世界的に注目されている仏経済学者、トマ・ピケティ氏が31日、日本記者クラブで質疑応答中心の会見を開きました。

トマ・ピケティ氏

「低成長のもとでは、低所得層は不平等さを実感」

冒頭でピケティ氏は、

「私の著書『LE CAPITAL 21世紀の資本』が日本語で出版されたことをとても嬉しく思う。私の研究は『所得と富の分配』をテーマに、歴史的なデータを集め、世界中の研究員の協力のもとに行われている。もちろん完璧ではないが、(不平等に関する分析について)一定の進捗状況を提示できたのではないか」

と自身の研究内容について説明しました。

そして、不平等の考え方についてピケティ氏は、

「現在、米国、欧米、日本などにおいては、所得最上位層10%の所得が総所得に占める比率が高い。富裕な上位10%が全所得の多くのシェアを占めているのだ。20世紀前半は、現在よりは不平等の伸びが鈍化していた。これは大きな戦争、つまり大きなショックによって資本が分散されたことが背景にある。だが、戦後は格差が拡大する。それは米国において最も顕著であり、日本や欧米もそれに続いている」

「日本でも上位10%の層が全所得の40%を所有しているのだ。仮に、この不平等が共通の効用に基づくものであれば問題はない。また高成長を遂げている上げ潮の社会であれば、不平等の問題は生じない。しかし、現在のような低成長のもとでは、実際にデータを見なくとも低所得層は、(自分たちを取り巻く)不平等さを実感できてしまう。さらに、不平等の度合いが高まると、一極に富や権力や発言力が集中し、民主主義が脅威にさらされやすくなる」

と解説しました。

「マーケットの巨大すぎる力を抑えられる民主主義の仕組みや制度が不可欠」

また、不平等とグローバル化についてピケティ氏は、

「不平等はグローバル化によってもたらされるものではない。グローバル化は不平等を生む原因の説明の一部でしかない。私自身はグローバル化を否定しておらず、むしろ信じている。グローバル化は、エマージング諸国の成長を促し、世界にある貧困を救うことができる。ただ、そこには民主主義の仕組みが必要だ」

「マーケットの巨大すぎる力を抑えることのできる(フィナンシャルな面において)透明性のある民主主義の仕組みや制度が不可欠だ。その上でインフラを整備するなどして途上国を成長させるべきであろう。例えば、中国などは所得や富の配分に関する統計がなく、不透明であるがために腐敗がなくならない。貧困をなくすためには腐敗と戦う姿勢が必要だ。不平等をなくすためには、各国が政策や制度を駆使して対応していくことが重要になってくる」

と述べました。

「日本の富も高齢者に集中、若い人たちに利する税制を」

さらに、日本が進める経済政策についてピケティ氏は、

「消費税率の引き上げは、経済成長を促していない。日本の富も高齢者に集中しているが、経済成長につなげるためには、若い人たちに利する税制を導入すべきだ。万人を対象とする消費税の増税は良い政策だとは思えない」

「労働所得や中・低所得の課税率を引き下げ、不動産などの富を持つ高所得者には課税率を引き上げるなどの措置が必要だ。若者や女性、パートタイマーなどを優遇する税制のもとで出生率が上昇すれば、人口減少を食い止めることもできる。日本においては労働市場の改革も重要課題である」

と解析しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。