「The International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis」というのがこの学会の正式名称であるが、通称としてはこんな長い名前は使われず、開催年度を付け加えて「Supercomputing Conference 2014」、さらに詰めて「SC14」と呼ばれる。

SC14は、11月16日から22日に掛けてNew OrleansのThe Ernest N. Morial Convention Centerで開催された。ここでの開催は2010年以来4年ぶりである。なお、New Orleansは、カタカナでは、最近ではニューオーリンズと書かれることが多いが、日本語読みすると、これではLの巻き舌の音が入らず米国人には分からない。

SC14が開催されたThe Ernest N. Morial Convention Center。映っているバスはSC14参加者の送迎用

今回のSC14は、大会委員長のローレンスリバモア研究所のTrish Damkroger氏の挨拶で幕を開けた。

「プレナリー(Plenary)」は全員が出席する会議という意味である。SCのように大きな学会では、同時に複数の発表が行われることが多いが、プレナリーの時は大ホールを使って、その発表だけが行われ、同じ時間に別の発表は行われない。プレナリーに出席しない人もいるが、少なくとも別の発表を聞くために欠席しているということはないプログラムになっている。

次に紹介するHPC Matters! や開会の挨拶、3賞の授与などは、プレナリーとして開催された。

SC14の大会委員長のTrish Damkroger氏

HPC Matters! のプレゼンテーション

SC14のスローガンは「HPC Matters!(High Performance Computingは重要!)」で、開会の前日の夕方に、どのように我々の生活に役に立つのかというプレゼンテーションが行われた。この発表ではHPCが役立つ多くの事例が紹介されたが、紙面の都合から、一部の紹介にとどめる。

CTスキャンは有力な診断装置であるが、X線による被ばくが大きいという問題がある。最初の図は、左から、頭、胸、下腹部のCTを行った場合の被ばく量を示す棒グラフで、それぞれ、赤が通常のCT、緑はHPCを使って画像処理を行うことにより被ばく量を抑えた場合で、ほぼ、半分の被ばくで済んでいる。

下の左の図は津波による浸水のシミュレーションで、右の図はトルネードが地表に達するときの雲のシミュレーションである。発生の状況のより良い理解から、被害を減らす対策につながる。

HPCを使ったCTスキャンのX線被ばく量の低減

津波による浸水のシミュレーション

トルネード(竜巻)の着地のシミュレーション

次の図は地球温暖化のシミュレーション結果で、2030年以降になると、シナリオによって温度上昇のカーブの違いが目立ってくる。右の図は、最低の温度上昇の場合(上)と最高の温度上昇の場合(下)での2100年7月における米国各地の気温をシミュレーションで求めたもので、温暖化ガスの発生をどこまで抑える必要があるかを見積もる重要な手段である。

各種シナリオに対する世界の気温上昇のシミュレーション結果

最低の温度上昇(上)と最高の温度上昇(下)の場合の2100年の米国各地の気温

次の左上の図は、海底油田の探査の図で、多数のマイクで反射波を受け取り、海底とその下の地層からの反射波をHPCで解析し、地層の3次元地図を作り、石油が存在しそうな場所を見つける。

右上の図は、航空機の設計で流体解析が使われている部分を示したもので、この2005年の図では至る所の設計に使われ、設計の品質を改善している。ここには示していないが、1997年には5カ所くらいしか使われておらず、8年間でHPCの利用が大幅に進んで設計が高度化している。

そして、HPCは映画の製作にも使われている。興行収入1位のAvatarは約28億ドル、2位のTitanicは約22億ドルを売り上げ、経済的な波及効果も大きい。

石油探査は音波の反射波を集めて解析して地中構造を求める

流体解析を使った設計は、1997年には5カ所くらいであったが、2007年にはこの図のように、多くの場所で使われるようになった

映画の製作にもコンピュータグラフィックスが使われる。1位のAvatarは約28億ドル、2位のTitanicは約22億ドルを売り上げ、経済的な波及効果も大きい

このようにHPCは色々なところで使われ、我々の生活の改善に役立っており、まさにHPC Matters!であると言える。

開会に続いて3賞の授賞式

SCでは、Ken Kennedy賞、Sidney Fernbach賞、そしてSeymour Cray賞という3つの賞の授与式が行われる。Ken Kennedy賞は、計算処理のプログラム性や生産性の改善に対する大きな貢献、あるいは、HPCコミュニティや後進の指導に大きな貢献があった人に贈られる賞で、今年は、並列処理システムの開発とそれが主流になることに貢献したMITのCharles E. Leiserson教授に贈られた。

Ken Kennedy賞を受けるLeiserson教授

そして、Sidney Fernbach賞は、HPCの革新的な使い方を行ったという業績に対して贈られる賞で、大規模スパコンのソフトウェアシステムの開発、特に、GPU/CPUヘテロスパコンのソフト開発に大きな業績を上げた東京工業大学(東工大)の松岡聡 教授に贈られた。

Sidney Fernbach賞を受ける松岡教授

授賞直後の松岡先生

1992年にSidney Fernbach賞が設けられて以来、日本人が受賞するのは、今回の松岡教授が初めてである。

スパコンの天才と言われたSeymour Crayを記念して作られたSeymour Cray Computer Engineering賞は、革新的なHPCシステムの開発に対する大きな貢献に対して贈られる賞であり、今年はGordon Bell氏に贈られた。Bell氏はSCで授与されるGordon Bell賞の創始者であり、DECのエンジニア、後には技術担当副社長として、広く世の中に使われた多くのコンピュータを開発した。特に、PDP-6とVAX11-780の開発が重要であると評価されている。

Seymour Cray賞を受けるGordon Bell氏