マーケティング・オートメーション(以降、MA)は、企業のマーケティング活動を自動化するためのソフトウェアであり、今、最も注目されているビジネス・アプリケーション分野の1つである。本稿では、MAを効率よくかつ効果的に導入するコツを考えてみたい。

初めに、MAの基本情報として、「定義」「ルーツ」「自動化の対象」について整理しておこう。

マーケティング・オートメーションの定義とルーツ

英語版のWikipediaでMAの定義を調べてみると、「マーケティングに携わる組織が、メール、ソーシャルメディア、Webサイトといった多様なチャネルを通して、より効率的にマーケティングを行い、繰り返し作業を自動化するためソフトウェアプラットフォームと技術の総称」とある。

MAは目新しいソフトウェア分野ではない。ユーザー企業の中には、MAをメール・マーケティングやWebマーケティングの概念を拡張して取り入れたソフトウェア製品としてとらえる傾向もあるかもしれない。確かに、MAに分類される製品の中には、マーケティング担当者が設定した対象者グループに対して、メールを一斉配信するツールを前身とするものや、キャンペーン管理から機能拡張した製品群もある。

しかし、この認識は誤りである。なぜなら、先に紹介した定義で見たとおり、モバイル・デバイスやソーシャル・メディアといった新しい技術の台頭により、さらに多様化した顧客との接点をより効率的に活用するため、統合的なマーケティングプラットフォームの必要性が高まっているためである。

そして、現在注目されている製品群がこれまでの技術とは異なり、あらゆる顧客とのコンタクトポイントを網羅することを前提とした製品設計である点に、ユーザー企業は留意するべきである。

自動化の対象

オートメーション(自動化)というとピンとこない読者もいると思うが、マーケティングに限らず、ITがサポートするビジネス・プロセスの自動化は、作業進捗のスピードを上げること、もしくは判断のスピードを上げることに大別される。

その意味するところは、ビジネスプロセス全体における担当者の介在をできるだけ排除することではなく、マーケティング活動において頻繁に発生する作業や、担当者が俗人的にExcelでやっているリスト作成のような手作業を減らすことにある。また、オートメーションは業務効率化と密接に関わっているが、焦点となるビジネス・プロセスはリード(Lead:見込み顧客)の獲得と育成であり、マネジメントの質を高めることを支援するソフトウェア分野でもある。

さらに、このプロセスの前後に連なるマーケティング・インテリジェンスやバックエンド・プロセスとの連携も忘れてはならない。これらは顧客を正しく理解するうえで不可欠なことだからである。ここでのマーケティング・インテリジェンスとは、さまざまな顧客接点を通して入ってきたリードを分析して適切なセグメンテーションを行うこと、マーケティングキャンペーンの実施評価や購買行動を分析することなど、PDCAサイクルをうまく回すための活動を想定している。

そして、新しい顧客からの受注獲得、受発注管理、出荷管理、支払い請求管理といったバックエンドのビジネス・プロセスと分断なく連携することで、「顧客当たりの生涯購入金額の最大化」という売上への明確な貢献を可視化することができる。

では、MAが必要とされる背景にはどのようなものがあるのだろうか?

MAが必要とされる背景

リーマンショックに端を発した経済環境の悪化により、多くの企業が国内の既存顧客との長期的関係を維持していくだけではビジネスが成り立たなくなっている。このような日本企業にとって、海外市場までを視野に入れた新規顧客の開拓が急務である。

また、企業はITに対し、これまでの企業向けITが得意としてきた業務効率の向上やコスト削減に向けた施策ではなく、より売上に貢献することを求めている。MAは、こうした新しい市場に進出しようとする企業の課題に直結した解決方法を提示する。

SFAとの関係

売上に貢献するソフトウェアと言えばSFA(Sales Force Automation)がある。SFAは既存顧客との関係性を維持するための顧客データマネジメントのプラットフォームであるのに対し、MAは有望なリードを対象とするビジネスプロセスの効率化に焦点を当てるものである。

SFAから見たMAは受注確度の高いリードに関するデータを引き渡すものであるため、SFAとMAは補完関係にあることになる。両者が交差する部分がある理由は、マーケティングから営業にリードを引き渡す際に、双方の合意が必要となるためである。

すでにSFAを導入している企業にとって、MAは販売の前のプロセスを強化するものであると同時に、導入顧客ベースを強固なものにする点で貢献できるだろう。

MAとSFAの関係

MAのターゲット

筆者はMAの導入が進んでいくのはリードの育成に時間のかかるB2B企業が中心になると考えている。また、B2C企業の中でも購入に至るまでのプロセスに時間のかかる企業も導入効果が得られるだろう。ただし、「マーケティング情報システム」を構築する場合、B2B企業とB2C企業ではデータやビジネスプロセスのマネジメント方法も異なる。これは、B2B企業とB2C企業では見込み顧客に対するアプローチが異なるためであり、ソフトウェアベンダーも共通機能とそれぞれに対応した機能の両方を提供しなくてはならない。

後編では、MAが、リード獲得から顧客獲得に至るまでのリード・マネジメント・プロセスをどのように支援するかについて説明する。