人はなぜ宇宙に惹かれるのだろうか。サイエンスやテクノロジーの領域においても、映画や漫画・アニメーションといったクリエイティブな領域においても、宇宙は多くの人の想像力を駆り立てるものであり続けている。現実の宇宙も創作の宇宙も、一般の社会に生きる今の我々にとっては触れ得ぬ存在だが、実際に宇宙を経験したことのある人にとっては、それはどのようなものであるのだろうか。

2010年にスペースシャトル ディスカバリーで宇宙へ飛んだ宇宙飛行士・山崎直子氏
撮影:田村与(Sketch)

今回は2010年にスペースシャトル ディスカバリーで宇宙へ飛んだ宇宙飛行士・山崎直子氏にお話しを伺う機会を得た。山崎氏が最初に宇宙へ憧れを持つきっかけになったのは、子供の頃に『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』といった作品をテレビで見たことだったという。憧れるところまでは多くの人が同じでも、一生のうちに実際に宇宙に行く経験ができる人はごくわずか。今の時点では、特別に訓練された人たちが宇宙で特定の任務をこなす、宇宙飛行士だけだ。宇宙を経験した人にとって、実際の宇宙とはどんなものなのか、映画やアニメーションなどのSF作品はどのように見えるのだろうか。山崎氏にお話を伺った。

大人になったらみんな宇宙に行けると思った

――子供の頃は、どんな作品をご覧になっていましたか?

幼稚園生の頃に『宇宙戦艦ヤマト』を見ていました。おぼろげに『アルプスの少女ハイジ』も見たいと思っていた憶えもあるのですが、3歳違いの兄の影響でヤマトを見はじめて。そうしたら、面白かったんです。子供心に、宇宙はすごいな、いつか行きたいなと。大人になったらみんな行けるんじゃないかと思っていました。

他にも、子供が普通に見るような『キャンディキャンディ』や『ドラえもん』も好きでしたが、最初に見始めた『宇宙戦艦ヤマト』は強烈でした。宇宙という舞台そのものにワクワクしましたし、後で見直すといろいろといい場面もあるんですよ。沖田艦長の『何もかも皆懐かしい』というシーンも。沖田艦長は子供の頃からカッコいいと思っていましたね。」

――JAXAにも『ヤマト』をはじめSF作品のお好きな方が多いそうですね。

そういったSF作品から感化されて、JAXAやNASAで働いているという方はたくさんいます。日本以外の宇宙飛行士の中にも日本のアニメオタクという人が何人かいて、『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』、ジブリ作品などを英語で見たそうです。

宇宙飛行士は訓練を開始してから実際に宇宙に飛ぶまで、とても長い道のりです。その間に計画もどんどん変わり、実際に宇宙に行けるかどうかわからない中で、小さい時からの"好き"という単純な思いがある意味一番のモチベーションというか、エネルギーになっていたと思います。だから何年かかっても、大変なことがあっても、それが苦ではない気持ちは大きかった。エンジニアや研究開発で携わっている方も長丁場であることが多いので、そういう好奇心が支えるところは同じなのだろうと。

――それらの作品を改めて思い返して、印象深いエピソードはありますか?

『銀河鉄道999』ではあの当時から"機械と人間"という奥の深いテーマを扱っていて、考えさせられました。『宇宙戦艦ヤマト』では、今でこそ高エネ研(高エネルギー加速器研究機構)などでいろいろな実験が行われている"反物質"というものがあの当時から出てくるんです。『さらば』(劇場2作目『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』1978年)はテレサという反物質世界の女性が登場して、最後は『ヤマト』と一緒になることで自爆し、なんとか地球を救うという話でした。

それが中学高校の物理でアインシュタインの[E=mc²]という公式が出てきて、実際の公理で表されるのだということにびっくりしたんです。ある意味美しいというか……。それで物理が好きになりました。でも、それが一歩間違えれば原子爆弾にもなるという科学の両面性を知ったのも作品の影響です。『ヤマト』の中でも古代君が敵を倒した後に「なぜ戦わねばならないのだろう」というシーンがあり、そうした勧善懲悪ではない奥深さも描かれていました。現在は完全新作劇場映画『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』もあり、こちらも観に行きたいと思っています。