第1回ウェアラブルEXPO内Kiiブース

1月16日、「第1回ウェアラブル EXPO」の専門セッション会場で開催されたセミナーに、BaaS(Backend as a Service)をグローバル展開するKiiの執行役員 技術統括、石塚進氏が登壇。「IoT(Internet of Things)に向けたバックエンドサービスについて」と題し、急成長するIoT市場とそこでの重要性が増すBaaSの最新動向を解説した。本稿では講演の模様を紹介する。

IoTでコンピューティング環境はどう変わる?

IoTの流れが加速している。CiscoやEricssonの予測によると、IoTデバイスの数は今から3年後の2018年には90億に達する見込みだという。これは現在のPCやスマートフォン、タブレット、ウェアラブル機器、スマートTVの総数に匹敵する規模だ。さらに、その2年後の東京オリンピックが開催される2020年には、IoTデバイスの総数は260億にまで拡大する見込みだという。

こうした予測を見る限り、IoTが企業や消費者のコンピューティング環境を激変させることはほぼ間違いない。ではコンピューティング環境は具体的にどう変わるのか。Kiiの石塚氏によると、この変化を読み解くキーワードの1つが「IoT BaaS」だ。

Kii株式会社 執行役員 技術統括 石塚進氏

「IoT BaaSというのは、IoTに向けたバックエンドサービスのことです。スマートデバイスやウェアラブル、センサー機器などのさまざまなIoTデバイスがインターネット上でつながるなかで、サービスに必要となるサーバ側の機能を提供します」(石塚氏)

IoTが一般化すると、企業や消費者はIoTを使用したサービスを日常のインフラとして利用するようになる。しかし、こうしたIoTサービスでも、デバイスやコンピューターとしての機能より、提供されるサービスの価値やユーザー体験そのものが重要なのに変わりはない。そこでポイントになるのが、BaaSを使ってサービスの開発やサービス間の連携を効率化し、サービスそのものの価値や品質を高めることだ。IoT BaaSはそうしたコンピューティング環境の変化にこたえるものなのだ。

Kiiはもともと、スマートフォン向けのモバイルバックエンドサービス(MBaaS)である「Kii Cloud」を展開する日本企業として知られていた。日本のほか、アメリカ、中国、シンガポールにサーバを持ち、モバイルアプリ開発とアプリのグローバル展開を支えてきた。

石塚氏は、モバイルとIoTでは、サービスに求められる機能や要件が共通することが多いと強調する。実際、これまでにもKii Cloudに対して、IoTを使ったサービスに対するリクエストが数多く寄せられてきたという。IoT BaaSは、開発者の新しいニーズにこたえるサービスとして、いま注目度が増している状況だ。

なぜIoTバックエンドサービスが必要か

では、このIoT BaaSへの注目はどのような背景から来るのだろうか。石塚氏は「なぜIoTバックエンドが必要か」と問いながら、これまでに同社に寄せられたIoT関連のリクエストの背景を大きく、IoTサービスの初期開発と、サービス開始後の展開 (3rd Partyエコシステム)という2つの観点から説明した。

IoTサービス開発というのは、たとえば、企業がウェアラブル機器を使ってヘルスケアサービスを開発するようなケースだ。こうしたサービスを自社で一からすべて作ろうとすると、APIのデザインから、デバイスの実装、サーバAPIの実装、Webベージの実装、スマホアプリの作成、サーバのメンテナンスなどといった作業が発生する。

「開発を進めていくと、こうした一連の作業すべてを自社でやる必要があるか、という意識が出てきます。ユーザー体験こそがサービスのコアなバリューで、それはアプリやWebページの開発などから生まれます。コアでない部分については、自分たちで人やコストをかけずに外部のリソースを使う。それにより、サービスを開発している企業はユーザー体験に直接かかわる開発に集中できるようになります」(石塚氏)

サービスを開始した後も、自社でバックエンドを持つ場合はその管理やメンテナンスは必要だ。またIoTサービスでは、他社のサービスと連携したエコシステムの構築が大きなポイントになる。

連携には3rd Party向けにAPIを開発する必要がある。その際には、認証や認可のセキュリティ機能、どのアプリがどれだけAPIを使ったかなどの使用量管理機能、使用量の増加にともなうサイジングなどの開発が追加で必要になる。また、デバイス開発とアプリ開発という"文化や開発スタイルの違い"に配慮したうえで、アプリ開発者が使いやすいと感じるAPIを作っていく必要がある。

こうしたことはデバイスメーカーにとっては新しい取り組みになることが多く、スムーズに進めることがなかなか難しいのだという。それが外部サービスを使おうという動機につながっている。さらに、石塚氏はデバイス同士を直接連携させるのではなく、クラウドを通して連携させることで、新しい価値の創造が可能になることも指摘した。

「デバイスから取得したデータをほかのサービスのデータと連携する、またはデータをユーザー同士で共有するなどの、新しいサービスを提供できるようになります。デバイスを売って終わりではなく、クラウドとつなげることで、3rd Partyエコシステムが作りやすくなるのです」(石塚氏)

3rd Partyエコシステム
Cloud経由でAPIを提供することでエコシステムができる

Kii Cloudを使った3rd Partyエコシステム

石塚氏は、Kii Cloudを使った開発事例も紹介した。まず、IoTサービスの適用事例としては、データ集計とリモートコントロールが"2大パターン"になるという。

1つめのデータ集計は、IoTデバイスから収集するデータをサーバにアップロードしていき、それを集計してパートナーやユーザーが活用するというパターンだ。具体的には、台湾のスタートアップであるRootiが提供する「CliMate」というアプリを挙げた。

CliMateは、外に持ち出せる手のひらサイズのデバイスを使った環境センサーだ。温度、湿度、紫外線量というデータをサーバに収集し、スマートフォンを使ってユーザー同士のコミュニケーションに利用する。たとえば、外出先の気象をリアルタイムに確認したり、日焼け止めクリームが必要かどうかの情報を教えてもらったり、突然の気象変化や気温変動をプッシュ通知で受け取ったりするわけだ。

Kii Cloudは、ユーザーのサインアップ(SNSアカウントを使ったログイン)、ユーザーとデバイスとの紐付け、データのアップロード、データのスマートフォンへの配信、分析のためのデータの定期的な集計といった一連の動作を実現するための機能を提供している。

2つのめの、リモートコントロールについては、中国のある家電メーカーが提供するLED電球の事例を紹介した。このLED電球の最大の特徴は、インターネットに接続できること。スマートフォンを使って遠隔からOn/Offができるだけでなく、どんなタイミングでどのように使用されるか、またその月々の使用料などをデータで把握できるようになっている。データを分析することで、事業者側が故障の予兆管理やユーザーサポートなどに利用することもできるという。Kii Cloudの機能としては、ユーザー管理、データ管理、プッシュ通知などを利用している。

これらの事例における最大のポイントは、3rd Partyエコシステムの構築につながることだ。Bluetoothや赤外線を使ってLED電球を操作することはできる。だが、それだけでは、デバイスはユーザーとの間だけの関係にとどまってしまう。デバイスがインターネットにつながるようになると、データを共有して活用することで、エコシステムがどんどんリッチになっていくのだ。

Kii Cloudができること

最後に石塚氏は、Kii Cloudにおける機能や特徴を簡単に紹介した。IoT BaaSとして利用できる機能としては、ユーザー・機器管理、データ管理、分析、プッシュ通知、サーバ機能拡張がある。

ユーザー・機器管理の特徴は、紐付けの柔軟性にあるという。IoTサービス開発とモバイル開発では、ユーザーとデバイスを1対1や1対nだけでなく、n対nでつなげるケースが増えるという。Kii Cloudでは、そうした紐付けを柔軟に行うことができる。また、データ管理では、位置情報を簡単に埋め込めることや強固なセキュリティを持ったアクセスコントロールが特徴だ。

このほか、サーバ機能拡張を使って拡張APIの開発が可能なこと、ドキュメントが3ヵ国(日・英・中)で提供され、海外展開もサポートできること、さらにクラウドだけでなくオンプレミスでの利用も可能なことなど、Kii Cloudならではの特徴が多いことを紹介した。

IoTが急成長するなか、IoTサービスの開発を効率化するバックエンドサービスのニーズも高まっている。モバイル開発で培ったノウハウを持つKiiは、この分野でも先駆的な役割を果たし、今後の展開が注目される。