久世浩司『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』(SBクリエイティブ/2014年10月/1,300円+税)

会社員をやっていれば、誰でも一度や二度は心が折れそうになったことがあるはずだ。性格が合わない上司の下で理不尽を強いられたり、高すぎる目標に追い立てられて疲弊してしまったり、働くことで感じるストレスの例には枚挙にいとまがない。現代社会において働くこととストレスの問題は切っても切り離せない。

このようなストレスに対してどのぐらい耐性があるかは人によって大きく異なる。少しのストレスでもすぐに心が折れてしまう人から(僕も明らかにこちら側に属する)、どんなに強いストレスを与えても結果を出し続けるタフな人まで、いろいろな人がいる。外資系投資銀行や戦略コンサルティングファームでハードに働く人たちの多くは、ストレス耐性が非常に高い。僕の知り合いにも何人か投資銀行やコンサルティングファームでハードワークをしている人たちがいるが、彼らのストレス耐性の高さが何に由来するのかは昔から気になっていた。

今回紹介する『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』(久世浩司/SPBクリエイティブ/2014年10月/1,300円+税)を読めば、その理由の一端が明らかになるかもしれない。本書は、ハードワーカーのストレス耐性の高さを「レジリエンス」という概念によって説明している。折れない心を身につけたいと思っている人はもちろんだが、「ストレス耐性」って簡単に言うけど何を意味してるんだろう? という疑問を抱いたことがある人も、読めば得るものがあるだろう。

「レジリエンス」とは何なのか

多くの人にとって「レジリエンス」という言葉はそれほど聞き慣れた言葉ではないと思うが、実はこの概念が最近注目されつつある。2013年度の「世界経済フォーラム」(ダボス会議)ではこの「レジリエンス」について議論が行われ、NHKの「クローズアップ現代」でも取り上げられた。「レジリエンス」は企業からも注目されており、ロイヤル・ダッチ・シェルやゴールドマン・サックスなどではレジリエンスに関する研修が行われているらしい。

全米心理学会の説明によると、レジリエンスとは「逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセス」のことを指す。逆境や困難を「避ける」のではなく、「避けられないもの」と捉えたうえで前向きに対処し適応する方法を模索するところが従来のストレスに対する考え方に比べて新しい。

本書では、レジリエンスが高い人には以下の3つの特徴があると説明されている。1つ目が「回復力」で、これは逆境や困難に直面してもすぐに立ち直り元の状態に戻れる力のことを指す。2つ目は「緩衝力」で、外的な圧力に対する耐性、いわゆる打たれ強さのことを指している。3つ目が「適応力」で、予期せぬ変化を受け入れて合理的に適応する力のことを指す。このような力をどのような訓練で育めばよいのかを、本書ではいくつかの事例を交えて提案している。

振り返りの時間を持つ重要性

レジリエンスを鍛えるためには、3つの習慣を身につけることが必要だと本書は提言している。3つの習慣とは、(1)ネガティブ連鎖をその日のうちに断ち切る習慣、(2)ストレス体験のたびにレジリエンス・マッスルを鍛える習慣、(3)ときおり立ち止まり、振り返りの時間をもつ習慣だ。

これら3つの習慣はどれも大切だが、個人的には(3)の振り返りの時間をもつ習慣が1番印象に残った。現代はビジネスの変化が早い時代なので、のんびり振り返っている時間なんてまったくないと考える人は多いかもしれない。しかし、変化が早いからと言ってじっくり考える時間を持たずに、ただ現実に追いつこうと焦るだけではいい意思決定はできないし、レジリエンスも育てられない。

本書ではこのような「振り返りの時間」を持つことが、「自分はこれからも今いる『場』にい続けるべきだろうか」という問いかけを発するきっかけになるという点も指摘している。レジリエンスとは理不尽な環境に自分を無理やり適応させるプロセスのことを指すわけではない。「場」(会社員の場合、この「場」とはたいていは"職場"のことを指すだろう)が間違っているというのであれば、「場」を変えることも検討にいれるべきだ。正しい場を選択するところまで含めて「適応」と考えられている点には非常に共感できる。

逆境やストレスを前向きに捉える第一歩に

「レジリエンス」という考え方で一貫しているのは、本来はネガティブなものでしかない逆境やストレスを、何らかの形で前向きに捉えようとしている点だ。「前向きに」と言葉にして言うのは簡単だが、実際にやってみると困難は多い。それでも、ネガティブな感情から脱するためにはどこかで前向きになる必要がある。本書が、そうやって前向きになるための手助けをしてくれるかもしれない。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。