COPDという病気をご存じですか。最近では、有名歌手や高名な落語家もこの病気にかかっていることが報道されています。COPDは40歳以上の喫煙者に多く、ヘビースモーカーほどリスクが高い。つまり、喫煙者には誰にもリスクがある病気なのです。「タバコ病」と呼ばれるCOPDについて、順天堂大学名誉教授の福地義之助先生にうかがいました。

つらい「息切れ」。正常な呼吸ができなくなる!

順天堂大学名誉教授 福地義之助先生

前出の落語家が、酸素吸入器をつけ、車いすで移動している様子がテレビ番組で紹介されていました。「呼吸が苦しい」と言ってかなり辛そうでしたが、COPDとはどんな病気なのですか。

「COPDとは、Chronic(慢性的)Obstructive(閉塞性の)Pulmonary(肺の)Disease(病気)の略で、日本語では『慢性閉塞性肺疾患』です。“閉塞性”とはどういうことかというと、気管支の壁に炎症がおき、たんなどで空気の通り道がふさがれたり、気管支の先にある肺胞が壊れてしまい、正常な呼吸ができなくなるのです。『慢性気管支炎』や『肺気腫』と呼ばれていた病気の総称です」

「正常な呼吸ができない」状態とは?

「肺をゴム風船にたとえるとわかりやすいです。ゴムには弾性があって空気を入れると膨らみ、口を離すとシュッと空気が出ますね。COPDになると肺が古い風船のようになって弾力が弱くなり、新しい風船のようにシュッと早く息が出ない。縮み方も遅く、全部縮み切らず、肺の中に空気が残ってしまう。一言でいえば、息を早く吐こうと思っても吐けなくなります。

誰でも階段、坂道を上ると普段より息がはずみますね。COPDでは息を吐くのに時間がかかるから、吐ききらないうちに次の息を吸わなければならない。試しに息を半分吸って止めて。そこからもう一度吸ってみてください。苦しいでしょう。それが歩くたびに積みかさなる。それがCOPDの代表的な症状『息切れ』です。繰り返されるうちに、肺は古い空気でいっぱいになり、新鮮な空気が入らなくなります」

実際やってみると、実に苦しいのです。息を吐けないということは吸えないということでもあるのだ、と気づかされます。で、この息切れが、COPDの初期症状の重要なサインなのです。

「息切れを年のせいと思い込む人も多いのですが、昨年は何ともなかった人が年のせいだけで息がきれるようにはなりません」

肺だけでなく、全身の病気でもある

でも、人間が生きていくのに、酸素は不可欠。新鮮な空気が入らないのは、体にとってかなり危険な状態ではないかと思うのですが…。

「ええ、COPDが進んで血液中の酸素濃度が低下すると、体内でも特に酸素をたくさん使う脳や心臓を始め、全身の臓器が影響を受けます。同じ喫煙者でもCOPDの人では、動脈硬化が進み、2型糖尿病、骨粗鬆症、消化性潰瘍、逆流性食道炎、うつ病のリスクが高くなります。認知症もおそらくそうでしょう。COPDは肺の病気ですが、全身の病気でもあるのです」

このCOPDは、進行すれば24時間酸素吸入装置を使う「在宅酸素療法」治療を受ける必要があり、生活は大きく制限されます。しかも、最重症のステージ4になると、5年後の生存率は約40%と、命にかかわる病気でもあります。実際に、COPDは2013年の男性の死亡原因の8位に入っているのです。

原因の95%がタバコの煙。受動喫煙にもリスクが

現在、日本には40歳以上の8.6%、530万人のCOPD患者がいると推定されています。この数字は、福地先生たちが行った大規模調査(2001年発表)によるもの。福地先生たちが全国の40歳以上の約2600人に協力してもらい、呼吸機能検査を行ったところ、8.6%にCOPDが疑われる異常が。何とその95%が喫煙者だったことが、COPDが「タバコ病」と呼ばれるゆえんだそうです。

「タバコの有害なガスは肺の気管支や肺胞の細胞に炎症を起こすのです。大気汚染の影響もありますが、先進国ではタバコが主たる原因です」

どのくらい喫煙歴があるとCOPDのリスクがあるのですか。

「1日の本数×喫煙年数で表す『喫煙指数』というのがあります。400(1日20本×20年)以上の人がCOPDになるリスクは20~30%。800以上はハイリスク。1200の人はほとんど既にCOPDだと考えてよいと思います。個人差がありますので、200で発症する人もいます」

ちなみに、COPDはタバコの煙による肺の炎症だから、吸っている本人だけではなく、同じ室内で煙を吸う人にもリスクがあります。つまり、受動喫煙でもリスクはあるのです。その理由を、福地先生は次のように説明します。

「たとえば、タバコを室内で吸っている人が1人いれば、屋外に注意報が出ているときのPM2.5よりももっと高い濃度になります。喫煙者がいる家庭といない家庭の室内のPM2.5平均濃度には約10倍の差があります」

きれいな肺に戻るには3年。なるべく早く禁煙を

自分と家族や周囲の人をCOPDから守る最も効果的な方法、それは「禁煙」。福地先生は、「少しでも早く禁煙を」と訴えます。

「禁煙によって、室内のPM2.5を平均して約60%も減らすことができます。既に初期症状が始まっている人も、禁煙後、半年程度でせきや痰は減りはじめます。炎症のない、タバコを吸わない人に近い肺に戻るには3年くらいかかるので、少しでも早く禁煙してほしい」

福地先生は「美肺延年」という言葉で、禁煙を呼びかけています。タバコを吸わない、きれいな肺は寿命を延ばす、という意味だそう。

「30代でタバコをやめれば寿命は6年延びるし、60代でやめても3年伸びます。タバコをやめるのは早ければ早いほど寿命は延びますが、年をとってからでも禁煙の効果はあります」

以前は「治らない病気」と言われていたCOPDですが、今は薬物療法や呼吸リハビリテーションなどの治療で、軽症のまま進行を抑えられる可能性も。COPDの初期はレントゲン撮影では見つかりにくいのですが、スパイロメーターという機器を使った呼吸機能検査を受ければすぐに診断できます。息切れが気になり始めたら、すぐに呼吸器科を受診して検査を。