2014年11月21日、「ZabbixカンファレンスJapan 2014」が東京で開催された。ユーザーやパートナー企業が「Zabbix」の関連情報を共有することを目的としており、日本での開催は昨年に引き続き2度目。

「Zabbix」は、Zabbix SIA(ラトビア)が開発・リリースしている監視ソリューションで、現在、世界的に利用が進んでいる。特に日本では、2012年に設立された唯一の支社・Zabbix Japanが、日本語でのサポートを提供。そのため人気に拍車がかかり、「Zabbix」をベースにソリューションを展開するパートナー企業も、この記事を書いている段階では30社に上っている。

会場となったマイナビルームは、朝10時のオープニングから午後5時30分のクロージングまで、ほぼ満席という盛況ぶり。参加者は「Zabbix」の今後の展望や利用事例などに、熱心に耳を傾けていた。本稿では、Zabbix社による講演・発表を抜粋してお届けする。

2014年11月21日、「ZabbixカンファレンスJapan 2014」が東京で開催された

本社代表自らが、「Zabbix」の利点と課題を再評価

Zabbix SIA代表
Alexei Vladishev氏

オープニングスピーチに立ったのは、Zabbix SIA代表Alexei Vladishev氏。テーマは「5 things to improve in Zabbix」。改善すべき点を説明するにあたり、氏はまずこれまでの開発史を振り返りながら、現状の「Zabbix」を再評価することから始めた。

「Zabbix」の開発が始まったのは1998年。開発では3つの言語を、用途に応じて使い分けることになった。サーバ、プロキシ、エージェントなどバックエンドで働くものにはC言語、WebインタフェースやAPIといったフロントエンドにはPHP、データベースにはSQL、という具合だ。それぞれの言語が持つメリットを活かした結果、「Zabbix」はコンパクトで低リソース・高パフォーマンス、依存性がほとんどなく、メンテナンスが容易、すべてのUnixプラットフォームに対応できるなど、多くの利点を得てきた。

また、サーバ、プロキシといったバックエンドでは、データベースの構造データや履歴データを内部メモリにキャッシュしておくことで、レスポンスのスピードを上げるテクニックや、DBへのリクエストを一括して行うバルクオペレーションを採用することで、パフォーマンスや操作性の向上に効果を上げた。

さらにデータ収集、障害検知など、最適なロジック分割がなされたアーキテクチャを持ち、CPUのパワーを使い切れるマルチ・プロセス・アプリケーションであることなど、「Zabbix」の利点を語ったうえで、Vladishev氏は「1998年の時点では、これを"良い基盤"だといえたが、今はどうかと問われれば、そうとはいい切れない部分もある」と認める。つまり利点を生み出しているテクノロジーが、同時に課題をも生み出していることが見えてきたのだ。

「Zabbix」が現在直面している課題と、改善ポイントとは?

課題のひとつは、フロントエンドではPHP、バックエンドではC、と異なる言語を使っているため、同じ機能が2つのコードで書かれ、実装方法も2つあるという状態になってしまっていること。それぞれにデベロッパーチームが存在しているので開発にも時間がかかるうえ、技術的な課題の共有が難しくなる場合があり、品質への影響が懸念されている。

また古いPHPで書かれた部分が残っていることで、PHPの最新機能が使えないというケースも。さらにPHPで作られたAPIのパフォーマンスが、C言語でコンパイルした場合の1/50~1/10に過ぎないことも、改善すべき課題となっている。

こうした課題への対処を含め、Vladishev氏は今後、優先的に改善していきたいと考えている5項目を発表した。

(1)Webインタフェースの改善
フロントエンドのナビゲーションが効率的でないとの意見が寄せられている。解決策としては、オブジェクト中心型のナビゲーションがある。たとえば「オブジェクト」としてホストを選んだら、そのホストに関する全情報にワンクリックでアクセスできるようにしていく。現状の機能中心型からオブジェクト中心型へと、ナビゲーションのアプローチを変えることで、情報の相互連動もできるようになるはず。

(2)APIの速度向上
より効率のいいアルゴリズムの採用、厳密なバリデーションの実施などを行っていく。またAPIをフロントエンドからサーバに移動することも検討中。これによりフロントエンドとバックエンドのコード重複が解消するうえ、バックエンドで使っている高度なテクノロジーもAPIに提供できる。

(3)レポートの可視化
データベースには貴重なデータが豊富に格納されているが、フロントエンドの可視化能力が低いため、長期的分析レポートが出せない状態にある。アドホックレポートの作成も簡単ではない。そこで既存ツールの活用も視野に入れ、わかりやすい可視化を目指す。また、イベントの相関関係を解析するのに役立つレポーティング機能も追加していく。

(4)SQLストレージエンジンの拡張
従来型のSQLデータベースは拡張性が悪いため、履歴データは拡張性の良い別ストレージに移していく。現在、既存のストレージ製品から、オフィシャルで推薦できるものを選定中。

(5)暗号化と認証
暗号化は製品の一部として提供すべきと考えている。サーバ~プロキシ間についてはTLS監視プロトコルを実装する予定。

これらは大きな設計変更にあたるため、現在、検討を重ねているとのこと。「Zabbix3.0」で5つの改善ポイントがどうなるのか、そのほかにどんな新機能が加わるのかなどについて、Vladishev氏は「近日公開予定のロードマップを確認してほしい」と、慎重な言葉でスピーチを締めくくった。

Zabbix Japanは、新製品・新サービスを発表

Zabbix Japan代表
寺島 広大氏

Zabbix Japan代表の寺島 広大氏からは、日本におけるZabbix Japanの活動実績のほか、Vladishev氏が詳しく触れなかった部分をフォローする形で、「3.0」への追加が濃厚となっている機能をいくつか紹介した。それによれば、暗号化やレポート作成機能、インタフェース改善などのほか、ボタンをクリックした時点での監視データを見られる機能の追加も予定されているという。細かいところでは、ログ監視データの送信精度向上などもなされるようだ。

また、仮想アプライアンスZS-V220の近日リリースが発表された。OVAファイルのインポートで「Zabbix」が利用できるというもので、特定の条件を満たしている契約ユーザーには無償提供されるという。さらに、アプライアンス用統合イベントビューワ「グローバル・ダッシュボード・サービス」の公開準備も進んでいる。従来、複数台のアプライアンスがあれば、その数だけ監視画面を開かなければならなかったが、このサービスを利用すれば、すべてのイベントを一画面で表示できる。まだ実験的サービスという位置づけだが、これから多くのユーザーが利用し、要望に対応することで、さらなる機能向上につながるだろう。

以上、Zabbix社による発表内容を中心にお届けしたが、カンファレンスではパートナー企業からのテクニカル情報や運用方法の提案、国内での活用事例を取り扱った講演など、全12セッションが展開され、盛況の内に幕を閉じた。今年9月に、本国ラトビアで行われたカンファレンス参加者が、28カ国から189人だったのに比較して、今回のカンファレンスには、ほぼ日本国内からの参加者だけで、約200名が集まった。パートナー企業による技術提案がますます盛んになれば、日本でのカンファレンスは、もっと大規模で、インターナショナルなものになっていくかもしれない。

なお、「ZabbixカンファレンスJapan 2014」の講演資料が紹介されているので、興味のある方はぜひ参照してほしい。