北米時間で1月6日、米国ラスベガスでCES 2015が開幕した。初日の基調講演に米IntelのCEO、Brian Krzanich氏が登壇、同社が実現を目指す未来のコンピューティング技術の姿を披露した。全体的にはデジタルワールドとフィジカルワールドが合流する未来像を強調し、その内容は超小型SoC「Curie」など具体的な製品の発表から、RealSense技術を駆使し3D空間を通して人とコンピュータとのインタラクティブを変革するコンセプトまで多岐に渡った。

米IntelのBrian Krzanich(ブライアン・クルザニッチ) CEOが、開発が進む同社新技術によって実現を目指すコンピューティングの未来の姿を語った

タイトルは「The Next Consumer Technology Wave」。初代Pentiumの登場や、Centirno、Core等に続く、コンシューマ技術の新たな波とは、というテーマ

ムーアの法則は2015年で50周年にもなるという。Intelが未来の成功を探している

CES 2015にあわせてBroadwellベースの第5世代Intel Coreが発表となったが、講演の主役は、これまで同社のビジネスの主役であり続けたこれらPC向けプロセッサではなかった。スポットライトは第一に、「ウェアラブル」というキーワードに当たっていた。そして、ウェアラブルデバイスをターゲットに、QuarkベースのSoCにストレージや各種センサ等を組み合わせた超小型モジュール「Intel Curie」(キュリー)を公開した。

「Intel Curie」のモジュール。ところで、ガリレオから始まり、エジソンを経て、今度はキュリーである

こちらは参考までに「Intel Edison」のモジュール

Curieのモジュールには、32bitのIntel Quark SE SoCのほか、384kBのフラッシュメモリ、80kBのSRAM、Bluetooth Low Energy、バッテリ充電機能、独自のパターンマッチング機能を備えたDSP、6軸の加速度センサ、ジャイロスコープといった一式を実装。モジュールのサイズは"ボタン"と同等で、コイン大のバッテリで駆動する。今年後半に出荷を予定し、リアルタイムOSを含む開発キット「IQ Software Kits」も用意する。

Curieを用いることで、時計はもちろん、「指輪など装飾品、衣服などに組み込んで様々なウェアラブルが可能になる」とする。その証拠に、Curieデバイスの開発でコラボレートする企業のなかには、服飾関連の企業が含まれている。さらにアイウェアで知られるOakleyからはCEOのColin Baden氏がゲストで登場し、Curieを用いたアスリート向けのメガネ型ウェアラブル端末の開発がスタートしたことが明かされた。

ウェアラブルでコラボレーションする企業を紹介。名のある服飾企業の名前も並ぶ

Intelは従来から、米セレクトショップと共同開発でスマートブレスレット「MICA」を発表するなど、ウェアラブル端末にはファッション性の高さが必要と考えているようだ

OakleyのCEOがゲストで登場。スポーツタイプのメガネ型ウェアラブル端末が登場する見込み

あわせて今回、特に大きくフォーカスされたのは、「Intel RealSense」モジュールの応用事例である。3Dカメラや深度センサを備えるRealSense技術によって、現実世界をデジタルで拡張して体験することができるものだ。これまでは、PCの操作をジェスチャ等で拡張する用途や、娯楽や教育寄りのARでの用途などが紹介されてきた。

今年の第1四半期から、主要なPCメーカーによって、BroadwellがベースのRealSense搭載PCが登場してくる。ようやく少し第5世代Coreの"パソコン"の話題だ

RealSense搭載PCで、ジェスチャなどキーボードやマウス以外の操作ができると便利なシチュエーションを紹介。舞台はキッチンだ

PCで料理のレシピのWebサイトやお手本動画を見ながら調理中。手がべたべたでPCを触りたくなくても、空中をつまんで動かすジェスチャ操作でWebブラウザをスクロールし、プレイビデオ/ストップビデオの音声認識で動画の再生もコントロール

こちらはRealSense技術と透過スクリーンを組み合わせ、キーボードやマウスといったインタフェースそのものを物体としては撤廃。そのかわりに、キーボードなどのそのものをARで現実世界に再現してみせたコンセプトPC

利用者側から見ると、PCの手前に浮かんだ鍵盤を弾いているように見えるのだが……

横から見ると、実際には何も存在しない空間で指を動かしているだけ。結構SFで、かなり自宅に欲しい

同社はこのRealSenseの技術を、もっと広い分野で活用したいと考えている。そのひとつが、RealSenseのカメラ/センサで周囲の物理的な情報を認識することで、ドローンやロボットのリアルタイム処理による衝突回避機能が実現できるというものだ。

まずはゲストとしてiRobotのCEO、Colin Angle氏が自走"ロボット"で登場。"Angleロボット"はRealSenseを用いてステージ上のリアルオブジェクトを認識し、動き回っても自動で回避行動をとる。そしてロボットの頭部に見立てたディスプレイ越しにKrzanich氏とセッションし、同社のロボット技術にRealSense技術を組み込む協業を目指してことが発表となった。

iRobotのCEOが自走"ロボット"で登場。動きなどがスターウォーズのR2D2を彷彿とさせ、ちょっと笑ってしまった

RealSenseを用いてステージ上のリアルオブジェクトを認識している。写真の人影は対面するKrzanich氏だ

ステージからの退場は、"わざとらしく"置かれた障害物のあいだを器用に回避しながら

続いて、Ascending TechnologiesがRealSenseを活用したドローンを開発予定であることも発表された。会場には試作のRealSenseモジュール搭載ドローンが持ち込まれ、複雑な地形であっても、人間がわざとぶつかろうと近づいても、それをリアルタイム認識したドローンが自動で回避する様を披露して見せていた。

RealSenseドローン。頭のてっぺんに6面、6枚のRealSenseモジュールを搭載

周囲を囲んだ人間が、ちょっと"集団いじめ"のような感じで各方向から各々詰め寄ったりしても、ドローンはそれを軽やかにかわす

今度は、会場内に組んだ前後左右が障害物だらけのアスレチックコースをドローンが飛び抜ける

また、視覚に障害を抱えているというIntelの社員のひとりが、RealSenseのモジュールと、それと連動する何枚かの振動板のようなものが組み込まれた服を着て登場した。杖などをつくこともなく、歩行もスムーズだ。RealSense技術で周囲の人や物などを認識し、それを振動板のふるえ方で感じることができるのだという。

RealSenseモジュールと振動板が服に組み込まれている

先のCurieによるウェアラブルの推進とも関連してくるのだが、RealSenseのような現実認識の技術があり、その情報を処理できるコンピュータが小型化、またはより処理に適したコンピュータと連携できる小型コンピュータがあり、あらゆるモノに組み込めるようになれば、上記のような活用例が実現に近づく。「人間とコンピュータとのかかわり方にも変革が訪れる」とKrzanich氏は説明している。

ほか、RealSenceの活用例。顔をセンシングして玄関ドアを解錠。バックの中から鍵を探したりするわずらわしさからも解放される。顔の認証のセキュリティには、Intel Securityによるセキュアログインの新アプリケーション「True Key」を利用している。True Key技術はMcAfee LiveSafeにも組み込まれる予定という

ほか、デジタル世界のものを、フィジカル世界へ……という方向へのアプローチから、3Dプリンタへの取り組みをHewlett-Packard(HP)とともに紹介。HPから登場予定の3Dプリンタ技術「Multi Jet Fusion」を導入した3Dプリンタに、Intel Coreが採用される

ほか、こちらはコンピューティングの"無線化"の取り組みの一環で、Intelが昨年からアピールしている無線給電技術の最新情報。Marriottホテルやサンフランシスコ国際空港などで導入の具体的な計画が進み始めた