吉岡徳仁
1967年生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所設立。代表作には、紙の椅子「Honey-pop」、繊維構造の椅子「PANE chair」、Swarovski Crystal Palace「STARDUST」「Stellar」、au design project「MEDIA SKIN」「X-RAY」などがある。ISSEY MIYAKEのショップデザイン/インスタレーションを20年近くに渡り手がけるほか、エルメス、BMW、MOROSO、トヨタといった世界有数の企業とコラボレート。数々の作品がニューヨーク近代美術館(MoMA)、ポンピドゥー センター、ビクトリア アンド アルバート ミュージアム、クーパー ヒューイット国立デザイン博物館、ヴィトラ デザイン ミュージアムなど世界の主要美術館で永久所蔵されている。(c)MASAHIRO SANBE

世界的なデザインの祭典(家具見本市)である「ミラノサローネ」。そんな大舞台で活躍しているデザイナーや企業を東京ミッドタウン内に"逆輸入"する企画「Salone in Roppongi」が、ミッドタウン主催のデザインイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」の一環として、10月26日まで開催されている。

この企画を手がけたのは、毎年ミラノサローネにおける作品発表を行い、世界的に高く評価されている日本人デザイナー・吉岡徳仁氏。同企画では、吉岡氏が自身の作品を用いて構築したラウンジ「SPARKLE LOUNGE」が公開されており、来場者は実際に同氏の手がけた作品に触れることができる。

今回は、「Salone in Roppongi」でも存分に見ることのできる吉岡氏の"素材"に対する並々ならぬこだわり、日本企業と海外企業の違い、そして世界で活躍するために必要なことのエッセンスを語っていただいた。

――今回の「Salone in Roppongi」では、吉岡さんがミラノサローネで発表されたスツールおよびサイドテーブル「SPARKLE(スパークル)」を用いた「ラウンジ」をデザインされましたね。単に作品を展示するのではなく、ラウンジを構築したのはなぜですか?

「カルテル」社(プラスチック家具メーカー)のSPARKLEというスツールとサイドテーブルは、2年前のミラノサローネでプロトタイプを発表したものです。国外では2014年の春から販売されていまして、最近日本でも発売となりました

これまで、スワロフスキー社とのプロジェクトなどを通じて、クリスタルなど「輝き」の研究をしてきましたが、それをプラスチックによって表現できないかと思い、レンズ効果のある造形をデザインしました。

――プラスチック家具メーカーの「Kartell(カルテル)」から発表されたこのサイドテーブルは、プラスチックでありながらクリスタルガラスのようなきらめきがありますが、このできばえを実現するために行った工夫などはどういったところにあるのでしょうか?

ふちの部分の厚みです。よく見ると、ギザギザの部分の厚みをランダムにしてあります。座面に入ったラインも、ねじりの角度を変えた物をも何十種類も作り、最終的にこの形状になりました。

一見すると無造作に入れているようにも見えるラインや縁の厚みも、多数の試作を重ねて作られている

――それでは、モックアップも何個も制作されたのでしょうか?

そうですね。先ほどランダムにとは申し上げたのですが、厚みの変え方も一定の規則に基づくものではなく、研究を重ねて見つけ出した最適なものとなっています。均一なカッティングでは、このようなきらめきは生まれません。

―― 今こうしてお話を伺っている間にも、多くの方がラウンジ内でスツールに腰掛けたり、眺めたりしていらっしゃいます。先ほど、直接吉岡さんにスツールの素材を質問した方もいらっしゃいましたし、生の声からも、プラスチックらしからぬたたずまいであることがわかります。やはり、こうして人に触っていただくというのがラウンジの最大の狙いなのでしょうか。

やはり、ミッドタウンの中にあるスペースなので、美術館とは少し異なるかたちで、人が集まり、デザインと触れ合う機会になればいいのではないかなと。実際、皆さん「座ること」はとても好きだと思いますし、実際に座ったり、写真を撮っていただくことで、面白い空間が生まれるのではないかな、と思いました。

ちなみに、この展示ではふたを閉めていますが、実際に使う場合は中に物を収納することができるようになっています。物を入れることよって、また表情も変わってくるかと思います。

――「SPARKLE」に限らず、吉岡さんのデザインされる製品や空間は、素材への強いこだわりが特徴だと感じます。ちなみに、今現在、吉岡さんが注目している素材は何かありますか?

新素材というよりは、昔からある素材に興味があります。昔からある素材を新たな切り口によってよみがえらせることができればと考えています。

――話は変わりますが、デザインの仕事をするにあたり、これは必需品だというものはありますか?

特にないですね。そういったことにあまりこだわりはありません。鉛筆の線は好きですが、特にあの鉛筆でないと、ということは全くない。あるものを使っています。

――なるほど。その一方で、仕事場は蔵をご自身で改装された建物をお使いだとうかがいました。仕事場も広く捉えると仕事道具のひとつであるように思うのですが、自身の手で作り上げた理由を教えていただきたいです。

現在の仕事場については、仕事のための場所という性質はありながらも、ひとつの作品として作った面があります。

――特に企業からの依頼などではなくて、ご自分が身を置く場所としてそれも作品にしたかったということでしょうか?

はい。新しいデザインを提案したかったという思いがありますね。