなかったチームの「空気をよみたい ジュークボックス」が受賞。

これは、自宅などの"空気感"を読んで音楽を再生してくれるというもの。GracenoteのWeb APIを用いて音楽を検索。検索結果を元にYouTubeや楽天サービスから音楽を拾ってくるという構想となっている。

Fx0賞 by KDDI

Fx0賞は、Sunny Finderが受賞。Sunny Finderは、光源を探し求めて観葉植物が載ったプランターなどを移動させるというもの。

今回はキャタピラーが用意されていたため、Fx0の照度センサーと組み合わせ、光を探し求めて"キュルキュル"と探しまわる様子が好評を得ていた。

Mozilla賞

Mozilla賞は、山本ブラザーズ うみとねこの「Cycling 55」が受賞。同チームは、ローラートレーニングを楽しくしようというコンセプトのもと、頑張れば頑張るほど、"楽しくなるような音楽"を自動的に流す仕組みを作り上げた。

サイクリングではなく、ローラートレーニングは退屈になりがちであるため、ストリートビューのデータを持ってきて、市販の自転車の回転計測センサーなどと組み合わせて、あたかも都市の中を自由に快適にサイクリングしている環境を再現。現場では実現できなかったものの、GracenoteでBGMレコメンドも行うような仕組みを検討していた。

ARM賞

最後のARM賞は、レッサーパンダチームの「わらうフォクすけ」が受賞。その名の通り、Firefoxのマスコットキャラクター「フォクすけ」の顔の部分にFx0を取り付けて顔の表情を擬似的に作り上げ、笑ったり驚いたりする様子を見せた。

Sunny Finderと同じく、フォクすけの下にキャタピラーを取り付けており、ラジコンのように操作できる。ラジコン操作は、フォクすけ側のFx0を同端末の機能である「サーバー」として仕立てており、HTMLファイルを置いてその上で操作を可能とした。

かなり完成度が高く仕上げられていて、会場の反応も上々だった。実際に商品化される場合にはFx0は利用されないだろうが、仕組みとしては面白い考え方と言えるだろう。

なお、アワードの発表後には3月14日のホワイトデーに、再びハッカソンを開催するとの発表も行われた。悲鳴が上がる中で「参加する」と高らかに宣言する強者も。筆者はできるだけ取材したくないなと思いつつ、恐らく予定が空いているので、今度のレポートもご期待ください。

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