香川県は10月24日、都内で「次世代に向けた希少糖の幅広い可能性と、香川でのビジネス展開」と題した希少糖に関するセミナーを開催し、希少糖の研究を長年にわたって行ってきた香川大学の何森健 特任教授がこれまでの希少糖研究の成果と今後の方向性について講演を行った。

希少糖のロゴマーク。希少糖を使った食品や飲料などが近年、あちこちで販売されるようになったこともあり、見たことがある人もいるだろう

香川大学の何森健 特任教授

希少糖は自然界に存在量が少ない単糖(糖の最小単位)で、何森教授が名付けたことで知られ、約50種類存在している。近年、その効果から松谷化学工業が希少糖含有シロップ「レアシュガースウィート」の量産工場を建設するなど、希少糖に注目が集まるようになってきたが、大量生産につながる酵素が発見された1991年当時、すでに単糖各種の名前も構造も確定しており、単糖に関する研究そのものは終わったと思われていた。しかし、何森教授が発見した酵素により単糖が環状につながることが判明。「イズモリング」と名付けられたこの環状が、単糖の鳥瞰図となり、希少糖の大量生産への道が開かれたことから、地道に研究が香川県で進められることとなった。「46億年前に地球が誕生し、40億年前に糖が誕生した。そして38億年前にバクテリアが生まれた。現在の生物は自己に都合のよい果糖、ブドウ糖を選別し、残りの糖を不要とした。糖は太陽のエネルギーを受けて植物が生み出す。それを動物が食べるというサイクルだが、そこには希少糖は存在していない。しかし、それでも地球上に少ないながらも存在してきた」とのことで、なぜ役に立たないと思われてながらも細々ながら生きながらえてきたのか。本当はどういった性質を持っているのかが気になったことがここまで研究を続けてきた背景にあるという。

生物の進化の過程において希少糖は用いられず、現在においても食物サイクルからは除外された存在。そのため自然界において希少糖は"おちこぼれ"の存在というのがこれまで長い間の認識であった

そうしてさまざまな研究者が希少糖の研究を行った結果、隕石にも似たような糖が含まれていることなども分かってきた。また、大量に摂取すれば薬にもなるし、その効果は人のみならず、植物にも効果を及ぼすことも分かってきたという。「大量生産が可能になったということは、希少糖と生物の遭遇を意味する。起こり得なかったことが起こった。何万トンというレベルで希少糖が生み出され、さまざまなものに使われるようになる。これはある種の社会実験であり、希少糖の可能性を示すものだ」と何森教授は、これまで希少糖が使われていなかった分野に希少糖が入ると何が起こるのかを調べることが今後の研究課題だとする。

希少糖の大量生産が可能となり、その性質の解明がようやく今、進められるようになったが、その結果、さまざまな効果を有している実は優秀な存在であるという認識に変わりつつあるという。しかも、その適用範囲はどこまで広がるか、まだ未知数とのこと

「希少糖が役に立つから研究を行ってきたわけではなく、何に使えるか分からないが作ってみた、というのが最初。生物の進化では起こらないことを起こしてみて、考えても予想できないことが起こっている」と何森教授は、バイオ技術の進展によりようやくその知の集積が始まったという。

香川大学農学部の秋光和也 教授

その知の集積による成果として、これまで各所で語られてきたような人の健康を促進するという分野とはまったく異なる、農業や植物への利用が期待されるようになってきた。何森教授が香川大学の学内の教員に配った希少糖に出会って、希少糖と植物の兼ね合いの研究を進めてきた香川大学農学部の秋光和也 教授の成果だ。

秋光教授は植物病理学の研究者で、微生物が植物に悪さをすることで病気にする仕組みなどを研究している。約50種類の希少糖を一滴ずつ植物に垂らして、影響を研究した結果、それぞれ性質が異なることが判明。その内の1つの希少糖であり、レアシュガースウィートにも含有されているD-プシコースを植物に吸わせると、一過性の成長調節作用を発揮することが発見されたという。これは、希少糖が植物に入るとリン酸化し、植物の背丈を制御するジベレリンの生産を促すシグナルの伝達経路に侵入し、その伝達を抑え込むためだということが詳細な研究から判明したが、これをうまく活用すると、例えば希少糖を吸わせている間だけ成長を止めておけるので、雑草の成長を抑える抑草剤として活用できる可能性などがあるという。

植物の生長抑制作用実験の様子と、その原理の概要

D-プシコースを用いて実際に成長抑制を行った植物。D-プリコースを吸わせていない部分は普通に成長しているが、吸わせている部分はほとんど成長していない。ちなみに、単に成長伝達物質をせき止めているだけなので、D-プシコースを与えることを止めると、一気に成長が進むという。そのため、逆に従来よりも大きく成長する可能性もあり、そうした方面での研究も行っているという

ちなみに地球上には約20万種の植物があるが、ズイナという植物だけが希少糖の1種「D-プシコース」を体内で生成しているという。しかもズイナは成長抑制効果を受けずに普通に成長するという特長がある。日本にも自生しているが、栽培が難しく、香川大学が地域と協力してズイナの培養を行っているという。

"植物のシーラカンス"とも称される「ズイナ」に関する研究も進められている。ズイナはD-プシコースを体内に含むが成長が抑制されることはない。秋光教授によると、濃度のバランスが絶妙で、おそらくこの濃度が上がると、自分自身の成長も抑制されることになるのだろうと推測されているという

香川県知事の浜田恵造氏

現在、香川県は成長戦略の中でも希少糖を5つの重点プロジェクトの1つとして掲げ、希少糖ホワイトバレープロジェクトと称して、産学官の連携による研究開発とブランドの確立を進めている。拠点化も進めており、同県知事の浜田恵造氏は、「世の中への影響を考えた場合、iPS細胞にも匹敵するものと考えている。実際、血糖値の上昇抑制や抗がん作用、アンチエイジングなどへの効果があるという研究なども報告されているが、世界中を探しても香川県だけが希少糖を作るノウハウを有しており、それが有意性となり拠点としての意義を出すことにつながる」と説明するほか、何森教授も「希少糖を作り続けることが拠点となるということ。オンリーワンの技術で作り続けることが基本的な方針になる」と援護。希少糖に興味がある人や企業や、香川県に来てもらいたいとした。

希少糖研究・生産の世界的拠点として香川県が成長することで、希少糖ビジネスを行うためには香川県に行く必要がある、というスキームを作り上げることが県をあげての目標となっている