はじめに

今日では、世界で生産される約8,000万台以上の自動車において、従来の12V系バッテリー・システムが依然として、自動車に電力を供給するための主要な技術です。自動車の電子化の流れは、従来の12V系バッテリー・システムに対して電力需要の負担をますます重くし、負荷全体では、簡単に3kWを超えています。デジタル・ビデオ、タッチ・スクリーンなどの革新的なインフォテインメント・システムや電動パーキング・ブレーキ(EPB)、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)のような高度な安全機能。そして、電動パワー・ステアリング(EPS)、スタート・ストップ機構のマイクロ・ハイブリッド、48V系ボード・ネット構成などの燃費の改善機能 ―― これらのすべてが、電力需要を一段と高いレベルに押し上げます。一方、主にガソリンの消費量を削減するための厳しいグローバルな要求によって、ハイブリッド車や電気自動車の生産は、速いペースで上昇しています。これらは、12V系バッテリー・システムよりも大きな電力を必要としています。どのようにシステムの効率/電力密度の双方を改善し、システム・コストを削減するかが、車載用電子システムの設計と、将来の業界のニーズとを確実に一致させるための鍵になります。

まず、自動車の設計者がパワーMOSFETのパッケージを選択するときに直面すると思われる重要な課題を調べ、次に、次世代パワー・パッケージへの要求について説明します。車載品質の新しい5mm×6mmのPQFNパッケージが導入され、そのユニークな特徴が、どうして将来の車載用電子システムの方向性に沿っているか、について詳細に説明します。

主流のパワーMOSFETパッケージの制約

上述したように、このジレンマは、自動車システム内の電力需要の増加と、限られたスペースとの間で浮き彫りになります。エネルギー資源(いわゆる「電力密度」と呼ばれます)の所定の体積/質量から、どれだけのエネルギーを引き出すことができるかというテーマに対しては、基本的には物理的な限界があります。これは、今日、多くの自動車メーカーが、システム特性を改善するために努力している重要な領域です。何百個もの車載用半導体、特にパワーMOSFETが、現在の自動車に使われています。自動車システムで使われている主流のパワーMOSFETパッケージを図1にまとめました。高性能アプリケーションのための最も人気のある2種類のパッケージは、D-PaKとD2PaKです。両方とも信頼性が高いことが明らかになっており、製造工程に対応しています。しかし、この2つのパッケージは、供給できる電力密度に制限があります。一例としてD-PaKを取り上げると、面積約65mm2(6.5mm×9.9mm)の大きさのD-PaKでは、リードフレームの設計ルールに基づいて、最大で約10mm2のシリコンに適合するだけなので、シリコン対実装面積の利用率が非常に低く(約15%)、その特性は制限されます。D2PaKは、シリコン対実装面積の利用率が約20%とわずかに良いのですが、依然として、厳しい自動車業界の要求を満たすためには、より多くの電力を絞り出すための更なる改善が必要です。

図1:実装面積対パワー・パッケージ特性

したがって、電力特性の良い将来のパッケージに対する主な希望リストは何か?理想的には、電力特性の良いMOSFETパッケージとは、以下のような特徴を持っているべきです。

  • シリコンのサイズとパッケージ・サイズとの比率が高い
  • パッケージの寄生インダクタンスと抵抗成分が小さい
  • 大電流の取り扱いが可能
  • 自動車の製造工程に準拠
  • 価格競争力がある

アルミ・リボン・ボンドを備えた5mm×6mmのPQFNが大電力密度を実現

自動車業界は一般的に、変化が早い民生機器やコンピュータの業界とは異なり、成熟した技術を好みます。その中で、新しいパッケージは非常に早いペースで採用され、この現象の理由は、主に信頼性によるものです。自動車業界は、すでに他の業界で実績のあるものを利用します。数年前、この傾向はシステムの面積と高さを低減した上で、同様の特性を維持するためにD-PaKから5mm×6mmのPQFNパッケージへと切り替えたコンピュータ業界で見られており、現在では、ますます多くのMOSFETベンダーがPQFNパッケージを厳格な車載部品の品質規格(例えばAEC-Q101)に準拠させ、自動車分野に導入するための一歩を踏み出しています。

寸法が6.5mm×9.9mm×2.3mmのD-PaKと比べて、5mm×6mmのPQFNは5mm ×6mm×1mmとすべての寸法で、はるかに小さいフットプリントですが、一方で、D-PaKよりも大きな最大チップ・サイズを格納することができ、シリコン対実装面積の比をD-PaKの約15%から40%以上へと改善します。この堅固な基本的特徴により、5mm×6mmのPQFNの良好な特性が実現します。

今日では、大幅に改善されたシリコン技術を使うMOSFETが処理できる最大電流は、もはやシリコンによって制限されるのではなく、多くの場合パッケージによって制限されます ―― 特にソースのワイヤー・ボンドが処理できる最大電流に関係します。伝統的なアルミのワイヤー・ボンドは、単純、かつ安価で、成熟した技術です。ただし、このワイヤー・ボンド技術には本質的な欠点があります。すなわち、大電流能力を実現するためには、複数のボンディング・ワイヤーを並列にする必要があり、これによって、信頼性への懸念が大きくなります。アルミ・ワイヤー・ボンドの小さな断面積は、寄生の抵抗成分やインダクタンス成分を大きくし、特に、DC-DCコンバータの設計のようにスイッチング周波数が高い用途において、電圧のリンギングや損失の増加を招くでしょう。

MOSFETのサプライヤの中には、チップ上のソース領域をピンに接続するために、銅クリップを採用している企業があります。この銅クリップは、寄生の抵抗成分やインダクタンス成分を低減し、優れた電流処理能力を維持することができます。ただし、銅クリップは、比較的高価なソリューションです ―― それは、表面にはんだ付けできる金属(SFM:Solderable Front Metal)の層を追加するために、追加のシリコン・プロセスが必要になり、すべてのシリコン・サイズに対するクリップ・サイズが定義される必要があり、パッケージの加工コストが増加します。

インターナショナル・レクティファイアー(以下、IR)は、ソース・ピンにアルミ・リボン・ボンドを備える車載品質のPQFNを製品化しました。以下の図2にアルミ・リボン・ボンドの主な利点をまとめました ―― 1つのリボンの大きな断面積は、特に、温度サイクル信頼性試験において、優れた信頼性と大電流処理能力の両方を実現することができます。例えば、1つの80 mil×6 milのリボンは、6本の10 milのワイヤー・ボンドと同じ電流処理能力を得ることができました。

図2:アルミ・リボン•ボンドの主な利点

従来のワイヤー・ボンディングの方法と比較して、リボン・ボンドは、同様の低コスト構造を維持したまま、チップを搭載していないときのパッケージ抵抗(DFPR :Die Free Package Resistance)を0.7mΩ程度低減し、図3に示すように、3mΩのMOSFETに対して全体のオン抵抗を20%程度改善します。まとめると、リボン・ボンド技術は、銅クリップから得られるようなベンチマーク特性を実現すると同時に、低コストと製造の柔軟性を維持することができます。

図3:チップを搭載していないときのパッケージ抵抗の比較

拡張リードにスズめっきを備えた5mm×6mmのPQFNが検査可能なはんだ接合部を形成

自動車の工程と製造のエンジニア向けに、パワー・パッケージを選択するための1つの重要な要件は、PQFNパッケージがプリント回路基板にはんだ付けされたときに、目に見えるはんだ接合部を識別するシステム向けの光学式自動外観検査(AOI)を可能にすることです。IRのPQFNは、拡張リードで設計されています ―― 通常のPQFNパッケージと比べて、リード端がパッケージ本体から外側に0.15mm突き出し、それが良好なはんだ付け特性を持つことになります。さらに、図4の左側に示すようにリードフレーム製造プロセスにハーフ・エッチング工程を導入し、パッケージ側面のリードフレームがスズでメッキされています。ソルダリング時に、良好なはんだフィレットの形成を確実にします。

これは、検査可能なはんだ接合部(ISJ:Inspect-able Solder Joints)の形成を促進します。図4の右側に示すように、このISJを形成することができ、はんだリフロー工程後のプリント回路基板上で視認できます。このはんだフィレットのサイズと形状は、リフロー・プロファイル、はんだペースト、ステンシル開口、プリント回路基板のレイアウトなどに依存することに注意ください。

図4:めっきされたリード端を備えた拡張リード

COOLiRFET(TM) PQFNの主なアプリケーション

耐圧40Vの車載用COOLiRFET(TM)シリコン技術の新たなベンチマークとなるオン抵抗特性を考慮すると、IR社のCOOLiRFET(TM)の5mm×6mmのPQFNプラットフォームは、さまざまな従来の12V系バッテリー・アプリケーションに最適です。例えば、新たに製品化されたAUIRFN8403TRの場合、PQFNパッケージに収めた耐圧40V、オン抵抗3.3mΩの単一シリコン・チップは、ステアリング、および、燃料や水のポンプなどの3相モーター制御のアプリケーションに最適です。一方、デュアル・シリコンPQFNパッケージは、パワー・ウインドウなどのHブリッジの用途に最適で、Hブリッジを構成するために4個のD-PaKが必要になることと比べて、わずか2個のデュアル・シリコンPQFNで済みます。これは、D-PaKのソリューションと比べて、コストとスペースを大幅に削減します。1チャネル当たり40V、5.9mΩのデュアル・シリコンPQFNであるAUIRFN8459TRは、自動車業界におけるベンチマークとなるオン抵抗を実現しています。

図5 :COOLiRFET PQFNの主な用途

結論

電力密度は、確かに、自動車エレクトロニクス業界における重要なキー・ワードです。シリコン技術は、今日では非常に成熟しており、半導体産業は、システムの電力密度を向上させるために主に2つの分野に期待しています。すなわち、新しい材料技術の革新と、5mm×6mmのリボン・ボンドPQFNのような新しいパワー・パッケージです。新しいパワー・パッケージは、高い効率、高い電力密度を実現し、システム・コストを低減します。システム・エンジニアやMOSFETのパイオニアにとって、ベンチマークとなるパッケージです。

著者プロフィール

Jifeng Qin
インターナショナル・レクティファイアー オートモーティブ・プロダクト事業部 シニア・プロダクト・マネージャー
本レポートは、「How2Power」で2014年8月に掲載されたコンテンツをマイナビニュースで再編集したものです。