新しい組織

Q:成功かどうかを聞いたあとでこれを伺うのも何なんですが、そもそもなぜDevConをやろうと思われたのでしょう?

A:そもそも何故DevConをやったかを説明するためには、そもそも何でこの会社に入ったかを(笑)。2年位前だと思うのですが、産業革新機構の方から「こういう話があるよ」とということで、お声をかけていただきまして。その後、作田さんが会長になられた後で、セールス&マーケティングのトップとしてどうかという打診を受けました。もちろん最終的には作田会長の判断で入社した訳ですが、元をたどれば産業革新機構からお話をいただいたことがきっかけです。

そして、中に入ってみて判った問題というのがありました。その問題というか課題を解決していく中で、マーケティングを強化しなければいけないという課題が、これだけ(大きく手を広げる)あるうちのこの位(半分くらい)あって、その中のこれ(さらに半分くらい)がDevConという訳です。まぁDevConというのは(私が)入ってきた後での一連の活動の中での1つの節目ではあるのですが、実はそれ以外に直すべきことが非常に多かった。

1つはワールドワイドの組織のガバナンスが弱かったんですね。日本の会社の海外拠点の運営の仕方というのは色々あるのですが、ルネサスでは拠点に対して、ある経費を渡して、その経費に対しての上がりとして売り上げなり成果物なりをとるという形が、一番求められるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)だったんですね。その結果、私が入社した時に「ワールドワイドの人員数はいくつですか?」と質問をすると、正確な数字が出てこない(笑)。これはおかしいということで、ヨーロッパ・アメリカ・中国・シンガポールを廻って、どういうガバナンスをされているのかを調べてみたら、先ほど言った様な形になっている。

これは課題の1つなんですが、この会社に入って凄い素晴らしいなと思ったのは、TechnologyとTarentなんです。つまり人材は素晴らしい。なので、折角凄く良いProductとTarentがあるのに、そういう非効率な部分があって、有効活用されてないと判断しました。では一番最初の仕事はグローバルなガバナンスをしっかりやって、世界中のリソースをうまく使って、我々のセールスリーチとマーケティング戦略をしっかりグローバルで作ることだと考えた訳です。

そういう中でマーケティングを見てゆくと、こちらも非常に色々な課題がありまして。Product Responsibilityがはっきりしていなかったんですね。マーケティングと称する部門とか部隊とかがあるんですが、では「このマーケティングは具体的に何のマーケティングをやるのか?」という定義がすこし曖昧で、同じような事を違う本部でやっていたりと効率が悪かったんですね。それをグローバルに見ると、もっと効率が悪かった訳です。

それで半年ほど掛けて中を見ていって、最終的にはPhoto01の様な構造になりました。私の下にSVPが3人いまして、執行役員の川嶋(学。敬称略)が日本とアジアと中国のリージョンを見ています。Gerd Look(同)はEMEAリージョンの長、Ali Sebt(同)がアメリカリージョンの長ですね。

Photo01:ルネサスのグローバルセールス&マーケティング(GSM)チームの枠組み

この下に当然色々な組織がある訳ですが、例えばセールス/マーケティング/FAE。このうちセールスはリージョンの中にあって、その国のお客様のための営業ということなので、これはリージョンメインで構わないんですね。ところがFAEは共通したTechnical SupportなどのFunctionがありますし、マーケティングに関してはグローバルにReportを貰おう、と。それが縦の破線ですね。これによって全世界にあるリソースを本社のグローバルマーケティングの方からガバナンス出来るような形にしよう、ということでここは新田(同)というVPに管理してもらうように作ってもらいました。同じようにセールスオペレーションとSCM(Supply Chain Management)に関しても、江本(同)というVPにグローバルにガバナンスしてもらいます。

この縦横の組織を入れ込んだことによって、ちょっと具体的な名前は消させて頂いたんですが(笑)、自動車業界向けマーケティング、その他のマーケティング、MARCOM(MARketing COMmunications)、チャネル、FAE、戦略計画とSCM、これが縦横でガバナンスできるようになりました(Photo02)。これで凄く透明になりました。おかげさまで人員数もちゃんと出るようになりまして(笑)、この数字(Photo03)はちょっと丸めてあるんですが、10月現在で全世界で2400人ほどが、こういう仕事をしているというAssignmentまではっきり見えるようになりました。

Photo02:縦横の組織とすることで組織の透明化がなされた

Photo03:全世界でルネサスのGSMとして携わる人数

Q:ということは、今までは海外は本当に子会社だった訳ですね? つまりガバナンスとしては別の形で、全体として1つの組織になるように切り替えたのが最初の半年ぐらいのお仕事という訳ですね?

A:そうですね。Entityとして別の、完全に子会社としての扱いでしたね。で、切り替えをやってゆく中で、特にマーケティングに関しては、実はグローバルなんですね。例えば自動車ですと、欧州とアメリカと日本というこの3地域のセグメントに対しての戦略というのは、地域性はありますが基本となる技術は、例えばADASなら欧州が少し進んでいるけど、日本とアメリカも似たような形で開発しているよ、と。Powertrainに関しては、日本はHybridとかEVでは進んでいて、欧州ではDieselが進んでいると。そうした事はあるのですが、全体としてルネサスがどういうマーケティングをしないといけないかという事が求められる訳です。そのマーケティング軸を見て行くのが、自動車のセグメントマーケティングという訳です。

そして、汎用のセグメントマーケティングというのはもう少しカバー範囲が広くて、例えば産業用であれば、欧州であればIndustry 4.0に関わるような最先端の産業機器を設計されている方々がいますし、アメリカも同じ様な方々がいます。日本もロボットが強い。ただ、各々にEthernetをどう使って、工場を管理するかという考え方がありますし、その上にのせる制御ソフトとか、そういったものも少しずつ違う訳です。ただ、半導体として出さなければいけないものに関しては非常に共通性があったりしますし、あるいは我々が全部に対してソリューションを提供できるようなPlatform、今回ですとR-INというイニシアティブでご提案しましたが、ああいったものを提供できるようになっていきたい。

今まではお客様に対して、お客様が要求するからこういう半導体を作ろうというケースが多かったんですが、もっとマーケットを見て、マーケットからの要求を理解した上で、製品展開につなげようという動きを、この活動によって強められたと思います。会社の中にもそういうプロセスを入れました。

Q:ちょっと確認ですが、自動車と産業機器って割と近くはないでしょうか? 特に産業機器の中でも、安全規格のIEC 61508と車載のADAS向けのISO 26262、細かく見るとプロセスは違うのですが、半導体とか求められる要求はかなり近いので、自動車向けと産業用を一塊にされているメーカーさんもあります。が、御社としては産業用は汎用だと。

A:そうですね。汎用という言葉が正しいかどうかは判りませんが、今は第1ソリューション事業部が車、第2ソリューション事業部がそれ以外というと大雑把ですが、産業・OA・ICT・一部家電という形になっています。

Q:それにグローバルもあわせる形で?

A:そうです。細かく言ってしまうと、お客様の軸とテクノロジーの軸で見た場合、中身は似ていますがやはり車と産業用はちょっと違うんです。例えばLockstepを入れるとか、Securityを入れるとか、そういう視点でいくと似ているんですが、作りこみ方はだいぶ違います。そういったことも踏まえて、セグメントマーケティングを作りました。

それとMARCOM、これがまぁDevConを軸にしてゆく部隊なのですが、今まではグローバルでルネサスがマーケットに押し出すメッセージというものを統一できていなかったんですね。我々としては新製品が出ると、「新製品出たので買ってください」という事をやるわけですが、ではルネサスはこのマーケットで、こういう理由でこういう商品・Solutionを出していきますというグローバルなストーリーが出来て無かったんですね。そこで今回、GLOBAL MARCOMというものを作り、世界中のマーケッターと連絡を取り合いながら、イベントはどこでやるから、そこで出すメッセージはこれを芯にしてこれを地域性にしよう、とかあるいはこういうタイミングでずっと世界中で出していこうとか、そういうストーリー性を持たしていこうという事をやっています。そういった流れの1つとして日本ローカルの大きなイベントとして、DevCon Japanが開催されました。先ほど申し上げたように、日本の中でも少し展開していますが、まずはアジアで似たようなDevCon On the RoadとかDevCon OnsiteをDeliverableなものと進めていく方針です。