OECD(経済協力開発機構)の玉木林太郎事務次長は11月、日本記者クラブにて『OECD東南アジア、中国、インド・エコノミックアウトルック2015』レポートをもとに、会見を開きました。

OECD(経済協力開発機構)の玉木林太郎事務次長

ASEAN5は中期的な成長を維持、なかでもフィリピンは最も成長

東南アジア諸国の経済見通しについて玉木氏は、

『2014年の東南アジアなど新興アジア諸国は、政権交代や新政府の発足など、様々な政治的な変換に直面したが、このうちインドとインドネシアの政権交代はポジティブに捉えられている。特にインドの中銀総裁に対するマーケットの評価は高い。そうしたなか、今後の中期的な東南アジアの経済見通しは、堅調な成長を維持すると判断できる。

アジア地域のなかで、中国やインドの成長は徐々に減速する一方、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中核を担うASEAN5(インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナム)の5か国は中期的な成長を維持するだろう。なかでもフィリピンは最も成長し、インドネシアも高い成長率を持続する。

また、注目すべきは、カンボジア、ラオス、ミャンマーといった低所得の3カ国が東南アジアにおける新しい成長エンジンとして台頭してくる点だ』

と、東南アジア諸国の中期的な経済見通しが概して堅調であるとの分析結果を示しました。

東南アジアは、「温暖化リスクが突出して高い」

ただ、一方で、様々なリスク要因も存在するとし、なかでも、

『東南アジア地域は温暖化リスクが突出して高い』

と警告しました。

玉木氏は、

『気候変動によるASEANが抱えるリスクは大きい。OECDによる2060年までのシミュレーションでは、温暖化によるGDP(国内総生産)への影響は、米国や欧米では価格の上昇によりほぼ相殺される一方、東南アジアでは降雨と河川の氾濫により農産物が打撃を受けるなど、他の地域よりも突出して高くなり、対GDP比では-5%を上回ると予測される。

沿岸都市における洪水は、すでに年平均で何億ドルもの経済損失を引き起こしており、2050年までにはその額も、年間60億USドルに膨らむと予想され、成長モデルにおける大きなリスク要因となり得るだろう。

だが、東南アジア各国の気候変動に対する問題意識は低い。化石燃料に対して、各国は莫大な補助金を支出しており、インドネシアでは、政府の全支出の約15%が化石燃料補助金で占められている。こうした補助金を縮小するとともに、いち早く環境税を導入し、排出削減策と気候変動への対策を進めるべきだ』

との見解を述べました。

さらにASEANの成長を日本へ寄与させるためにはどうしたら良いのかという点において、玉木氏は、

『日本の貿易統計を輸出ベースでみると、外国との分業が進んでいない。その理由は、部品を含め全てを国内で生産できてしまうため、海外に依存する必要がない点にある。その分、他国と比べ、海外とのコネクションが弱くなる。例えば、東南アジア諸国と共に環境対策を進めるなどして、東南アジア各国との分業体制を構築すれば、ASEANの成長を日本が享受し得るだろう』

との見通しを示しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。