Microsoftが10月21日(米国時間)に公開したWindows 10テクニカルプレビューのアップデートは、OS本体の変化もさることながら、今後のアップデート戦略に方針を及ぼすシステムを採用した。Windows 10はサブスクリプション方式で提供されようとしているのだろうか?

スピーディなアップデートを実現するRing Progression

Windows FundamentalsチームのGabe Aul氏は公式ブログで、「Ring Progression(連続する輪)」と呼ぶ仕組みを採用したと述べた。

「Ring Progression」と呼ばれるWindows 10のビルドリリース構造

上図のように、Microsoftの開発陣は新たなコードを書き、問題が発生した部分を修正するコードを結合して、コンパイルしたビルドを毎日生成している。これを「Canary Ring(カナリアの輪)」と呼んでいるそうだ。そのビルド結果を次のOSG(Operating System Group)メンバーに渡し、仕様が正しく反映されているか検証を行う。

OSGの検証を通過したビルドは数万人のMicrosoft社員がテストを行い、安定性を確認したうえで、Windows Insider Program参加者に手渡される。つまりWindows 10テクニカルプレビューを試している我々だ。関係者に取材したところ、日本マイクロソフト社内でもWindows 10テクニカルプレビューを業務に利用する許可が一部出ているという。

ビルド9860以降はさらに新たな輪が加わる。そのヒントは「Preview builds」に用意されたドロップダウンリストにあった。「Fast」「Slow」の2項目を用意し、「更新頻度の高いビルドをWindows Update経由で入手したい場合は前者、コミュニティの間で発見した問題の回避方法を踏まえて、安全にWindows 10テクニカルプレビューを使いたい場合は後者を選択してほしい」とAul氏は述べている。

「Preview builds」へ追加されたドロップダウンリスト。ここからWindows 10テクニカルプレビューの更新タイミングを選択できる

「Fast」「Slow」をRing Progressionに当てはめた図。前者を選択した場合はよりスピーディに最新ビルドを試すことが可能になる

余談だが、このRing Progression自体はさほど目新しいものではない。多くのOSは社内もしくは一部関係者を含めて、同様の開発工程を行っているからだ。初代Windows NTの開発指揮を執ったDavid N. Cutler氏が開発チームに「ドッグフードを食べろ」と言って、Windows NTの開発進捗を加速させたのは有名な話である。

Windows 10でサブスクリプションモデルは導入できるか?

さて、ポイントはテクニカルプレビューにもアップデートシステムを導入した点だ。確かにWindows 8.1 UpdateはWindows Update経由でリリースし、過去のService Packも似たような様式でアップデートファイルを提供してきたが、いずれもWindows Updateの更新履歴にその内容が示してきた。だが、今回は様子が異なる。過去の履歴はクリアされているのだ。

ビルド 9860適用直後のWindows UpdateからView Update History(更新履歴の表示)を開いた状態。過去のセキュリティ更新プログラムなどが消えている

ビルド9860のアップデートプロセスを踏まえると、ユーザー情報やシステム設定など一部情報をリカバリーしつつも、新たなインストールイメージファイルを用いたリフレッシュに近いのである。この仕様変更がWindows 10テクニカルプレビューに限るものなのか、現時点で判断するのは難しい。

だが、その先にはWindows 10をOffice 365のように、サブスクリプションモデルとして提供することを望むMicrosoftの姿勢が見えてこないだろうか。多くの識者はコンシューマーユーザーや法人ユーザーに対して異なるモデルを導入すると推測する。筆者も同様の考えだが、日本国内に限れば、欧米と同じモデルをそのまま適用できるかは疑問だ。プレインストールモデルが好まれる日本では、「Office Premium」や「Office 365 Solo」は、米国版のリリースから約3年の期間を要している。

さらに、OS Xを筆頭にiOSやAndroidがアップデート料金を無料にしている状況も大きい。AppleはMacやiPhoneといったハードウェアなどから収益を得るビジネスモデルを貫き、Androidはデバイス上の広告から開発コストを賄っている。

近年のMicrosoftは柔軟な姿勢で他社プラットフォームへ積極的に参加しているが、OSという重要製品を軽んじることは考えられない。Windows 10のリリースに至るまでには、シェア争いに打ち勝つためのアップデート料金無料化(もしくは極め安価な設定)や、安定した収益の確保を可能にするサブスクリプションモデルの導入など、判断を下さなければならない問題が多数存在する。

仮にWindows 10でサブスクリプションモデルを導入するとしても、最初は法人ユーザーを対象とし、コンシューマーユーザーは従来のプレインストールやオンライン購入となるだろう。オンプレミス型のソフトウェアが終息しつつある今、Microsoftは岐路に立たされている。

阿久津良和(Cactus)