フィギュアスケート・羽生結弦選手は全日本選手権で3連覇を果たした

フィギュアスケート・羽生結弦選手が、昨年12月26日から28日にかけて開催された全日本選手権で優勝し、見事に大会3連覇を達成した。

11月の中国杯では試合前の公式練習で他の選手と激突し、頭部とあごから流血をするほどのケガを負った。一時は出場も危ぶまれた12月のグランプリファイナルでは、けがの影響を感じさせない288.16という高得点をマークしてV2。そして、そのわずか2週間後の全日本選手権でも表彰台の頂上に立った。

27日のフリーでは、冒頭の4回転サルコウこそ転倒したものの、続く4回転トゥーループは華麗に決めてみせる。演技後半には、トリプルアクセルからのコンビネーションジャンプを2度も成功させるなど、着実に得点を伸ばしてを栄冠を手にした。

しかも、同大会後に「尿膜管遺残症」を患っていたことが判明。最近は中国杯のけがとは別の痛みを伴いながらの戦いを強いられていたが、それでも結果を残したかっこうだ。

羽生選手を優勝に導いた3つの要素

名実共に「日本の絶対エース」となっているソチ五輪金メダリストは、なぜ全日本選手権で優勝できたのだろうか。四大陸選手権4位などの成績を収め、現在は関西大学を拠点にコーチとして活動する元フィギュアスケート選手の澤田亜紀さんは、羽生選手には3つの勝因があったと見る。

ジャンプ時の工夫

まず、「ジャンプ時の工夫」が得点を大きく伸ばした要素の一つではないかと指摘する。

「羽生選手はもともと、ジャンプなどのエレメンツ一つひとつの質が良く、出来栄えを評価するGOEでも加点がよくついています。全日本選手権では、ジャンプ着氷時の流れや、空中姿勢での工夫(手を上げてのジャンプ)もあり、より加点がつきやすいものになっていました」。

得点を伸ばすためのプログラム

さらに、得意のジャンプを最大限にいかすためのプログラムも奏功したという。

「ショートプログラムでは、基礎点が1.1倍となる演技後半にジャンプを2本入れ、フリーでは演技後半にジャンプコンビーネーションを3本入れていました。戦略面での作戦が見事にはまり、羽生選手に有利に作用したなという印象です」。

羽生選手のフリーの技術点は、加点のない状態(ベースバリュー)で90.12点と、その次にベースバリューが高い宇野昌磨選手(79.37)を10点以上も上回っている。なおかつ、基礎点が高くなる演技後半にトリプルアクセルを2本入れるなど、自身の武器であるジャンプがより大きな得点源になるように立てた演技構成を、澤田さんは高く評価している。

精神力

そして最後に、強いメンタル面が羽生選手を支えたと見ている。

「全日本選手権は、3月の世界選手権などシーズン後半の大会の選考会も兼ねているため、独特の緊張感が漂っています。ただ、羽生選手は終始リラックスしているように見受けられました。もちろん、集中すべきところでは集中し、緊張感を高めていましたが、不安な気持ちなどは見えませんでした。むしろ、練習してきたことに自信を持ってこの大会に臨んでいるのかなと感じました」。

そんな"絶対王者"は、昨年12月30日に「尿膜管遺残症」の手術を受け、1カ月は安静が必要とされている。そのため、3月に中国・上海で開催される世界選手権への出場が微妙なところではある。

ただ、出場できれば2013-2014シーズン同様、全日本選手権とグランプリファイナル、世界選手権の「3冠」も現実味を帯びてくる。羽生選手がどのような決断をくだすのか、ファンは要注目だろう。

取材協力: 澤田亜紀(さわだ あき)

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。関西大学文学部卒業。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では、優勝1回を含め、6度表彰台に立った。また2004年の全日本選手権4位、2007年の四大陸選手権4位という成績を残している。2011年に現役を引退し、現在は母校・関西大学を拠点に、コーチとして活動している。