世界的に、化石燃料から再生可能エネルギーへと移行する流れ

今、世界のエネルギー資源は『枯渇性エネルギー』と『再生可能エネルギー』の大きく二つに分けて考えられています。枯渇性エネルギーとは、文字通り地球上での資源埋蔵量に限りがあるとされ、代表的なものが石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料となります。一方の再生可能エネルギーとは、絶えず資源が補充されて枯渇することのないエネルギーであり、具体的には太陽光、風力、水力、地熱などが挙げられます。

最近では世界的に、化石燃料から再生可能エネルギーへと移行する流れが進行しています。

その背景には、やはり深刻な状況にある環境問題への取り組みがあります。

石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料は、過去の植物や動物の遺骸が地質時代に堆積物となり、その後、変化して生成された有機物です。これらの燃料は燃やすと、CO2(二酸化炭素)やNO、 NO2、 N2O4(窒素酸化物)、SO2(硫黄酸化物)などを発生させ、これらが大気中に排出されることにより、大気汚染や酸性雨、地球温暖化などの環境破壊へとつながるのです。

20世紀の100年間で地球の平均気温は0.6℃上昇し、このまま温暖化が進むと、100年後に地球の平均気温は4℃も上がると推定されています。

地球温暖化への取り組みは、今や世界的な優先課題となり「限りある資源をどのように有効活用すべきか」「次世代に残す地球を少しでもきれいに」と、世界中の科学者や環境学者たちが新しい資源開発に力を入れ始めています。

温泉リゾートのチナ・ホット・スプリングス、『地熱資源』の研究・開発に成功

そうした流れのなか、原油が豊富な米・アラスカにおいても、化石燃料以外のエネルギー資源の開発が進められ、フェアバンクスから100km離れた温泉リゾート、チナ・ホット・スプリングスは、再生可能エネルギー『地熱資源』の研究・開発に成功しました。

温泉リゾート、チナ・ホット・スプリングスは白樺の樹などの森林に囲まれている(C)GHENA HOT SPRINGS

温泉の様子(C)GHENA HOT SPRINGS

2006年7月に、世界的でも名高い多国籍企業UTC(ユナイテッドテクノロジーコーポレーション)と共に、400KWの電力を常に作り出す地熱発電所を建設したのです。チナ・ホット・スプリングスはリゾート全域で使用される全ての電力の供給を、この地熱発電所で賄うシステムを構築しました。

地熱発電所のタービンと発電機、ポンプ(C)GHENA HOT SPRINGS

地熱とは地球の内側にある熱のことで、地熱発電は、地中深くにある蒸気や熱水をくみ上げて、タービンを回して発電します。地熱エネルギーは豊富にあり、天候に左右されることがないため、昼夜を問わず一年中安定して発電することが可能です。特に天候に左右されないという点は、太陽光や風力よりも安定的に供給できます。

世界でも稀な低温でも機能する地熱発電所が完成

現在、チナ・ホット・スプリングスの地熱発電に使われる地熱の温度は74℃と、通常のシステムの温度104℃以上に比べてかなり低く、開発当初は、寒いアラスカでの地熱発電は不可能とされていました。しかし、UTCとの共同研究を重ねた結果、世界でも稀な低温でも機能する地熱発電所を完成させたのです。経費も従来の地熱発電の20%まで削減できました。地熱発電所で作られた電力は、ホテルや施設の加熱や冷却(電気など)の他、様々な形で実用化されています。

例えば、地熱によって温められた水を利用して、屋内の室温を温める野菜温室を建設し、トマト、レタス、ハーブ、グリーン野菜などを無農薬で栽培しています。

地熱発電によって温められた水と温風を利用して屋内の室温を上昇させて野菜を栽培しているグリーンハウス(野菜温室)。常に27℃に保たれている(C)GHENA HOT SPRINGS

400平方メートルの温室では、トマト、レタス、イチゴ、ハーブ類などの野菜が無農薬で栽培されている(C)GHENA HOT SPRINGS

また、リゾートがオフシーズンとなる時期には、水をエレクトライザー(電気分解機)で電気分解して水素を作り出し、この水素を利用した電気自動車の開発も進めています。敷地内での自動車運送や送迎バスにこの燃料を使用することで、地球環境に影響の少ない自給自足のコミュニティー作りを目指しています。

チナ・ホット・スプリングスの地熱発電所は、これまでの地熱資源開発に対する見方を大きく変え、アラスカでの地熱資源開発が世界的に注目されるきっかけとなりました。

エネルギー資源の大部分を輸入に頼る日本ですが、火山地帯に位置することから温泉地も数多く、地熱発電の可能性は高いと言われ続けています。

小規模とは言え、チナ・ホット・スプリングスの成功によって、日本を含む世界の再生可能エネルギー『地熱』の研究・開発の道が拓かれたのは確かだと言えそうです。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。