昨今、急速に盛り上がりをみせているハイレゾブーム。それと共に、オーディオマニアだけでなく、一般ユーザーにまでその人気を広げているのが、リニアPCMレコーダーと呼ばれる高音質な録音デバイスです。時代の流行を反映し、メーカー各社からさまざまなリニアPCMレコーダーがリリースされる中、高品位オーディオ機器の老舗ブランド"TASCAM"から登場した最新リニアPCMレコーダー「DR-44WL」は、現場の音楽制作に寄り添ったユニークな機能により、ひときわ異彩を放っています。

同機種は、PGAやショックマウント機構など新機構を備えた高音質回路を持つ4トラックのリニアPCMレコーダーで、本体に搭載されたX-Y方式ステレオマイクステレオコンデンサーマイクでの録音に加え、XLR/TRS外部入力端子を活用することでより高度な録音にも手軽に対応可能。さらに、スマートフォンに専用の無料アプリをインストールするだけで、Wi-Fi経由で遠隔操作、遠隔モニタリングが行え、本体に手を触れずに本格的なレコーディングを楽しめるなど、非常にユニークかつ実用的な機能も備えています。

ブルース・ギタリスト&ボーカリストの大久保初夏さん

今回は、そんな話題のDR-44WLを、新進気鋭のブルース・ギタリスト&ボーカリストである大久保初夏さんに試奏していただき、その魅力やサウンド、使い勝手などについて語っていただきました。

大久保さんは、幼いころからドラマーとして音楽に触れ、中学生のころにはギターを始めるなど、若くして豊富な音楽知識と演奏経験を持つ注目の若手アーティスト。姉妹で結成されたBLUES SISTERS from RESPECTを経て、現在はSHOKA OKUBO BLUES PROJECTというバンドで活動中。普段からバンドサウンドを中心に"生の音"に触れる機会の多い大久保さんですが、DR-44WLにどのような印象をお持ちになったのでしょうか。気になるその評価をお届けします。

――今回は、スタジオにてDR-44WLを実際に触っていただいたわけですが、デザイン面からの第一印象はいかがですか?

まず、リニアPCMレコーダー自体、本格的に試すのが初めてでした。デザイン面の第一印象は、マイクや全体のルックスから、録音機材として高性能なのだろうなと感じました。周りのアーティストの方々が使われているハンディータイプの録音機材というと、もう少し小ぶりな、ボイスレコーダー的なものが多かったので。

東京都・八重洲のギブソン・ブランズ・ショールーム・トーキョーにて、大久保さんに「DR-44WL」を用いた試奏を行っていただいた

――大久保さんは、普段の作曲にもボイスレコーダーのようなものを使用されていますか?

はい、単体のボイスレコーダーではありませんが、浮かんだメロディーやフレーズなどを録音しておくために、iPhone対応のレコーダーアプリなどを活用しています。また、その録音した素材をモチーフとして本格的に作曲を行ったり、音楽制作アプリでリズム等と組み合わせたり、楽曲のラフなイメージを作り上げています。

――iPhone用のレコーダーアプリと、今回試奏していただいDR-44WLを比較しての感想などをお聞かせください。

やはり、サウンドのクオリティーだと思います。iPhoneで録音したサウンドは、音量が足りなかったり、こもったような音になってしまうことも多くて、そのまま録音素材を生かして作曲するといったことは難しいのですが、DR-44WLで録音した素材なら、そのまま本格的な作曲に流用しても良いほど高音質なものになっていました。

――DR-44WLの音質について高く評価しているとのことですが、具体的にそのサウンドの印象を教えてください。

私の好きなブルースなどの楽曲では、特にライブ感やグルーブ感といったものが非常に大切になんです。それを生み出すためには、楽器を演奏者が奏でる際に発生するノイズや、その場の空気感といったものも重要になってきます。DR-44WLで録ったサウンドには、楽器の音はもちろんのこと、そういった演奏空間そのものを録音したかのようなリアリティーがあり、とても気に入りました。

ギター演奏を録音した後すぐに試聴し、「DR-44WL」で録ったサウンドの音質を確かめる大久保さん

――録音した素材は、その後の本格的な作曲にも生かされるとのことでしたが、DR-44WLで録音を行った場合は、作曲の工程にも影響があると思われますか?

工程に大きな変化はないかと思いますが、効率はかなり上がりそうです。というのも、これまでは作曲するにあたって、メロディーを歌い直したり、ギターを録り直したりというような作業があったのですが、それらを一切することなく、録音素材をそのまま作曲の工程に持ち込むことができるようになるためです。しかも、音声ファイルは、Wi-Fi経由でスマートフォンやパソコンにワイヤレスで転送可能なので、録音データの取り扱いもスムーズにできて便利です。

――Wi-Fiへの対応や専用アプリ「TASCAM DR CONTROL」によるリモート操作は、DR-44WLの非常にユニークな機能だと思いますが、どのようなシチュエーションで活用してみたいですか?

スマホから操作可能になる専用アプリ「TASCAM DR CONTROL」を使えば、本体に触れずとも録音できるので、マイク設置場所の自由度が高まる

私自身がスマホ世代ということもあり、すべてがスマホ1台で済んでしまうといった感覚になじんでいるので、専用アプリから簡単にリモート操作や録音設定の変更などが行えるのは、とても自然で親しみを覚えました。

特にリモート操作は、ライブ録音の際、本体に手が届くかどうかという操作上の都合を気にせず、最良のマイクポジションにレコーダーを設置できるようになるのでとても良いですね。ステージ上などからレコーディング操作を試してみたいです。アプリからメーター表示の確認もできるので、録音作業に使うにあたって安心感があります。

――アプリで録音したデータはSoundCloudにも直接アップロード可能となっているのが大きな特徴ですが、こちらについての利用シーンは何か想定されていますか?

それほどPCの扱いに精通しているわけではないので、詳細なコメントはできないのですが、Facebookページのタイムラインに、ライブ音源を終演後すぐに表示させられるのはとても素敵ですね。個人的な希望としては、アプリから音源を直接アップロードできるSNSがもっと増えてくると嬉しいです。

――今回の試奏では、DR-44WLのもうひとつの特徴でもある「4トラックのマルチレコーディング機能を使った録音」にも挑戦していただきましたが、感触はいかがでしたか?

思ったよりもずっと簡単に、マルチトラックでのレコーディングが行えることに驚かされました。録音したいトラックを選んで録音ボタンを押すだけと、従来のステレオレコーディングとほぼ変わらない操作なので、機械のあまり得意でない私でも操作に迷うことはなさそうです。

「DR-44WL」の目玉機能でもある「4トラックのマルチレコーディング機能」を試す大久保さん。ボーカルやリズムまでひとりで吹き込むと、完成した音源ではセッションをしているような仕上がりとなる

――マルチトラックレコーディングの試奏では、大久保さんがご自身でギター、ボーカル、さらにリズムを録音し、疑似的にセッションを再現されていましたね。

実際に自分のイメージ通りのリズムをリアルタイムに演奏し、録音できるというのはメリットが大きいです。特に、バンドメンバーやアレンジャーさんなどに、自分の思い描く楽曲イメージをより具体的に伝えたい場合などに重宝しそうですね。

また、DR-44WLはマイクだけでなく外部入力端子を使っての録音もできるので、ドラムは本体内蔵マイクで空気感を生かしつつ、ボーカルマイクとギターアンプからのサウンドはラインインプットして録音する……というレコーディング環境を1台で実現してくれるのはとても魅力的です。

――最後に、DR-44WLの総評をいただけますでしょうか?

正直なところ、今回試奏させていただくまで、リニアPCMレコーダーという言葉だけは知っていたものの、あまり具体的なイメージを持っていませんでした(笑) ですが、実際に触れてみて、単に高品質なサウンドを録るだけでなく、それを作曲や音楽制作、さらにはSNSなどを通じた楽曲発表に生かすための機能がたくさん含まれていて、その頼もしさを実感できました。先ほどまでの私と同じように、まだリニアPCMレコーダーに触れたことがないという方々には、ぜひ一度体験してみてほしいと思います!

――ありがとうございました。


大久保初夏(おおくぼしょか)

1991 年 千葉県出身。ギタリスト/ヴォーカリスト。2009 年、高校生で P-Vine Records よりCD デビュー。2012年には実妹とメンフィス録音のアルバム「MEMPHIS BOUND」を発表。2013年から始めたトリオバンド「SHOKA OKUBO BLUES PROJECT」は、FUJI ROCK FESTIVAL ‘14 など、数多くのステージで活動中。