ニュージーランドの中でもスコットランド文化を色濃く残している南島のダニーデンは、歴史や伝統に触れられる探訪が楽しめる街。真昼間からダニーデン発のニュージーランドビール「スペイツ」を味わうのも一興だ。その一方で、野生の極上の癒やしを求めるなら、ありのままのペンギンやアシカたちに会えるオタゴ半島のエコ・ツアーはいかがだろうか。

「イエローアイド・ペンギン」。飛び立とうとしているのではなく、熱を放出させるためにこうして胸を広げているんだそう

オタゴ半島はダニーデンのオタゴ港の南に突き出している一周約65kmの半島で、ダニーデン市内から半島の先端まで行っても、車で1時間もかからない。ニュージーランドに現存する唯一の城であるラーナック城も、この半島に位置している。

夏でも冷たい風が吹く外洋のそばには、ここでしか見ることができない動物たちが自然の中で生きており、エコ・ツアーに参加すれば保護地区にも訪れることができる。筆者は今回、「エルム・ワイルドライフ・ツアーズ」を利用したが、現地にはそのほかにも様々な会社がツアーを実施している。

人口よりもずっと多い数の羊が広い平原に放たれている。これもまたニュージーランドならではの風景だ

3m越えの翼で滑空

オタゴ半島の先端であるタイアロア・ヘッドには、本土で見られる唯一の「ロイヤル・アルバトロス」(アホウドリ)の営巣地がある。ロイヤル・アルバトロスは全長約1.2m、翼開長では3m以上にもなる世界最大級の海鳥で、このエリアには約2万1,000羽が生息しているという。周辺にはカモメもたくさん飛んでいたが、カモメのように羽ばたかずに滑空する姿は優雅ささえ感じてしまう。

また、タイアロア・ヘッドにはカフェやショップも併設した「ロイヤル・アルバトロス・センター」がある。センター内には、ロイヤル・アルバトロスなどの野生動物の生態をパネルや映像で紹介するコーナーもあるので、ここで休憩がてら野生動物の現状を学んでみるのもいいだろう。

カモメを追う「ロイヤル・アルバトロス」。遠目にもその大きさは実感できる

「ロイヤル・アルバトロス・センター」ではロイヤル・アルバトロスをはじめ、ニュージーランドで見られる野生動物をパネルやムービーで紹介している

鳥で言うと、黒鳥もニュージーランドで見ることができる。こちらはオーストラリアから移ってきたものらしいが、赤いくちばしがポイントで、潮の満干を見ながらよく港や潟で寝ているそうだ。また、プケコやフクロウなどもおり、ツアー中にうまく出合えれば、スタッフが特徴や性格などをいろいろ解説してくれる。

キリッとした黄色い瞳の固有種

好きな動物にペンギンを挙げる人も多いだろう。オタゴ半島では、世界18種のペンギンの中でも最も数が少ない「イエローアイド・ペンギン」と、世界最小のペンギン「ブルーペンギン」が生息している。

イエローアイド・ペンギンはニュージーランドの固有種で、温暖な地域に生息するペンギンの中では一番大きい種類となっている。名前の通り目が黄色いほか頭も黄色く、顔つきにはほかのペンギンと違ってタカやワシなどの猛きん類を思わせる鋭さがある。

凛々しい瞳が印象的なイエローアイド・ペンギン

彼らは他のペンギンと違って渡りをしない。日中は餌を求めて海へ行き、夕方には巣に戻る。また、とてもシャイらしく、コロニーを形成せず草木の中で隣から離れて住むのを好む。そのため、ツアーでは彼らのプライバシーに配慮しながら見守ることになる。

なお、ニュージーランドの5ドル札の裏にはイエローアイド・ペンギンが描かれているように、ニュージーランドの人たちにとって彼らは身近な動物なのだ。ちなみに、ニュージーランドの先住民であるマオリの言葉では「ホイホ」と呼ばれている。これは、「騒がしいやつ」という意味らしく、鳴き声にも特徴がある。

ちょうどこの時、"帰宅ラッシュ"のイエローアイド・ペンギンたちに遭遇。泳いで温まった身体を冷ますため、丘では羽を広げてちょこんとたたずんでいた。その"帰宅"の道中、彼らが羊たちの通行を見送るシーンもあった。イエローアイド・ペンギンは8月頃に巣を作り、9,10月に卵を温め、その6週間後にヒナが生まれる。訪れた時は12月初旬であったため、ちょうどヒナが巣の中で育っているタイミングだった。

巣にはヒナのイエローアイド・ペンギンもいた

もう一種類のペンギンであるブルーペンギンは、最も大きいペンギン「エンペラーペンギン」の3分の1程度の大きさ。海岸の草木や岩場などに巣を作るのだが、もちろんその巣穴も小さい。訪れた時は巣穴で休んでいる姿を見ることができたが、夜に岸へ上がってくる時は非常にうるさいらしい。

小さな巣穴の中で暮らす「ブルーペンギン」

「ロイヤル・アルバトロス・センター」に展示されていたブルーペンギンの写真

浜でみんなそろってお昼寝中

「ニュージーランド・シーライオン」(アシカ)は世界で5種類いるシーライオンの中でも最も珍しく、ニュージーランドの固有種である。マオリの漁で一時期減少したが、現在は増えつつあるそう。シーライオンはオットセイと異なり社交的で、日中は仲良く昼寝をしている姿も見られる。浜では本当に幸せそうな顔をして寝ているのだ。

大自然の中で野生を忘れたかのように眠る「ニュージーランド・シーライオン」

大人の雄は全長約3m・体重約400kgにもなり、およそ25年生きるという。雌は雄よりも小さくて色も薄い。見た目で違いが分かるのだが、砂をかぶってしまうと雄も雌のように見えてしまう。ツアー中、雄同士が言い合っているような場面に遭遇したが、「一方が雄を雌と見間違えて近寄り、もう一方が『雌じゃない!』って怒ったんじゃないかな」とガイドが教えてくれた。

おっとりして見えるシーライオンだが実は機敏で、水の中では200m以上潜水することができ、陸上でも時速20kmで動くこともある。人に対して警戒心を持っていないようなので間近にその姿を見ることができるが、寝ているからとむやみに近寄らず、ガイドの指示した範囲で観測を楽しむようにしよう。

なんだかストーリーを感じる

また、絶滅の危機にさらされながら繁殖に成功し、ここ2,3年で大きく数を増やしているのが「ニュージーランド・ファーシール」(オットセイ)だ。大きな雄は群れをつくって繁殖のテリトリーを守っている。子供は7,8月には離乳し、11月まで雌が海で餌を与えている。とはいえ、12月初旬でも親に寄り添って寝ている子供の姿や、岩場で子供たちが遊んでいる様子もうかがえた。逆に、くりっとした瞳でこちらをじっと見ている子もいたが、きっと好奇心旺盛な性格なんだろう。

「ニュージーランド・ファーシール」の中には、逆に人間の様子をうかがっている子もいた

「今この時も、あのシーライオンたちは浜で寝ているのかな」などと思うと、自然と顔がにやけてしまう。なお、ツアー参加料の一部は、外来動物の駆除やブルーペンギンの巣箱の設置など、野生動物がよりよい環境で暮らせるよう、保護地区の保全活動に使われている。野生動物を通じて、ニュージーランドの豊かな自然を知る体験もおススメだ。

※記事中の情報は2014年12月取材時のもの