日本のテニス界を引っ張る錦織圭選手の強さの秘密とは

日本男子テニス界のエース・錦織圭選手の勢いが止まらない。日本時間1月26日にオーストラリアのメルボルンで行われた全豪オープンの男子シングルス4回戦では、世界ランキング10位のダビド・フェレール選手(スペイン)にストレートで勝利。同大会で3年ぶりとなるベスト8入りを決めた。

昨年9月の全米オープンでは、日本人の男子シングルスでは初めてとなるグランドスラム準優勝を経験。同じく11月には、世界の一握りのトッププレーヤーのみが出場を許される「ATP ワールドツアー ファイナルズ」に日本人として初めて出場した。世界ランキングも自己最高位を更新し、5位まで登りつめた。

テニス界は長く、現在世界ランキング1位に君臨するノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)、ロジャー・フェデラー選手(スイス)、ラファエル・ナダル選手(スペイン)、アンディ・マレー選手(イギリス)による「ビッグ4の時代」が続いた。そんな時代に終わりを告げるかのように、日本から世界に羽ばたいた25歳の若武者がまばゆいばかりにコートで煌(きらめ)きを放つ理由に迫った。

優れたリターン力

錦織選手の持ち味といえば、真っ先に挙げられるのが「世界屈指のリターン力」ではないだろうか。

世界のトップランカーたちは、当たり前のように200キロを超えてくる高速サーブを放ってくる。だが、錦織選手はそのサーブに屈することなく、必死にボールを拾う。ビッグサーバーの豪速球サーブに差し込まれても、コースをしっかりと狙いにいく。そしてラリーの応酬になれば、正確無比なストロークと相手をあざ笑うかのようなドロップショットなどの多彩な引き出しを武器に、ポイントを奪っていく。

一度サーブのコースが甘くなれば、リターンエースを積極的に奪いにいくのも特徴だ。相手が放ったセカンドサーブを、錦織選手が狙いすましたかのようなダウン・ザ・ラインの一撃で沈める――。そんな光景を幾度となく見たテニスファンも多いだろう。

前へ踏み出す勇気

錦織選手のリターン力をより高い次元へと引き上げているのが、「前へ踏み出す勇気」だ。

錦織選手はチャンスと見るや、ベースラインから積極的に一歩前へと踏み出してリターンをする。前に出てリターンのタイミングを早めた分だけ、相手は予備動作に入るのが遅れたり、強打ができなかったりする。コンマ何秒の世界ではあるが、相手の"スキ"を作ることに成功すると、錦織選手はよりアグレッシブに攻めの姿勢へと転じる。前へ前へと出ることで、相手の思考時間とプレーの選択肢を奪うのだ。

その勝負どころを見極めるための眼力や「一歩の勇気」を養うことができたのは、昨季から師事しているマイケル・チャンコーチの影響も大きいだろう。

セカンドサーブからのポイント奪取率の高さ

錦織選手のリターン力を計測するにあたり、面白いデータがある。全豪オープンの錦織選手は、「相手セカンドサーブ時のポイント奪取率」が高いのだ。

1回戦の相手であるニコラス・アルマグロ選手(スペイン)は、試合を通じてセカンドサーブで39%(46本中18本)しかポイントが奪えなかった。すなわち、セカンドサーブ時には61%の確率で錦織選手にポイントが入っていたという計算になる。

この考え方でいくと、錦織選手が相手セカンドサービス時にポイントを奪っていた確率は、3回戦までの試合を通して平均64%になる。同じ条件で比べると、世界ランキング1位のジョコビッチ選手(62%)、同3位のナダル選手(56.7%)と遜色ないどころか上回っているのだ。

もちろん、それぞれで対戦相手が異なるため、あくまで一つの参考目安としかならない。それでも、サーバー有利ではないセカンドサービス時に、錦織選手が得意なストローク戦に持ち込むことで、そこからしっかりとポイントを重ねている傾向が見てとれる。

200キロを超えたサーブと新ラケット

新たな「相棒」を手にしたことで、サーブにも磨きがかかっている。

世界のトップレベルで戦っている錦織選手だが、唯一の"弱点"となっていたのがサーブだった。昨年の「ATP ワールドツアー ファイナルズ」での4試合での平均最速は約194キロ。最速200キロ超えの選手が当たり前のようにいるトップランカーたちの中で、錦織選手のサーブは決して速いとは言えなかった。

だが、今年は打球スピードが上がる新ラケットを携えて試合に臨んでいる。その効果は着実に出ており、1回戦と2回戦では最速197キロを計測。3回戦では199キロとあと1キロで大台というところにまで迫り、4回戦のフェレール戦でついに201キロをマーク。本人が願っていた200キロ台のサーブがついに実現した。

200キロのスピードに加え、より厳しいコースを狙える正確性も向上させたことで、サーブは格段にレベルアップ。上位選手たちとこれまで以上に対等に戦えるようになった。もちろん、新ラケットはサーブだけではなくラリー時にも効果を発揮。球威のあるサーブだけではなく、より速いゲーム展開で勝負を決めにいくテニスをも可能にしている。

全米オープンでの忘れ物を取り戻す

全豪初の4強をかけた相手は、前年の同大会覇者、スタン・ワウリンカ選手(スイス)。順当にいけば、ワウリンカ選手に勝利しても王者・ジョコビッチ選手と準決勝で相まみえることになり、決勝はナダル選手かマレー選手らとぶつかる可能性が高い。

厳しい戦いが続くが、その試練を乗り越えたときに初めて、昨年9月にUSTAナショナル・テニス・センターに置いてきた「世界一」という名の忘れ物を取り戻すことができる。その軌跡を楽しむとしよう。