就活ってそもそもヘンだ。あんなつらい状況その後の社会人生活であんまりない。ぼくはイヤでやめてしまった口なのでみんなどうやって就職しているのか不思議でいる。今の人もあんな就活やってるのだろうか。話をきいてみたい。

バンド『The Strangers from The East』のメンバーの一人Aさん(23歳・仮名)は名門の私立大学経済学部4年生。留学経験もある。しかし彼は就活をやめてバンドでやっていく決心をした。やめたうえに音楽の道である。Aさんの就活はどんなだったんだろう。

バンド『the strangers from east』のメンバーAさん(23歳)

はじめての面接がトラウマに

「就活で面接に行ったのは結局4回ですね。今はそうじゃないですけど、ぼく吃音があるんです。はじめての面接で自分でもふるえるくらい吃音が出て。

しゃべった内容はあんまり覚えてないですね、行動力をアピールしたのかな。留学とサークル、それにアルバイトもやってたんで。でも自分では一本に絞れてないなと思ってたんです。どれも周りの人みたいにドンと言えなかったですね。

しかも集団面接で隣の人が体育会でリーダーやってました、声でかいです、みたいな人で。(うわ、隣の人声でかい…おれ声ちっちゃい…)みたいに思っちゃって。それからあんまり行ってないですね」

留学したならドンといけるだろとも思うだろう。しかしそれが彼の就活だったわけで、今日はその部分をただじっと聞くことにしよう。

悩みすぎたAさん

よし、面接に行くのやめよう

「志望してたのは音楽業界で、でも結局面接段階までいったのは一つ。そこは第一志望だったんです。父の紹介で事前にそこの人たちと会ったりしていて。でも実はその面接には行かなかったんですよ。

面接の前日に自己分析書いてて徹夜したんです。前にもやってましたけど何回もやれと本にあったので。でもそこでわかんなくなっちゃって。これは行っても話すことがないな、行く意味今日ないな……よし、やめようって。

『ほんとに申し訳ないです、他の会社の面接がかぶっちゃって』って当日に電話して。そんなの急にかぶんねーだろって話なんですけど。向こうはわかりましたって。やっぱりちょっと怒ってましたね。

面接行かなかったのは本当に申し訳なかったですね。その日は寝てないんで寝て昼くらいに起きて自己嫌悪ですよ」

面接にいくために徹夜したのに、面接には行かない。もはや禅問答のような理不尽さである。自己分析で自分を追い詰めすぎると、人はときに一休さんみたいになってくる。

「就活で違和感があったこと」としてAさんがあげた4つの自分マトリックス

就活仲間のTwitterをそっとふぁぼる日々

「その後5月6月と何にもしてなかったですね。一般的には夏に決まったら一安心らしいですけど。

就活してる知人のTwitterとか見ると 『色々悩んだけど、ようやく自分の行く道が決まりました』って。みんなには申し訳ないけど言いたい、みたいな感じで。うるせえっ、て思ってて。 (大北:ひかえめな勝ちどき?)そうですね、そんな感じです。でもその勝どきはふぁぼ(※)ります。みんな押してるし、ボンと押しますね」

※Twitterの「お気に入り」に入れること

就活中の友人を気遣ったひかえめな勝ちどきの例。そっとファボろう(※画像はイメージです)

就活をやめてバンドの道に

「その後、とあるお店でテーマソングを募集していてそこに応募したら通ってお金がもらえた。作曲はずっとやってたし、やっぱり音楽の道でいけるんじゃないかなって思って。

就活をやめたのはバンドに誘われたとき。8月か9月。そのバンドが一年がかりのコンテストに出られることになったんで本気で目指そうと同級生に誘われた。僕は留年で彼は一年先に卒業していて就活は一切してなかった。彼に憧れてたとかじゃないですけど、そういう道もあるんだなって思ってました。

就活やめたときは開放感というより安心感がありましたね。ようやく向かえるものができたっていう安心感。

今でも就活サイトからのメールはめちゃくちゃきます。『まだ間に合う』とか件名に書いてある。『履歴書いらない』とか。バイトか! と。それ見て自分をふりかえって自己嫌悪したりしますね 」

「うるせえ!」と言いつつ就職報告をそっとふぁぼったり「バイトか!」と言いつつきっちり傷ついてたりするAさん。言動と行動が一致しないこの繊細さは就活においても気苦労がたえなかっただろう。その開放感や安心感は想像に難くない。

会社が決まらなかった自分へのメッセージ

「就活が終わった自分にむけてノートを作ったことがあって。就活終わったときに見ようと思って。

こっちに『会社決まった自分へ、おめでとう』って書いてて、もう片方には『会社決まらなかった自分へ、残念だったね』って。忘れてたんですけどこの前それを偶然見つけて、あ、『残念だったね』の方だったかと。

書いたのは2月くらい。自分へのメッセージというか、何かあったときに当時の気持ちを思い出すために書いたんですよね。なので見つけたときは『おっ……』と。こんな恥ずかしい状況ないですよね」

タイムカプセルや置き手紙などで過去からメッセージが届く。物語ではよくあるそんな泣ける場面も実際にやると恥ずかしくなるようだ。経験者の圧倒的なリアリティがここにある。

会社決まった自分へノート(※写真はイメージです)

あ、他の人とずれたな

「就活に失敗して損したなとは思わないですが、あ、他の人とずれたなっていう感覚はあります。この先一緒の感覚でやってたらダメだからバンドに集中しなきゃって思いはありますね。今はがんばれてます。努力もできてます。

卒業したらとりあえずバイトとバンドを。でもなんとなくですけど、たぶんいつかまた(就活みたいなことを)やることになるなっていうのはありますね」

就活をやめたときくと豪快な人物を想像するが、Aさんは繊細な人だった。就活の参考書を信じて、でも信じすぎて悩んでしまって面接に行かなかったり。繊細すぎて結果的にやってることは豪快という……就活中は相当ナーバスになったことだろう。彼に「今、努力できてますか?」ときくと「できてます」と即答していた。(おお、なんか道が拓かれてる!)と思えるような力強さだった。とにかく彼の就活は終わった。おつかれさまでした。

Aさんのバンド:
The Strangers from The East
(サイト内の曲を聴いてみるとかっこよかったのでAさんは今後大丈夫だと思います)


大北栄人(おおきたしげと)
デイリーポータルZなどで書いてるライターです。娘にダンボール製のリカちゃんを作ったり、いちご大福のピリピリ原因やコーラが何味なのかを調べたりして話題に。Twitterアカウント:@ohkitashigeto