『ダークナイト』『インセプション』で知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作『インターステラー』が、11月22日(土)に日本公開を迎える。『インターステラー』は"星と星との間"を意味する言葉で、地球環境の変化と食糧飢饉で人類の滅亡が近づく中、移住可能な惑星を探しに宇宙へ旅立つ壮大な冒険と、運命を担うことになった男と娘の感動的な絆のドラマが描かれているという。秘密主義で知られるノーランらしく今回も内容の多くはまだ謎に包まれているが、公開を前に、人類が太陽系を離れてほかの惑星へ移住するというストーリーに、現代の科学がどの程度近づいているか、宇宙ライターの目線で検証する。

マシュー・マコノヒー主演『インターステラー』

移住できる新惑星はいずれ見つかる? 研究進む系外惑星

太陽は、自ら輝いている星、つまり恒星。私たち人類が住む地球から一番近い恒星が太陽である。そして、太陽以外の恒星の周囲を回っている惑星を、系外惑星と呼ぶ。『インターステラー』では、系外惑星の探査が描かれているようだ。太陽系に惑星があるのならば、ほかの恒星にも地球のような惑星があると考えられる。系外惑星が存在するという予想は古くからあり、観測も長い間行われてきた。惑星は恒星に比べて小さく、また、自ら輝かない。そのため、系外惑星を地球から直接観測するのは非常に難しいのだ。

恒星が惑星を持つ証拠を得るために、さまざまな方法が考案されてきたが、多くの系外惑星を発見することは難しかった。しかしその後、恒星の前を惑星が通り過ぎる時に生じる明るさの周期的な変化をとらえる観測手法が確立された。2009年3月に打ち上げられたアメリカのケプラー宇宙望遠鏡は、この手法で系外惑星の候補を見つける専門の衛星である。その観測の成果はめざましく、4000個以上もの系外惑星候補をリストアップ。それらの惑星候補を検証し、現在までに3000個以上の系外惑星が見つかっている。

地球に似た系外惑星としてよく知られているのが、地球から18光年離れた「グリーゼ581g」。質量は地球の3倍程度と近い上、恒星から適度な距離にあり、生命に不可欠な水が液体で存在できる温度の範囲に入っている。観測された中では、生命が存在する可能性が最も高い系外惑星とされたが、その後の観測でグリーゼ581gは実際には存在しないとする意見も出ており、現在も議論が続いている。

系外惑星についてさらに多くの知見を得るべく、日本も参加するTMT(30メートル望遠鏡)が2022年の観測開始を目指し、ハワイのマウナケア山の山頂に建設中である。ほかにも、ハッブル宇宙望遠鏡の後継であるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、チリに建設予定のGMT(巨大マゼラン望遠鏡)といった計画も進行中で、これらは系外惑星の直接観測、とりわけ大気の存在やその組成について、そして、生命の生存に適した領域に存在するか、これまで以上に詳しく知る手助けになるだろう。人間が住める系外惑星の発見が、近い将来実現するかもしれない。

前人未到の地への冒険と人間ドラマを描く『インターステラー』

本作でも描かれる! 惑星間移動の鍵を握るワームホールとは?

さて、人間が居住可能かもしれない系外惑星が見つかったとして、次はそこへどのようにして行くかが大きな課題となる。現在のところ、人類がもっとも遠くまで送った人工物はNASAのボイジャー1号である。1977年9月の打ち上げから37年かけて、地球から約190億キロ、地球と太陽の距離の127倍に到達した。これは、太陽から最も遠い惑星である海王星までの距離の約4倍であり、光なら17時間以上かかる遠さである。それでも、宇宙の広さからすればほんのわずかな距離でしかない。仮にボイジャー1号が太陽から一番近い恒星、4.4光年先にあるケンタウルス座アルファ星をまっすぐ目指した場合、ボイジャー1号の現在の速度は秒速16キロであるため、到着には8万年もかかる計算になる。8万年かけてもすぐ隣の恒星までしか行けない現在の技術では、それよりもはるかに遠い系外惑星への人類移住など現実的ではないのだ。

それでは『インターステラー』の登場人物たちは、どのようにして系外惑星へ旅をするのだろうか。ヒントとなるのは、製作総指揮の一人に、ブラックホールや重力理論の研究で知られる物理学者のキップ・ソーンが参加していることである。彼はカール・セーガンが執筆したSF小説『コンタクト』に、ワームホールによる星間旅行のアイデアを提供した。『コンタクト』は1997年にジョディ・フォスター主演で映画化され、『インターステラー』の主演のマシュー・マコノヒーも、ジョディ・フォスターの相手役として出演している。ワームホールとは、離れた空間どうしを結ぶ近道である。普段はリンゴの表面しか移動できない虫を考えた時、リンゴの内部を通って別の場所へ出られる虫食い穴(ワームホール)があれば、まさに近道となる。アインシュタインの一般相対性理論から存在が予言されたが、現在のところ実際に観測されたワームホールはなく、どのような自然現象がワームホールを生み出すかもわかっていない。

とはいえ、ワームホールが将来にわたって見つからないとは限らない。ブラックホールも、当初は存在が予言されたものの、実在するとは考えられていなかった。しかし、X線天文衛星の登場で実在が証明され、現在では多数のブラックホールが観測されている。ワームホールについても、観測する手法の研究が現在も進んでいる。余談だがキップ・ソーンは、ワームホールを利用したタイムトラベルも、理論上可能であることを示している。高速で移動する物体は時間の流れが遅くなることを利用し、ワームホールの入り口と出口のうち、一方だけを光に近い速度で移動させて、過去への扉にするというものだ。これは、ワームホールが作られた時点より過去には移動できない種類のタイムマシンであるため、われわれが今いる現在にタイムトラベラーが来ない理由も説明できるという。

現在の研究では、ワームホールは非常に不安定な存在であり、たとえ実在したとしてもすぐに消滅してしまうと考えられている。キップ・ソーンは、ワームホールを光や物質が通れるよう維持するために負のエネルギーを持つ物質、「エキゾチック物質」を用いるという考えを示した。エキゾチック物質は理論上の存在で実在は証明されていない上、どのようにすれば作れるのかも現在のところまったく不明である。それでも、『インターステラー』では、ワームホールを使った"惑星間移動"が描かれることだろう。おそらく実際の科学上の制約を乗り越えて、われわれが見たことのない世界を描き出してくれるに違いない。

『インターステラー』場面写真とメイキング写真

「僕は観客に、このストーリーが巨大なスクリーン上で展開するのを観て、のめりこんでほしい。僕はすばらしいキャストと独創性にあふれる映画制作のパートナーたちに恵まれた。僕らは全員が団結して、この映画のどの瞬間もリアルに感じられるように奮闘した。なぜなら、宇宙の旅を描く大作映画を作る喜びは、観客を一緒に宇宙に連れていくことにあるからだ」と語っているクリストファー・ノーラン監督。理論上証明できるリアルな科学を描いた彼と、アカデミー賞俳優たちが織りなす壮大なストーリーにも期待したい。

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