「はてなランチ、食べてみたくないですか!」

マイナビニュースキャリア編集部のMが電話の向こうで吠えた。

IT企業のはてなはそのランチが有名である。毎日午後1時になると料理家の方が作ったおいしそうな料理がならび、社員が列をなす。

Mさん、ああいう素敵なランチの裏にはなにかあるにちがいない。出来すぎだ。だがまてよ。私達はのび太くんよりも出木杉くんの方が性格面でも良いんだろうなと勘づいている。だとすると本当にいい会社なんだろうか。

はてなでは毎日午後1時になるとチャイムが鳴り社員が列をなす

「シェフ」と呼ばれる料理家の方がつくる名物のはてなランチである

おいしいランチが毎日出てくるって本当にいいのか?

はてなランチ本日のメニューは鶏肉と大根の八角煮ほか。しゃれてる。八角煮なんて食べたことないし角煮の八倍くらいすごそうだ。

食べてみるとやはりおいしい。こんなん毎日食えたらそりゃ良いわなという味。油分も塩分も少なめなのに満足度もたかく、デスクワークに適した食事だ。とはいえ一つの疑問が持ち上がる。

はたしてそんなに良いものばかり毎日食べること自体イイのだろうか?

おお、なんて脆弱な疑問だろう。すでに答えが透けて見えているこの質問をランチ中の社員の方にぶつけてみた。

この日のメニューは「鶏肉と大根の八角煮、ひじきと蓮根のサラダ、根みつばとさつま芋の味噌汁」

――やっぱり、毎日こういうごはん出てくるのってイイんですか?

「まあ、イイですよね」

――ですよね

ですよね、である。今日やるべきことはすべて終わった。一体私達は何をしていたのか。そろそろライターを廃業して郷里の家業をつぐタイミングなのかもしれない。

昼ごはん快適度がスゴイ

社員さんの話によると「何食べるか考えなくていいとか食べに行かなくていいとかからくる"昼ごはん快適度"みたいなのがスゴイ」らしい。ああ、わかる。習慣は快楽だものなあ。良さがわかりまくる。

さあ、帰りましょかと思ってるところに「昔タレントの養成所みたいなとこに入ろうとしてたんですよ…」というおしゃべりがきこえてきて、どんなメガネのプログラマがだと思って振り返ると、そこには新入女子社員。あの人に聞いてみよう。

はてなにも女性はいた(そりゃいるだろという話ですが)

適当に虫あみをふるとメガネが入ってるといわれているあのはてなである(※今勝手に言い出したのと、広報によるとはてなに女性スタッフは割とたくさんいますとのこと)。はてなに入ってまだ一カ月(※取材当時)だという嶋野さんだが、ここのランチってどうなんですか?

入社一カ月目のデザイナー嶋野さん。前職は広告業界で忙しかったらしい

みんなそろってごはんを食べる

――ここのお昼ごはんどうですか?

嶋野「仕事でスケジュールが慌ただしいときって、いつお昼ごはんを食べていいんだろうってなりませんか。私、それでうっかり食べるタイミングを逃してしまうこともあ って。

こうやってごはん食べる時間が決まってて、チャイムが鳴るとみんな『あ、ごはんだ……』ってぞろぞろ出てくるじゃないですか。『じゃあ私も』ってできるのが一番いいところだと思いますね」

「就職活動で悩んでた時期にタレント養成所に行ってみたんですが、みんな祭り囃しの台本持ってワッショイワッショイ言ってて。そこでまた悩んでしまいました」就活も演技も、若者は他人のわっしょいに悩みがちである

エンジニアばかりって怖くないですか?

――ここって開発者が多くて特殊じゃないですか?

嶋野「まだ入ったばっかりなんですが、スタッフ同士がはてなID(アカウント名)で呼び合う文化とか独特だなあと思いますね。あと、エンジニア的文脈を知らないとついていけない話題がたまにあるんです。そういうことで盛り上がっているのを見かけると、もっと勉強しないとなって思いますね」

嶋野、エンジニア的文脈ちゃんとわかってるのか! 嶋野!

みんなで夜は8時台に帰る

嶋野「あとはみなさん早いなって。午後8時台にはみんな帰ってほぼだれもいない。前職の感覚とはかなり違います」

はてな広報「IT企業には珍しく労働時間と休憩時間が決まってるんですよ。朝は10時出社で昼休みが1時から2時まで、夜は7時まで。だいたいの社員は8時台に帰っています。遅くまで働くことと生産性が関係あるかということはまた別の話だろうという考え方です。何より上司が率先して帰るので、帰りやすい環境になっていると思います」

マイナビ編集部M「うちは新人の子がいるんですけど、その子が帰ってないと帰りづらくて……」

ここでマイナビ側が今までの話の流れの逆をついてきた。しかしその実態は負のスパイラルである。

はてな広報「それはもう逆に帰ったほうがいいですよ。うちは創業者の近藤淳也(現会長)が率先して帰っていたので他のスタッフもだいぶ帰りやすかったですし、おかげで今もそのスタイルが残っているように思います」

――女性も働きやすい職場ですか?

嶋野「前職はクライアントワークが多くて時間に追われてる職場はどうしてもどこかピリピリしている雰囲気だったような気がします。はてなの東京オフィスにいる女性は柔らかい物腰の方が多いですね。みなさんおだやかでいいなあと思ってます」

はてな広報「たまたまだと思います」

「Mさん、それは早く帰った方がいいですよ」

ハッカー文化ってなんだろうと思ってWikipediaを見てみると「料理・サイクリング(~中略~)といった素朴な気分転換を好むハッカーは多い」と書いてあった。空きスペースに社員の自転車が停まってたはてなのキッチンはまさにそんな感じだった。

昼ごはんいつ食べようとおろおろしてたような女性がそこにスポッとハマっている。ハッカー文化って意外と健康的で人にやさしいので女性も馴染みやすいのではないだろうか。

「ふんふん」わかっているかわからない嶋野さん


大北栄人(おおきたしげと)
デイリーポータルZなどで書いてるライターです。娘にダンボール製のリカちゃんを作ったり、いちご大福のピリピリ原因やコーラが何味なのかを調べたりして話題に。Twitterアカウント:@ohkitashigeto